規制緩和による医療関係職養成校急増

 朝日新聞接骨院・整骨院、保険対象外も請求? ケガ数など不自然より。なお、今回は、柔道整復師の不正請求問題については論及しない。医療関係職養成数増大に関する背景について調べた結果を記述する。

接骨院整骨院、保険対象外も請求? ケガ数など不自然
2008年06月01日03時01分


 接骨院整骨院柔道整復師の治療を受けた患者の2人に1人が3カ所以上のケガをしていたとして、健康保険の請求が行われていることが厚生労働省の調査でわかった。1人あたりのケガ数が不自然なほど多く、「保険のきくマッサージ施設と勘違いしている利用者を、けが人として扱い、不正請求する柔整師が多いことをうかがわせる」との声が業界内からも出ている。


(中略)


 厚労省の推計によると、柔整師にかかった患者の治療費は05年度で約3100億円。これは開業医の皮膚科、産婦人科を上回る。近畿大学医学部の浜西千秋教授(整形外科)は「マッサージのような行為に公的保険が使われているなら、一番の被害者は保険料を払う国民だ」と指摘する。


 背景には柔整師の急増がある。07年度は10年前の5倍近い5069人が国家試験に合格。接骨院などの施術所は、06年末までの10年で4割強増えて3万を超えた。


(後略)


 BIGLOBE百科事典、柔道整復師養成施設より。

柔道整復養成施設(じゅうどうせいふくようせいしせつ)とは、柔道整復学校のことで柔道整復師の養成施設。


 多くは3年制の専門学校、一部は短期大学、もしくは4年制大学である。晴眼者のみの入学である。凡そ3年間で、400万-500万円の学費が必要である。どの施設でも接骨学と西洋医学の両面を学習可能であり、接骨の危険性や衛生観念など、医学的常識を備えることが規定されている。そのため、西洋医学の基礎を中心に教育することが多く、接骨学教育の充実化が現在も進んでいない。臨床実習の実施が規定にあるが、どの専門学校も付属施術所に配当させる人員に乏しく、国家試験における実技試験の廃止に伴い、技術指導の甘さが危ぶまれている。
 従来、養成学校の新規開設は厚生省(当時)の行政指導にて厳しく制限されており、縁故入学などの噂が絶えなかったが、2000年、柔道整復師養成施設不指定処分取消請求事件の福岡地裁判決以後、厚生省は認定規則の条件さえ満たせば設置を認める方針に転換した。そのため少子化で経営が困難となっていた他分野の専門学校や異業態からの参入が相次ぎ、養成施設が1998年の14校から2008年には86校に急増、従来柔道整復師全体で約2万人前後のところに、医師の養成数に匹敵する毎年約7000人以上が新規に養成される事態となった。将来的には柔道整復師の過剰が予想され、それに伴う教育内容の低下や各接骨院の経営の悪化が憂慮されている。


 柔道整復師養成施設不指定処分取消請求事件以後、国は、医療関係専門学校、大学の厳しい設置基準を改め、届出制とした。この結果、柔道整復師、鍼灸師、そして、リハビリテーション専門職養成施設が急増した。
 国の方針変更の背景には、1999年3月30日に閣議決定された規制緩和推進3か年計画(改定)がある。

1 目 的


 我が国経済社会の抜本的な構造改革を図り、国際的に開かれ、自己責任原則と市場原理に立つ自由で公正な経済社会としていくとともに、行政の在り方について、いわゆる事前規制型の行政から事後チェック型の行政に転換していくことを基本とする。


 このため、(1)経済的規制は原則自由、社会的規制は必要最小限との原則の下、規制の撤廃又はより緩やかな規制への移行、(2)検査の民間移行等規制方法の合理化、(3)規制内容の明確化、簡素化、(4)規制の国際的整合化、(5)規制関連手続の迅速化、(6)規制制定手続の透明化を重視し、平成10年度(1998年度)から12年度(2000年度)までの3か年にわたり規制緩和等を計画的に推進する。


(中略)


(2) 認可、届出等の見直し


 必要とされる許認可等についても、より緩やかな規制への移行を進めることとし、免許制から許可制・認可制等への移行、許可制・認可制等から届出制への移行を進める方向で見直しを行う。この際、同種類似と判断される行政については、可能な限り最も低い規制レベルに他の分野の規制を整合させていく方向で見直しを行う。


 さらに、届出制については、届出をする者の自主性が尊重されるという本来の趣旨がより生かされるよう、事前届出制となっているものについては、事後届出制に改める方向で見直しを行う。


(後略)


 国は、規制緩和政策を推進していた。そこに、柔道整復師養成施設不指定処分取消請求事件の福岡地裁判決以後、厚生省は認定規則の条件さえ満たせば設置を認める方針に転換した。この方針は、柔道整復師のみならず、医療関係専門学校、大学に及んだ。この結果、リハビリテーション専門職養成学校も急増した。ただし、この方針は医師養成には適用されていない。
 事後規制と競争原理による淘汰という政策が悪影響を及ぼし始めている。柔道整復師の不正請求、従来より鍼灸を担ってきた視覚障害者の離職不安などが報道されている。数年後、リハビリテーション専門職も需要と供給のバランスが崩れる可能性が高い。その時、柔道整復師不正請求問題と同じような報道が新聞をにぎわす可能性は否定できない。悪貨が良貨を駆逐することがないように、専門職団体は自らの職務範囲とその適応を明確にし、患者や利用者に対する説明責任をはたすことが求められる。