医療崩壊に関する講演会のはしごをした。
一つは、第20回艮陵同窓会における李啓充先生「医療変革の時代を超えて 医療崩壊の危機をどう乗り越えるか」、もう一つは宮城県保険医協会での大村昭人先生「医療立国 − 医療費増額が医の荒廃を救う」だった。
李啓充先生の講演は、「市場原理と医療 米国の失敗を後追いする医療改革」がベースになっている。「出所明記しての転載転送歓迎」となっており、今後活用していきたい。
前半は「公」を減らすという財界の主張の危険性についてだった。小さな政府の問題点、特に国民負担率という言葉に秘められている欺瞞について詳細なデータをもとに主張されていた。この部分は、週間医学会新聞に連載されている「続 アメリカ医療の光と影」がもとになっている。
後半は、「民」を増やす、ということの危険性についてだった。ここでいう「民」とは民間医療保険や株式会社病院のことである。アメリカ型の医療制度を目指すとどうなるかについては、李啓充先生の著書「市場原理が医療を亡ぼす アメリカの失敗」に詳しい。
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最後に、李啓充先生は次のように講演をまとめた。
医療保険制度 「民」と「公」の違い
- 「民」(米国型)
- 応益負担
- 不平等・不公平であるだけでなく、社会全体の医療費負担も高くつく。
- 「公」(西欧・日本型)
- 応能負担
- 平等・公平であるだけでなく、社会全体の医療費負担も安く上がる。
日本医療「タイタニック」化の危機
- 「民」の保険は一等・二等・三等の船客を差別する制度
- 「公」を減らして「民」を増やした保険制度への移行は、日本が誇る「皆保険丸」を氷山にぶつけようとする行為と変わらない。
大村昭人先生については、以前、本ブログでも医療立国論でご紹介した。
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今回の講演も、ほぼ「医療立国論」に沿って行われた。結論部分のスライドを引用する。
- 医療は確実な成長産業、経済活性化の鍵(EU諸国の例)
- 医療の分野は大きな雇用母体
- 国民皆保険は国家のインフラ
- 高齢化社会で医療・介護、健康産業の需要は益々拡大
- 発想の転換が必要! → 医療費は国の負債ではなく投資である。高齢者や女性が健康で生きがいを持って働ける社会環境の整備(北欧の例)。支える財源捻出は工夫次第で十分可能。
- 市場原理主義導入と医療費の抑制は制度崩壊を招く(米、英の犯した過ちから学べ!一度崩壊すると建て直しには莫大な費用とエネルギーが必要)
- 格差なき経済成長は可能だ(北欧の例)!
医療立国にこそ日本の将来がある!
国民皆保険制度は、国家のインフラである。この制度を崩し、ビジネスチャンスを狙っている一部の経済人は亡国の徒である。社会保障費を増やすことこそ経済活性化の鍵であるという主張に共感する。
医療崩壊に関する論客2人のお話を拝聴することができ、有意義な一日だった。お二人の先生に心から感謝を述べたい。