中日新聞、殺菌薬1000倍薄め/素手/常温 「谷本整形」ずさん次々より。
殺菌薬1000倍薄め/素手/常温 「谷本整形」ずさん次々
2008年6月20日 朝刊
三重県伊賀市の整形外科診療所「谷本整形」で点滴を受けた患者が体調不良を訴え1人が死亡した事件で、県と県警は19日、点滴液の作り置きや常温での長時間放置に加え、消毒に一般的な消毒用アルコールを使わず、基準より20倍以上薄めた殺菌薬を代用するなど、いくつもの要因が複合的に重なった院内感染との見方を強めた。
県によると、点滴器具の消毒には通常、消毒用アルコールを使う。谷本整形でも患者が出入りする待合室用の消毒綿は消毒用アルコールを使っていたが、点滴室では主に手の消毒に用いられる殺菌薬グルコン酸クロルヘキシジンだった。
看護師らは県の聞き取りに「アルコールだと患者の皮膚が荒れるため」と説明している。しかし、この殺菌薬を使う場合の希釈基準は10−50倍なのに、1000倍に薄めて使用。県は「ほとんど消毒効果がなかったため、消毒綿の容器にも菌が繁殖した」とみる。
看護師8人は1日100人前後の点滴患者に対応するため、点滴液を10本単位で作り置き、不足したら追加で調合。その際、手を十分に消毒しないまま素手で容器から消毒綿を取り出して容器の注入口をふいたため、点滴液にセラチア菌が混入したとみられる。
さらに、汚染された点滴液が点滴室の机の上に長時間常温で放置されたため菌が増殖。被害者が死者1人を含む15人と集中した9日には、休診日前の7日午前中から持ち越された点滴液が20本以上あった。
9日に使われた点滴液の残留液と被害者6人の血液から検出されたセラチア菌は「セラチア・リクファシエンス」という菌種で国内での確認は2例目。
県健康福祉部の西口裕医療政策監は「衛生面より多くの患者を受け入れるための効率を優先、院内感染対策の基本が行われていなかった」と谷本整形のずさんぶりを批判した。
19日現在の被害者は死亡1人、入院中10人、退院8人、通院10人の計29人。県伊賀保健所が5月9日から今月10日までに点滴を受けた全386人に体調を確認した結果、被害者以外にも35人が「異常があった」と答えた。
6月12日のエントリー、三重、整形診療所でのセラチア感染で次のような指摘をした。
今回、事件の舞台となった三重の整形診療所では、点滴を作り置きしていたとのこと。汚染された手指ないしアルコール綿で点滴に薬剤を注入し、時間の経過とともにセラチア菌が点滴内で増殖した可能性が極めて高い。
残念ながら、予想どおりの結果である。標準的な感染対策がなされていなかったことが最大の原因である。
報道の嵐は過ぎ去り、過去の医療事故と同様に医療機関叩きだけに終わってしまうと、同種の事故がまた起こる。これまでは、病院を中心に院内感染事故が生じたが、今回は整形外科診療所で起きた。医師会、保険医協会、整形外科学会などが率先して再発予防に取り組むことに期待したい。医療団体の自浄能力が問われている。さもないと、国民の医療不信が深まり、医療崩壊打開の取組みで協力をもらうことが困難となる。