たばこ税、段階的引き上げ論

 時事、たばこ千円、税収1.9兆円減も=厚労省試算と反対の結論−97%禁煙試す・京大より。

2008/06/30-04:02 たばこ千円、税収1.9兆円減も=厚労省試算と反対の結論−97%禁煙試す・京大


 たばこを1箱1000円に値上げした場合、税収は最大1.9兆円減るとの試算結果を、京大大学院経済学研究科の依田高典教授(応用経済学)が30日までにまとめた。厚生労働省研究班の試算では、最大6兆円の増収が見込まれているが、依田教授は「大幅な増収は疑問」としている。
 1000円に値上げすると1箱当たりの税額は5倍増加。現在の喫煙者の80%を超える人がたばこをやめれば減収になり、80%未満なら増収となる。
 依田教授らは喫煙者616人を対象に調査。この結果97%が「1000円になったら禁煙しようと思う」と回答した。全員が禁煙に成功した場合、最大1.9兆円の税収減となる。


 元論文は、依田高典研究室、「たばこ1000円に関する試算」である。次のような試算をしている。

1 たばこ値上がりは禁煙をもたらすか

  • ケース1 たばこが1箱500円となった場合
    • 喫煙者全体: 禁煙しようと思う人の割合 40%
  • ケース2 たばこが1箱1000円となった場合
    • 喫煙者全体: 禁煙しようと思う人の割合 97%


2 たばこを止めた人のどれだけが禁煙に成功するか。

  • 禁煙継続調査結果(現行300円を仮定した場合)
    • 喫煙者全体: 禁煙継続率 54%


 以上より、たばこ1箱が500円となれば、現在喫煙者の20%強が禁煙に成功する。また、1000円になった場合には、同じく50%強が禁煙に成功する。ただし、たばこ値上がりにより、禁煙車の禁煙意思は現在より高くなるので、禁煙継続率は300円時の54%よりも高くなるだろう。


3 たばこ値上がりは税収増加をもたらすか
 ケース1 現行300円と同じ喫煙継続率(継続率54%)を仮定した場合

 たばこ500円  たばこ1000円
喫煙者全体  税収増加1.4兆円(△64%)  税収増加2.8兆円(△127%)


 ケース2 全ての禁煙希望者が禁煙(継続率100%)を仮定した場合

 たばこ500円  たばこ1000円
喫煙者全体  税収増加0.5兆円(△24%)  税収減少1.9兆円(▲87%)


 示唆に富む試算である。たばこを1000円にして禁煙継続率が高くなると、かえって税収が減る可能性があるということを示している。


 依田高典教授は、日記で、次のようなコメントを示している。

6月23日(月) 「たばこ1000円問題に関する私の考え」


 新聞、テレビ等で報道されましたたばこ1000円の税収効果の試算結果について、多数の問い合わせがあります。以下、Voice9月号の一部を抜粋して、掲載しますので、ご閲覧下さい。個人的な問い合わせには直接お答えしていませんので、ご容赦下さい。
 「たばこが1000円になれば、現在の喫煙者のほとんどが禁煙を決意し、過半は禁煙に成功する。多くの人が禁煙する結果として、大幅な税収増加は望めない。さらに言えば、身体的・精神的依存のためにどうしてもたばこを止められない人にとっては、税金というよりは経済的懲罰となろう。たばこが大きな社会的損失をもたらしているのは間違いない。英米の調査によれば、喫煙者は非喫煙者に比べて、全死亡のリスクは35~69歳の中年期では約3倍、70~79歳では約2倍、80歳以上でも1より大きく、10代に喫煙を開始した喫煙者の約半分がたばこのために命を落とすという。日本の喫煙の社会的損失の推計は、医療費損失だけで1兆3千億円、これに入院による損失・死亡による損失・火災による財産損失を加えると、年間、約4兆9千億円に達するという報告もある。現在の喫煙者が禁煙することの真の便益は、こうした禁煙の社会的損失をなくすることにあることを強調したい。
 しかし、現在の喫煙者の多くは日本が比較的喫煙習慣に寛容であった時代にたばこを吸い始めている。現在のたばこ税引き上げ論は最近の喫煙習慣に対する社会的態度の変化を受けたものであることは確かだが、1年、2年内に手のひらを返したように懲罰的税金を導入することはいかがなものだろうか。現在の喫煙者に対して、将来の引き上げに対する予見性を高め、例えば毎年30円ずつ引き上げ、10年、20年のタイムスパンで諸外国のたばこ価格に肩を並べるようにしたらどうだろうか。身体的・肉体的ニコチン依存のために、どうしてもたばこを止められない人もいる。そうした喫煙者は一種の病気である。少しずつたばこ税を引き上げるならば、当面の間、税収増加も見込まれるから、病的な喫煙者に対するケアを提供することも財政的に可能だろう。要するに、長期的な視点から、高いお金を払ってまで喫煙習慣を続けるのかどうか、喫煙者に選択の自由を与えるべきである。」(Voice9月号原稿から一部抜粋 2008年8月10日発売)


 現実問題として、いきなりたばこを1000円まで引き上げることは困難だろう。喫煙者、たばこ業界の反発も考え、財政当局は、依田高典教授の案を採用するのではないか、と推測する。20年先のことは別として、段階的に税率をあげ、2018年にたばこを600円にするという案は現実的に思える。