医療立国論

医療立国論―崩壊する医療制度に歯止めをかける!

医療立国論―崩壊する医療制度に歯止めをかける!


 大村昭人先生の著書、「医療立国論」をご紹介する。
 本書は、「医療費亡国論」に対抗して名づけられた。「医療費亡国論」とは、1983年、当時の厚生省保険局長吉村仁氏が、「社会保険旬報」に「医療費をめぐる情勢と対応に関する私の考え方」と題した論文に由来する。この中で、吉村氏は、このまま租税・社会保障負担が増大すれば日本社会の活性化が失われる、と主張した。以後、社会保障費の削減が国策となり、「医療崩壊」という現象を引き起こした。後期高齢者医療制度も、後期高齢者にかかる医療費をできる限り抑えることを目的としている。
 「医療立国論」では、EU諸国の実例をもとに、医療に金をかけることにより経済が活性化することを主張している。なお、この件に関しては、4月30日のエントリー、後期高齢者医療制度:診療料、20府県(以上の)医師会が反対に、DKさんが医療立国論というコメントを寄せられているので、ご参考にしていただきたい。


 今回は、企業の医療費負担に言及した部分に着目した。


 「アメリカの民間医療保険と患者の実情(33-34ページ)」より。

 最近では企業も医療保険料が大きな負担になってきている。GMが経営危機に陥ったという話題が大きくマスコミを賑わせているが、GMは、世界で最も大きな自動車企業である。GMが車1台作るのに大体鉄の材料が800ドルくらいかかるが、被雇用者に医療サービスをしているために、車1台に対して1,500ドルくらい上乗せしないとやっていけないという。このために、日本の会社と競合できないのだと政府に泣きついた。その主張は、「日本は皆保険制度で国がすべて面倒をみているじゃないか」ということである。後述するが、この点では日本の企業は確かに有利な条件で競争をしていることになる。


 法人の負担軽減を求める日本企業の甘え:欧米の企業が負担する法人税社会保険料の合計は日本よりはるかに大きい(140-142ページ)より。

 フランスの企業が負担する医療保険料は12.5%で日本の企業が負担する最大4.2%に比べてはるかに高く、被雇用者は0.75%で日本の最大4.2%に比べてはるかに低い。アメリカも確かに社会保険料法人税も日本より低いが、実際には図表7-7に示すように企業が負担する私的年金医療保険料が日本よりはるかに高い。前述したようにGMがこうした負担が企業経営を圧迫していると悲鳴を上げている厳しい現実がある。日本の企業は都合のよい数字だけをあげており、甘えがあるとしか思えない。
(中略)
 日本の企業が欧米並みの社会的責任を果たすだけで、医療と年金は継続可能なのである。


 多国籍化した日本の企業は、欧米では他の企業と同様に医療費などの社会保障費負担をし、法人税も支払っている。日本でも、企業に対する規制を強化することは可能である。国民皆保険が崩壊して困るのは、患者だけではない。優秀な人材を雇用しようとする企業も同様である。笑うのは、民間医療保険会社だけである。


 貴重なデータが多数掲載されている。「医療崩壊」を超え、「医療立国」をはかろうとする気宇壮大な志に共感する。