事業主保険料負担増と税金使途変更がカギ

 東京新聞後期高齢者医療見直し 税投入か現役負担増か、より。

後期高齢者医療見直し 税投入か現役負担増か


2008年5月2日 07時01分


 不評の後期高齢者(長寿)医療制度をめぐり、与党内で税金の投入割合や現役世代からの支援割合の見直し論議が持ち上がりつつある。七十五歳以上の加入者全員が納めることになった保険料の軽減など、高齢者側の負担を軽くするとなると、税金や現役世代からの支援を増やすしかないからだ。ただ、どちらにも障害があり、妙案はなかなかみつからない。 (後藤孝好)


 高齢者対象の新たな医療制度創設が法律に明記されたのは二〇〇二年。サラリーマンの保険料や、医療費の窓口負担を二割から三割に引き上げる医療制度改革関連法に盛り込まれた。小泉純一郎元首相の財政再建路線の下、現役世代の大幅な負担増に見合う高齢者医療の抜本改革が必要、とされた。
 サラリーマンの窓口負担アップは〇三年四月実施で、高齢者の新制度も当初は〇四年度中の創設を目指した。
 ただ、新制度に関しては、厚生労働省が、現制度につながる独立保険型と、高齢者が従来の制度に加入したまま相互に支える案の二つを示すなど調整が難航。結局は、高齢者全員に保険料負担を求める一方、健康保険組合など現役世代の支援を相対的に抑える独立保険型に落ち着いた。
 世代間の負担割合を明確にし、高齢者にも医療コストを自覚してもらう狙いもあった。では、現役世代側に余力が残ったかというとそうともいえない。
 健保組合連合会(千五百二組合)によると、〇八年度の高齢者医療への支援金は前年度から一気に約五千億円も増え二兆八千億円に達する見込み。赤字総額は三千九百二十四億円増で過去最大の六千三百二十二億円に膨らむ。新制度が始まっても、もともと高齢化の加速の前に負担増は免れない運命だった。
 厚労省試算では、二五年度の国民医療費は五十六兆円、うち老人医療費は二十五兆円。新制度導入による節減効果として国民医療費で九兆円、うち老人分を五兆円と見込むが、現役世代と高齢者いずれも負担がさらに増えるのは確実だ。
 残るは税金の投入増。福田首相道路特定財源の〇九年度一般化方針に絡み、社会保障分野の手当てを厚くする考えを示唆している。しかし、社会保障では年金の立て直しも急務。税収増に避けて通れない消費税率引き上げ論議も全く進んでおらず、即効力は期待薄だ。
 こうした中、後期高齢者医療制度では、低所得者で急激に保険料が上がったり、人間ドックの受診補助がなくなったりとの現実的な問題点が相次ぎ露呈。制度の廃止法案を再提出する構えの野党に対し、政府は制度を堅持して保険料の軽減措置を追加する方針だが、軽減分の穴埋めも容易ではない。
東京新聞


 医療崩壊をめぐり議論の中で、医療費財源をどこから調達するか、議論が繰り返されている。「高齢者側の負担を軽くするとなると、税金や現役世代からの支援を増やすしかないからだ」という現役世代と高齢者の軋轢を生む議論になると堂々巡りを繰り返すことになる。


 国民医療費の財源別内訳を式として表すと、次のようになる。


 国民医療費=公費(国庫負担+地方負担)+保険料(事業主+被保険者)+患者負担等


 国民医療費を増やそうとしても、患者負担等を減らそうとしても、公費(税金)を増やすか、被保険者の保険料を増やすかしかないという錯覚に陥りやすい。この議論の中で抜け落ちているのが、事業主の保険料負担であり、税金の使途である。
 医療立国論で大村昭人先生が述べているように、日本の企業の社会保険料負担はEU諸国と比し低い。民間保険料負担にあえぐ米国企業と比べても低額である。また、道路特定財源問題で野党が主張しているように、税金の使途にムダがある。高齢社会に向け、医療や介護、年金などに優先的に振り向けられる税金が浪費されている。


 事業主(特に大企業)の保険料負担を増やし、税金の使い道を変えるだけで、患者負担等を減らすことも、国民医療費を増やすことも可能となる。このことに目を向けることが重要である。