居住系施設入居者等に対する訪問リハビリテーション設定は無意味?

 2008年度診療報酬改定において、居住系施設入居者等である患者の場合に対する「在宅訪問リハビリテーション指導管理料(255点)」が新設された。
 この問題に関し、塞翁失馬さんから、次のような質問が寄せられた。

いつも興味深く拝読させていただいています。
新しくできた居住系施設への訪問指導料の件です。
医師による訪問診療は点数が大幅に下がっていますが訪問が可能です。
しかしながら訪問リハの居住系施設への訪問は介護保険を使用している人には使用できないようです。「介護保険医療保険の調整が生きているため。」居住系施設に入居されている方で介護保険を使っていない方は希だと思います。
何のための新しい点数なのか疑問です。

ご丁寧なお返事ありがとうございました。
私が確認した資料は下記です。
http://hodanren.doc-net.or.jp/iryoukankei/tyuuikyou/08kaitei/0328001_3.pdf
この中の、後半にある表 「在宅医療」ではすべて算定不可になっていると読み取れます。
算定できない点数を新設した・・・と考えてしまいます。


 興味ある話題なので、もう少し調べたうえで、エントリーとして詳しく記載したいとご返事をした。
 宿題を解決しようといろいろと調べてみたが、訪問リハビリテーションの件は複雑である。分かる範囲で記載する。


 訪問リハビリテーション問題を考える時、介護保険優先の原則があることを頭に入れておく必要がある。具体的には、次のような内容である。


 なお、訪問看護ステーションからの訪問リハビリテーション訪問看護7)に関しては、日本理学療法士協会訪問看護7について(お願い)と、在宅りはびり研究所&株式会社らいさす、最終回 第16回 訪問リハはどうなるの?をご参照にしていただきたい。後者の資料には次のような記載がある。

 一方、今回の厚生労働省からの通知は、市区町村にその具体的な判断を委ねていますが、その結果、自治体の解釈や判断にもばらつきが出ています。私が調査した範囲で言うと、その内容は5つに整理することができます。http://www.geocities.jp/houmonriha2006/santei.html
(1)厚生労働省の通知の例に則って6ヶ月、つまり10月から看護師の訪問回数をこえて療法士の訪問を算定できないとしている自治体、
(2)1年間は現状のまま訪問可能、
(3)3年間は現状のままで可能、
(4)現在厚生労働省都道府県の判断を参考に検討中、
(5)まったく検討していない、‐‐といった状況です。
 気の早い自治体では4月以降の訪問看護ステーションからの療法士の新規の訪問は、緊急を要する場合のみ認めるといった条件を出している所もあります。


 訪問看護ステーションからの訪問リハビリテーション訪問看護7)に関しては、現在も混乱が続いている。


 日本理学療法士協会介護保険部、H18年度 訪問リハビリテーション研修会 講義資料の中に、初台リハビリテーション病院伊藤隆夫氏の資料がある。この中に、訪問リハビリテーションの種類と報酬単価というスライドがあり、参考になる。
 訪問リハビリテーションの場合、医療保険×介護保険、病院・診療所・老健×訪問看護ステーション、計4種類がある。表にすると下記のようになる。

病院・診療所・老健 訪問看護ステーション
医療保険 在宅訪問リハビリテーション指導管理 PT・OTの訪問看護
介護保険 訪問リハビリテーション 訪問看護71(30分未満)、訪問看護72(30分−1時間)


# 病院・診療所・老健
* 在宅訪問リハビリテーション指導管理(医療保険
 単価:1単位につき300点
 週6単位まで算定可能
 退院(所)後3月まで週12単位可


* 訪問リハビリテーション介護保険
 単価:500単位
 リハマネジメント加算: 20単位
 短期集中リハ実施加算: 退院(所)から1月 330単位 退院(所)から3月 200単位


# 訪問看護ステーション
* PT・OTの訪問看護医療保険
 単価:8,600−8,700円


* 訪問看護7(介護保険
 訪問看護71(30分未満) 単価:425単位
 訪問看護72(30分−1時間) 単価:830単位
 夜朝加算25% 深夜加算50%


 前述した介護保険優先の原則より、介護保険サービスを利用する場合、医療保険からの訪問リハビリテーション訪問看護ステーションを含む)は事実上利用できない。また、訪問看護より訪問リハビリテーションのニーズが強い場合には、介護保険における訪問看護ステーションからの訪問リハビリテーションも利用困難である。
 そもそも、病院・診療所・老健からの訪問リハビリテーションが普及せず、訪問看護7がもっぱらとなったのは、報酬設定の差が大きな要因となっている。2006年度介護報酬改定において、短期集中リハ実施加算が設けられたことにより、退院直後に関しては病院・診療所・老健からの訪問リハビリテーションが実施しやすくなった。訪問看護7から病院・診療所・老健からの訪問リハビリテーションへの誘導と、訪問リハビリテーションの短期・集中化が政策として推し進められた


 問題となる居住系施設入居者等に対する「在宅訪問リハビリテーション指導管理料(255点)」について検討する。塞翁失馬さんからいただいた資料、http://hodanren.doc-net.or.jp/iryoukankei/tyuuikyou/08kaitei/0328001_3.pdfの9ページに関係する表がある。
 「在宅訪問リハビリテーション指導管理料(居住系施設入居者等)」の部分をみると、◯のところは一つもない。×がついているところは以下の施設である。


 上記施設中、介護老人保健施設以外は、新設された在宅患者訪問診療料(居住系施設入居者等)で規定されている「居住系施設入居者等である患者」を指し示している。この「居住系施設入居者等である患者」という規定は、「在宅訪問リハビリテーション指導管理料(居住系施設入居者等)」でも適用される。したがって、「在宅訪問リハビリテーション指導管理料(居住系施設入居者等)」は、診療報酬上の規定があるにも関わらず利用できない無意味な点数設定となっている介護保険優先の原則を自ら作ったことを忘れ、在宅患者訪問診療料(居住系施設入居者等)を作った勢いで設定しただけかもしれない。もし、そうだとすると、実に愚かである。


 深読みをすると、次のことが考えられる。法律に規定されていない高齢者用に作られた賃貸住宅・アパートが増加している。このような居住施設は、関連介護事業者のサービス利用を前提として家賃を低めに設定されている。今後、在宅への退院が促進される中、居住施設に対するニーズが高まる。もしかしたら、民間事業者が建設した高齢者用賃貸住宅・アパート入居者に対し、事前に網をかけようとして設定されたのではないか。