年金全額税方式導入で事業主社会保険料節約

 東京新聞未納、不公平…消えず 年金税方式試算より。

未納、不公平…消えず 年金税方式試算
2008年5月20日 朝刊


 高齢化で膨らむ年金財政を保険料で賄うのか、それとも消費税か−。政府は基礎年金の財源を税金ですべて賄う「全額税方式」にした場合、消費税率をどれだけ引き上げる必要があるかを示す試算を初めて公表した。税方式は、現行の保険料方式で起こる未納や無年金問題の解決策として注目を集める一方、巨額の税財源が必要になるなど一長一短。国民生活に大きな影響を与える選択だけに、与野党通じた幅広い議論が不可欠だ。 (上坂修子)
 「全額税方式」は、民主党自民党議員連盟「年金制度を抜本的に考える会」(会長、野田毅自治相)のほか、麻生太郎自民党幹事長、塩川正十郎財務相日本経団連、連合などが提案している。政府はこれらの提案を基に、一定の前提を置いて、将来的に必要な費用を試算した。新たに必要となる費用は、給付の手厚さや移行措置、経済情勢などによって異なるが、試算は現行の給付水準(満額で月六万六千円)を維持するとしている。
 税方式の最大の課題が「移行」だ。現行の基礎年金は財源の約三分の二が保険料になっており、まったく違う制度にするには、何らかの切り替え措置が必要になる。
 試算は異なる移行措置、三パターンについてシミュレーションしている。政府が法律で決めた通り、〇九年度に国庫負担割合を二分の一に引き上げることを前提にしている。これには試算とは別に新たに消費税率1%分が必要になる。
 最も費用がかからないのが、これまで未納・未加入だった期間がある人は、年金をその分減らす方法(ケースA)で、経団連などが提言している。
 新たに必要な費用は〇九年度で九兆円、消費税率は3・5%引き上げなければならない。これが五〇年には6%にまで膨らむため、消費税率は現行の5%と1%を加え12%に。だが、この方式だと新制度に完全に移行するまでに六十五年間かかり、無年金や低年金の問題もすぐには解決しない。
 一方で、最も多く財源が必要になるのが、全員に基礎年金の満額を支給した上で、従来の国庫負担分に加えて、保険料を納めてきた実績に応じて上乗せするやり方(ケースB)。〇九年度で新たに必要な財源は三十三兆円と巨額に上り、消費税率は12%引き上げなければならない。
 また、最も簡単な方法が、これまで保険料をきちんと払ってこなかった未納者も含め、全員に基礎年金の満額を支給する案(ケースC)。〇九年度で十四兆円、消費税率は5%アップになる。この方法の利点は、無年金や低年金の高齢者がただちにいなくなること。だが、保険料を四十年間納めた人も、ずっと未納だった人も年金受給額は月六万六千円ということになり、まじめに保険料を払ってきた人が不公平感を抱くのは明らかだ。
 どの方法にも「未納問題が解決しない」「巨額の費用がかかる」「大きな不公平がある」などの問題が発生する。厚生労働省関係者は「どうやったって税方式は合理的には成り立たない」と結論づける。
 ちなみにサラリーマンの保険料の原則半分は企業が負担しているため、税方式に転換すると、事業主負担は〇九年度で三兆円、五〇年度で十兆円軽減される。経団連などはこの分を社員に還元するとしているが、人件費削減の流れの中で、その保証はない。


 経団連が年金全額税方式を主張しているのは、事業主社会保険料節約のためである。その額は2009年度単年でなんと3兆円にもなる。さらに、逆進性の強い消費税を財源とすると、低所得者ほど負担は重くなり、金持ちほど得をすることになる。
 必要な年金を全て法人税で賄いますと経団連が言いだすのなら、国民は拍手喝采をする。しかし、偽装請負を平気で行うような企業トップを会長に据えている状況では、期待する方が無理だろう。