レッドソックス・ネーションへようこそ

 李啓充氏は、米国の医療事情に詳しい著作家という側面の他に、ボストン在住の大リーグコラムニストという一面がある。先日行われた医療講演会で勧められた著書2冊をご紹介する。

レッドソックス・ネーションへようこそ

レッドソックス・ネーションへようこそ

怪物と赤い靴下

怪物と赤い靴下


 前者は週刊文春に連載されていた「大リーグファン養成コラム」を抜粋し編集したもの、後者は鳴り物入りで入団した松坂大輔を中心にレッドソックスの波瀾万丈の1年間を綴ったものである。


 レッドソックスファンは、ヤンキースのことを「悪の帝国」と呼んでいる。2002年に、キューバから亡命したホセ・コントレラスをめぐる獲得争いに破れたレッドソックスCEOラリー・ルキーノが、金満球団ヤンキースをこう罵ってから定着した呼び名である。一方、著書名にもなっている「レッドソックス・ネーション」は、レッドソックスファンがヤンキースとのライバル関係を表現するために使用されている。「ネーション対帝国」という関係は、スターウォーズを模している。


 大リーグの選手は、単に技量的に優れているだけでは尊敬されない。ジャッキーロビンソンが活躍しなければ黒人の地位向上はなかった。ニカラグア地震の際に救援物質を運んだ飛行機墜落事故で亡くなったロベルト・クレメンテは、世代を超えて敬愛されている。大リーガーという地位が人格を磨き、社会活動に旺盛に取り組む文化を築きあげていった。
 レッドソックスは、小児癌研究基金「ジミー基金」のメイン・スポンサーであり、選手が癌と闘っている小児を励ましにいくことを当たり前のように行っている。癌を克服して、球界に復帰し、患者を勇気づけている大リーガーも少なくない。
 5月19日、レッドソックスのレスター投手がロイヤルズ戦でノーヒット・ノーランを達成した。レスターは2006年に悪性リンパ腫にかかった。その際、レスターは自ら記者会見で自分の癌について説明し、大リーグへの復帰を誓った。その11ヶ月後の2007年7月23日、レスターはメジャーのマウンドに復帰し、勝利投手となる。さらに、ワールドシリーズの第4戦にも登板し、21世紀になって2度目の優勝に貢献した。その際、レスターは「癌と診断された後、これからは、子供が野球を楽しむように野球を楽しむのだ、と自分に誓った。だからプレッシャーなど感じなかった」と語っている。


 「レッドソックス・ネーションへようこそ」も「怪物と赤い靴下」も、レスター投手にまつわるような話が満載されている。レッドソックスを愛し、大リーク選手を尊敬する李啓充氏の話術に魅了される。その一方、大リーグを覆う薬物汚染とその背景にある拝金主義にも鋭い警告を発している。


 本書を読んで、無性に野球を見に行きたくなった。日本でも地域密着型の球団が増えている。ボールパークに行き、贔屓の選手の応援をしてみたい。