二木立先生は、医療・社会保障改革には3つのシナリオがあると述べている。特に、「21世紀初頭の医療と介護ー幻想の「抜本改革」を超えて」では、「序章 21世紀初頭の医療・社会保障改革 ー 3つのシナリオとその実現可能性」全てを費やして詳しく述べている。
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3つのシナリオとは、次のとおりである。
「医療改革ー危機から希望へ」の「第2章 後期小泉政権の医療改革 第1節 混合診療解禁論争とその帰結」では、「混合診療」の全面的解禁をめぐる論争の中で、新自由主義的改革が敗北を喫したことを具体的に述べている。その理由として、次のような指摘をしている。
このように、新自由主義的改革の全面実施が否定された最大の理由は、これらの改革を行うと、企業の新しい市場が拡大する反面、医療費(総医療費と公的医療費の両方)が急増し、医療費抑制という「国是」に反するからです。私はこれを「新自由主義的改革の本質的ジレンマ」と呼んでいます。
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医療費と患者負担の立場で、3つのシナリオをまとめると次のようになる
- 新自由主義的改革(規制改革会議): 目的は企業の市場拡大。医療費は急騰する。同時に、患者負担は急激に増える。アメリカ型の医療を目指す。
- 社会保障制度の公私2階建て化(厚生労働省): 目的は公的支出削減。医療費は抑制する。アクセス制限のために患者負担を増やす。世界一の医療費抑制政策を継続する。
- 公的医療費・社会保障費費用の総枠拡大(医療団体): 目的は社会保障拡充。医療費は拡大する。倫理的には患者負担減少を目指す。ヨーロッパ型の医療を目指す。
新自由主義的改革を目指す規制改革会議(財界)と、医療費削減を目指す厚生労働省が対立していることは、二木立先生の著書を読むと理解できる。しかし、第2のシナリオも望ましいものではない。放置すると、「医療崩壊」が進行し、取り返しがつかなくなる。目指すべきは第3のシナリオである。昨日、講演された李啓充先生も大村昭人先生も同様の主張だった。公的医療費・社会保障費費用の総枠拡大の実現のためには、国民・患者の理解が不可欠である。医療者が自己改革を進めながら、粘り強く訴えを続けることが必要となっている。