医療崩壊はこうすれば防げる!

医療崩壊はこうすれば防げる! (新書y)

医療崩壊はこうすれば防げる! (新書y)


 医療崩壊を防ぐために積極的に発言を続けている本田宏先生の新刊である。医療崩壊の深刻な現場で戦っている複数の医師が分担執筆している。各章から心に残る文章を書き留める。


第1章 姥捨て山「後期高齢者医療制度」は即刻廃止に!
 澤田石順

 この二つの提訴*1は、私が医者だからこその意味がある。患者が訴訟を起こしても、その人しか救われないが、医者がやれば行政訴訟となり、もし違法だと判断されれば、告示を差し止める裁判所命令が出る。その効果はすべての患者に及ぶ。医者が行動を起こすことによって、報道機関や政治家などを動かす力になる。私が裁判を起こしたのは、そうした効果を期待したからである。


第2章 救急車「たらい回し」の解決策はこれだ!
 有賀徹

 救急の現場は、前代未聞の最大瞬間風速にさらされている。いつまでこの激しい風速に耐えられるか予想もつかない。実際に耐えられなくて倒れていくところがどんどん増えている。救急医療の現場には、医療界全体の問題が噴出し、吹きだまっているといっていい。
 それでも医療者は120%のフル稼働でがんばってきた。しかし、がんばるにも限界がある。ふと気がつくと、あちこちで診療科ないし病院が閉鎖され、現場から医師が立ち去っていたというのが現状だ。
 このような状況で近隣の病院が倒れると、大変な事態となる。千葉県のある病院の救命救急センター長が「うちの病院の周囲は焼け野原だよ。あと一件でも潰れたら、うちも終わりだ」といっていた。ドミノ倒しのように次々とその地域から急性期病院がなくなって、救急搬送されてくる患者が20%も増えたという。
 果たしてこの「焼け野原」を再建する道はあるのだろうか。


第3章 「絶滅危惧種」産科の崩壊を防ぐ現場からの提言
 桑江千鶴子

 これらは医療ミスではない。医師の力でどうしようもないことがあることを理解してもらうしかない。もともと医療は、ある意味で患者を傷つけることなしには治療はできないのである。医療側がミスをしなければ、すべての病気が治り、母体死亡がゼロになるわけではないのである。産婦人科は、50年で母体死亡を80分の1にしてきたが、その結果「お産の安全神話」がはびこり、母体が死亡したり、お産の結果赤ちゃんに障害が起きたりすると、医師がミスをしたのではないかと国民に思われるようになってしまった。「自分で自分の首をしめている」と他科の医師にいわれているような状態になってしまったのである。


第4章 「医師不足=医療不在」の地域医療はこう守れ!
 樋口紘

 大晦日から元旦にかけて、心臓血管外科チームが二時間離れた沿岸から運ばれてきた大動脈瘤破裂急患の手術をした。その家族は院長室までやってきて、「大晦日の夜に岩手県に手術をしてくれる病院があって本当に助かった」と涙で感謝した。
 後でそのことを、手術をした中堅の医師に伝えたところ、「報われた!」と寝不足の顔に、私がこれまで見たことのない晴れやかな笑顔を見せた。
 しかし、その心臓外科医は二年後に、疲れきって病院から去り、開業してしまった。院長として何をしてやれたのだろう。使い捨てだったのではないかと、今でも気に病んでいる。
 これ以上、勤務医たちを去らせてはいけない。地域医療の確保は待ったなしである。


第5章 医療難民・介護難民はこうすれば解決できる!
 安藤高朗

 それにしても、厚労省には国民の健康と生活を守る使命があるはずだ。いくら経済財政諮問会議財務省からの圧力があるからといって「削減ありき」の財政至上主義で医療改革を進めては、国民の健康は守れない。厚労省も本当はこれほどまでの療養病床の削減を実現したかったわけではないと思う。財務省の医療費抑制策のため、行政の立場で、その枠のなかで政策を立案せざるを得なかったのだろう。だが、もっと財務省や議員とコミュニケーションをとって、国民、とくに高齢者の立場から、今後のあるべき姿を描き、政策を立案、実行すべきである。それが行政の本来の姿ではなかろうか。厚労省には本来の役割を自覚し、長期的な視点に立った医療改革を行ってもらいたい。


第6章 小児科医療崩壊を防いだ実例を見よ! 〜絶望の辞職宣言からの奇跡〜
 和久祥三

 自分たちのエゴで「あれも欲しい、これも欲しい」と言い出すと、対立したり混乱したりするばかりで、結局、何も手に入らない。行政も動かせないし、継続的な医療の提供も受けられなくなる。賢い市民は、賢い議員を選んで、身の丈にあった小奇麗な病院を築き、初心を忘れぬ医師たちが心安らかに集い、初心を忘れた医師にもそれを思い出させるような地域にする。そんな風土作りをしなければならない。実は丹波の住民レベルでは、もうはじまっている。その努力が実り、丹波にまた奇跡が起こり、その連鎖が全国に広がることを信じたい。


第7章 医療紛争の解決策はこれだ!
 上昌広

 そしてなによりも、安全な医療を提供するためには、米国の「人は誰でも間違える」という教訓を生かして、医療者の抜本的増員と過重労働の解消が必須である。医師はもちろん病院職員や看護師、薬剤師を増やし、フレックスタイム制や短時間労働などを導入すること。また医師の投薬の指示を、看護師、薬剤師のダブルチェックを経てから患者に投与する体制を確立するなど、医療者それぞれの専門性を活用できる役割分担・専任体制を整える必要がある。
 持続可能な医療システムを構築するには、医療の適切な情報公開と関係者の熟議による合意形成が不可欠だ。今、拙速な議論で厚労省の検討会案が通れば、すでに崩壊が進んでいる日本の医療は、今後数年と持たないかもしれない。


第8章 日本医療の生き証人の声を聞け! 〜厚労省への遺言〜
 高岡善人

(本田宏先生にあてて)
 あなたの活躍は医師のみでなく、日本国民を救うために誠に貴重なものです。私は出藍の誉れの高い名後継者を得て、敬服もし、安心もしています。ただ、超多忙の毎日、いつも私はあなたの体のことを心配しています。

*1:「重症リハビリ医療日数等の制限差し止め請求」(第一次訴訟)、「後期高齢者等リハビリ入院制限等の差し止め請求」(第二次訴訟)