医療費財源(その1)-患者負担増大は限界

 国民医療費の財源別内訳を式として表すと、次のようになる。


 国民医療費=公費(国庫負担+地方負担)+保険料(事業主+被保険者)+患者負担等


 国民医療費の財源別割合について、論じる文章2編を最近目にした。ひとつは厚労省大臣官房総括審議官宮島俊彦氏の「医療の財政問題」(社会保険旬報No.2347:p.6-14、2008.4.1)、もう1編は李啓充氏の 「〔連載〕続 アメリカ医療の光と影 第124回 緊急論考「小さな政府」が亡ぼす日本の医療(5)」 である。
 両者の論文を参考に、医療費財源問題について論じる。今回は、患者負担に視点を当てる。


 なお、国民医療費の範囲は、平成17年度国民医療費の概況、国民医療費の範囲と推計方法の概要によると、次のようになっている。

 「国民医療費」は、当該年度内の医療機関等における傷病の治療に要する費用を推計したものである。この額には診療費、調剤費、入院時食事療養費、訪問看護療養費のほかに、健康保険等で支給される移送費等を含んでいる。
 国民医療費の範囲を傷病の治療費に限っているため、(1)正常な妊娠や分娩等に要する費用、(2)健康の維持・増進を目的とした健康診断・予防接種等に要する費用、(3)固定した身体障害のために必要とする義眼や義肢等の費用は含んでいない。
 また、患者が負担する入院時室料差額分、歯科差額分等の費用は計上していない。

 財源別内訳の年次推移について、平成17年度国民医療費の概況、財源別国民医療費及び構成割合の年次推移などを参考にし、グラフを作成した。


 1980年度以降の推移をみると、次のような傾向が読み取れる。

  • 患者負担増大
  • 国庫負担の減少と地方負担増大
  • 保険料負担(事業主、被保険者)減少


 患者負担は、1960年度が30.0%だったが、急速に減少し、1980年度が11.3%と最低となっている。その後、漸次増加し続け2005年度には14.5%となっている。歴史的経過を示す。


# 患者負担減少へのうねり: 国民皆保険制度達成と給付率向上、老人医療費無料化
 1961年、国民健康保険制度が制定され、国民皆保険制度が達成された。この時点では、国保は5割負担だった。一方、健康保険は本人0割、被扶養者5割負担だった。
 1967年、国民健康保険が世帯主も世帯員も3割負担で統一された。
 1973年、老人医療費が無料化され、健康保険被扶養者も3割負担に軽減された。


# 患者負担増大という逆風: 「医療費亡国論」に基づく医療費抑制政策遂行
 1982年、老人保健法制定され、老人医療費に定額制が導入された(老人医療費無料化の終焉)。
 1983年、当時の厚生省保険局長吉村仁氏が、「社会保険旬報」に「医療費をめぐる情勢と対応に関する私の考え方」と題した論文を発表。「医療費亡国論」の理論的根拠となる。
 1984年、健康保険本人に1割負担が導入された。退職者医療制度が始まった。
 1994年、入院時食事療養費導入などが実施された。
 1997年、健康保険本人に2割負担が導入された。
 2000年、介護保険制度が施行され、利用料1割負担となった。
 2002年、健康保険、国民健康保険が3割負担で統一された。老人医療1割負担が徹底された。
 2008年、後期高齢者医療制度が施行された。なお、70-74歳までの患者負担が2割への引き上げられることになっていたが、1年間延期された。


 2005年度の国民医療費は33兆1289億円である。1980年度と2005年度の患者負担の差3.2%を計算すると、約1兆600億円も増えている。忘れてはいけないことがある。国民医療費は最初に述べたように、患者が負担する入院時室料差額分、歯科差額分等の費用は計上されていない。したがって、「国民医療費の概況」に記載されている数値以上に患者負担は増大している。
 患者負担の増大に関し、宮島俊彦審議官は次のように述べている。

 患者負担は、既に、70歳未満で3割負担、70歳から75歳間では2割負担が予定され、75歳以上は1割負担となっている。高額療養費制度があり、家計の破綻防止という保険制度の根幹は守られているが、ほとんど限界に近い。民間保険を導入してはどうかという議論もあるが、これも結局のところ、患者負担を増加しておいて、その分を公費負担と事業主負担がある公的保険制度から、加入者保険料一本の民間保険に振り返るということにつながり、国民にとっては負担増でしかない。

 患者負担であるが、これはもう限界である。最近は病院の患者負担の未収問題も深刻になっている。混合診療や保険免責は医療崩壊の加速につながり、取り得ない。


 厚労省官僚もこれ以上の患者負担増大を強いることはできないと判断している。ただし、これまで強制してきた患者負担を減らそうとは考えてはいない。
 厚労省は、医療費抑制政策を続けながら、財源として、保険料引き上げ、公費負担増大を検討しなければいけないと考えている。特に公費の財源として、消費税の引き上げを目指している。