三重、整形診療所でのセラチア感染

 院長指示の有無解明へ 三重・伊賀の点滴死亡事件より。

院長指示の有無解明へ 三重・伊賀の点滴死亡事件
2008年6月12日 14時58分


 三重県伊賀市の整形外科診療所「谷本整形」で鎮痛薬の点滴を投与された患者19人が体調不良を訴え、うち1人が死亡した事件で、県警捜査1課などは12日、業務上過失傷害の疑いで同診療所と谷本広道院長(57)の自宅を家宅捜索した。県によると50−80代の男女4人が点滴後に体調を崩して通院していることが新たに判明。作り置きした点滴液に細菌が混入、増殖したとみて作り置きを始めた経緯や時期、谷本院長の指示の有無などの解明を目指す。
 県警は同日、伊賀署に30人体制の捜査本部を設置した。県などの調べでは、谷本整形は医療法で義務付けられた「院内感染対策のための指針」を作っていなかった。
 県伊賀保健所が5月9日から今月9日までに点滴を受けた225人に連絡を取ったところ、41人が点滴後に体調不良になったと答えたという。
 同診療所では2年ほど前にも患者が体調不良を訴え、昨年10月には点滴を受けた男性=当時(85)=が死亡しており、県警は点滴治療や作り置きとの因果関係を調べる。
 谷本院長は11日の会見で「目の届かないところで作り置きがあった。私は認識していなかった」と話し、同診療所の「医療事故防止マニュアル」で作り置きを禁止していたと説明したが、県のこれまでの調査でこうしたマニュアルの記述は確認できない。県は複数の看護師が作り置きにかかわっていることなどから、診療所内では常態化していたとみている。
 県や県警の調べでは、5月23日−6月9日の18日間に、鎮痛薬とビタミン剤を調合した点滴を受けた60−80代の19人が悪寒や発熱、腹痛を訴え、18人が入院したほか、伊賀市の市川満智子さん(73)が自宅で亡くなった。


 報道当初より、院内感染、それもセラチア感染を疑っていた。2000年頃より、セラチアの集団感染が生じ、対策の強化が叫ばれていた(下記参照)。


 厚生労働省の文書より、引用する。

(1) 今回の事例においては、留置針で血管確保を受けていた患者のうち、ヘパリン加生理食塩水で血管ルートの抗凝固処置(ヘパリンロック)を受けた者での発症が多く、解析疫学の結果、同時期に同病院で使用されたヘパリン加生理食塩水がセラチアに汚染され、血流感染を起こした可能性が示唆された。
(2) ヘパリンロックは、患者の負担を軽減し、持続的な点滴又は時間ごとの薬剤の経静脈的投与を可能にし医療内容を引き上げたが、院内感染対策上その管理には一層の注意が必要である。
(3) 500ml等の大型容器においてヘパリン加生理食塩水を室温での長時間保存することなどは、セラチア等の菌による汚染の機会を増加させる可能性が高いことが実験的にも証明されたことから、厳重な注意が必要である。
(4) これらの重要点を周知徹底するためには、医療従事者への院内感染防止のための教育と研修の強化が重要である。


 今回、事件の舞台となった三重の整形診療所では、点滴を作り置きしていたとのこと。汚染された手指ないしアルコール綿で点滴に薬剤を注入し、時間の経過とともにセラチア菌が点滴内で増殖した可能性が極めて高い。


 医療安全を考える上で、院内感染対策のための指針作りは基本である。また、インシデントアクシデント報告制度を整備し、ヒヤリした事例を積極的に収集し、重大事故に結びつかないようにすることも医療整備上必須の事項である。一昨年、昨年と続いた事故が全く生かされていない。本事件の舞台となった診療所は、医療安全管理の水準を満たしていない。
 リスクマネジメントとは、重大事故を未然に防ぐことだけでなく、発生時や発生後の一連の取組みや医療の質の確保を通して、医療機関という組織自身を守ることである。残念ながら、この整形外科医院にはリスク管理能力がない。同様の事例発生を防ぐ意味で、上部組織であると思われる医師会などが積極的に関与し、事故の教訓を明らかにし、周知徹底して欲しいと願う。