ラーゴムとオムソーリ

 昨日に引き続き、日本医師会主催のシンポジウム(2008年3月7日)、『平成19年度医療政策シンポジウム 脱「格差社会」と医療のあり方』を取り上げる。東京大学大学院経済学研究科教授、神野直彦氏の講演、脱「格差社会」戦略と医療のあり方をご紹介する。図表3(8ページ)が講演のまとめになっており、引用する。

1 ラーゴムとオムソーリ
・ラーゴム(lagom)=ほどよい
 貧と富
 公と私
・オムソーリ(omsorg)=医療などの社会サービス(social service)
 「悲しみを分かち合う」、気にかける


2 9.11と「小さな政府」論
 格差と社会病理の拡大
 誰も幸福にしない
 トリクル・ダウン理論と「イースタリンの逆説」


3 ファウンテン理論と「再分配のパラドックス
 垂直的再分配よりも水平的再分配
 対価原則と等価原則
 社会保障原理と民間保険原理


4 医療改革のアジェンダ
 欲望とニーズ
 ラーゴムとオムソーリ
 市場原理から「分かち合い原理」へ


 聞きなれない言葉が多い。神野直彦氏独特の言葉使いもあれば、経済学では、普通に使用されているのかもしれないが、部外者からすると意味が分からない用語もある。講演内容自身は、用語説明も含めて、噛み砕いて行われており、理解しやすい内容となっている。しかし、こうして、まとめを記載しようとすると、用語の説明から入る必要があり、難渋する。


 今回は、「ラーゴム」「オムソーリ」という言葉を取り上げる。


 神野直彦氏は、「ラーゴム」と「オムソーリ」という2つのスウェーデン語を好きな言葉として上げている。それぞれ、次の意味がある。

  • 「ラーゴム」: 「ほどほど」、「ほどよい」、「中庸の徳」という意味。極端に貧しくなることも嫌い、極端に豊かになることも嫌いながら、いたわり合って生きているスウェーデン国民の価値観を表す。「ほどよくバランスを取る」という意味である。貧と富のバランス、公と私のバランスをとろうということ。
  • 「オムソーリ」: 社会サービス(social service)と訳されている。医療、保育、高齢者福祉という福祉、さらに教育までを含む。「悲しみを分かち合うこと」、「お互いにかばい合うこと」という意味がある。


 「さりとは陽気の町と住みたる人の申しき」というブログに、ラゴームとオムソーリというエントリーがある。そこでは、この言葉を、『「おたがいさま」と助けあいながら、「ほどほど」に暮らしていく』、という風に表現している。日本語の語感として最も適切に思える。


 神野直彦氏は、講演のまとめの部分で、「分かち合い原理」という言葉を使っている。この言葉もラーゴムとオムソーリという言葉のニュアンスを上手に伝えている。


 市場原理で行うべき分野とそうではない領域を明確に区別することが、格差社会を脱出する鍵を握る。医療とは「分かち合い原理」で運用する代表的分野であり、そのためにバランスをとりながら運用していくことが求められている。