関東甲信越医師会連合会、担当医制の廃止を求める要望書提出

 読売新聞、後期高齢者診療料の問題は?、より。

後期高齢者診療料の問題は?
関係者に聞く


 4月に始まった後期高齢者医療制度に合わせて、被保険者を対象とした「後期高齢者診療料」が導入された。かかりつけの担当医を決めて定額制とする診療報酬の算定方法だが、「患者が萎縮して自由に医療機関を利用しづらくなる」などと全国の医師会から反発が相次ぎ、県医師会も4月24日の理事会で算定をしないことを決めた。どのような制度で、何が問題なのか。県医師会の薬袋健会長と、制度を運営する山梨社会保険事務局の厚芝健・医療事務指導官に聞いた。(聞き手・新美舞)


【医療の質低下を懸念】


◆県医師会長 薬袋健氏


 --後期高齢者診療料を算定しないことを、理事会で決めた。


 新制度に基づく担当医制は、いつでも誰でも、どこにでも受診できるという医療の“フリーアクセス”を阻害する恐れがあります。山梨など1都9県でつくる関東甲信越医師会連合会も、担当医制の廃止を求める要望書を、4月下旬に厚生労働省日本医師会に提出しています。


 --担当医がいても、ほかの医療機関をこれまで通り受診できるが。


 診療料を定額制にすれば、患者はお金が余計にかからないよう、なるべく担当医に行こうとする心理が働きます。診療所の医師が時間外や往診で不在のためお年寄りが我慢し、病状が悪化することは十分考えられます。また、担当医の専門外の病気でほかの医師にかかった場合、検査が必要でも、担当医でやった方が安いなどと言って、患者が拒否し診察がスムーズにいかないこともあり得ます。


 --制度の狙いの一つは、複数の医療機関で同じ検査を何度も受けたり、同じ薬をもらったりする無駄をなくして医療費を抑制することだと厚労省は説明している。患者の負担も減るのではないか。


 高くなる患者も多いはずです。また安くなったとしても、いい医療を受けられなければ本末転倒です。


 厚労省が担当医制の対象として挙げた糖尿病など13の慢性疾患を持つ患者の場合、これまで最大月2回まで特定疾患療養管理料として2250円(本人1割負担で225円)払っています。病状に特に変化がなければ月1回の通院なので、6000円の定額制より安いことになります。


 また定額内の検査を何回もする人は確かに安くなりますが、たとえば血液検査は、腎機能、たんぱく質コレステロールなどいくつも調べればそれだけで本来6000〜7000円。定額の6000円を超える分は医師の持ち出しとなるため検査を控えがちになって、病気の発見が遅れることも想定されます。


 --理事会では、算定をしない理由の一つとして「医療機関同士の連携に亀裂が入る」ことを挙げていた。


 担当医制では、担当医以外にかかろうとする患者が減るため、患者の取り合いになる。しかし担当医になっても、お年寄りなので適切な診療をしていても病状が悪化した時、過度の責任を問われるリスクがある。担当医制は医師にも、患者にもメリットがないと思います。


【患者を計画的にケア】


◆山梨社会保険事務局医療事務指導官 厚芝健氏


 --後期高齢者診療料とはどういう制度か。


 今年度に始まった担当医制のことです。75歳以上の高齢者が糖尿病など慢性的な病気を抱えている場合、診療所(19床以下)の医師1人を「担当医」とすれば、担当医が3か月〜1年の診療計画書を作成し、月一律6000円の報酬を受け取る仕組みです。


 --通常の1割負担の高齢者は、月600円で何度でも診てもらえるのか。


 600円に含まれるのは、一つの慢性的な病気にかかわる基本的な検査やエックス線などの画像診断、処置料だけで、再診料や処方せん料、薬代は別途支払いが必要です。慢性疾患にかかわるものでも、容体が通常より悪くなると制度対象外になります。何が慢性疾患にかかわるものか、どんな状態が通常より悪いといえるのかは医師の判断に任されています。


 --会計が不透明になることが懸念されるが。


 どんな容体の患者にどんな処置が施されたかは、診療報酬明細書(レセプト)を点検する県国民健康保険団体連合会が確認します。


 また担当医を決めても他の医療機関に行けないわけではありません。別の医師にかかると、支払いはこれまで通りです。担当医を持たないことも可能です。


 --県医師会は理事会で、後期高齢者診療料を利用しないと決めた。


 担当医を置ける診療所数は県内に563あり、5月1日現在、94診療所が担当医制の受け入れを届け出ました。もちろん、医師が断れば、お年寄りは担当医を持てません。


 --県医師会は、医療費抑制が目的の制度で、医療機関同士の関係が悪化すると指摘している。


 医師不足の中で、血液や尿の検査など定期健診の意味合いが強い診察が診療所で行われれば、大きな病院は急患などに専念できます。また、多くの高齢者が慢性疾患を抱えていますが、長期治療で、患者を(担当医が)総合的、また計画的にケアすることはメリットがあると言えます。


 --医療が高度化・細分化する中で、担当医1人での対応は無理との声も上がっている。


 例えば、糖尿病の影響で患者が眼科へ行く必要がある場合、担当医が専門外なら(眼科医に)紹介状を書きます。検査スケジュールや治療方針、定期的に受診している医師名などが記された診療計画書は患者が保管しており、紹介を受けた医師は患者情報を共有できるので対応に問題はありません。


(2008年5月3日 読売新聞)


 県医師会と社会保険事務局の両者のインタビュー内容を読み比べてみると、医師会の方は具体的事例を出して意見を述べているのに対し、社会保険事務局の方はQ & Aを棒読みしているだけにとどまっている。さらに、「医療費抑制が目的の制度」ではないかという指摘に対しては、病院と診療所の機能分化を目的としていると視点をずらして答えている。

 後期高齢者診療料算定に批判的な医師会一覧でとりあげた医師会に、山梨県医師会は入れていなかった。それどころか、「山梨など1都9県でつくる関東甲信越医師会連合会も、担当医制の廃止を求める要望書を、4月下旬に厚生労働省日本医師会に提出」という事態までなっている。後期高齢者診療料算定拒否問題は日本中を覆う勢いで広がっている。