後期高齢者診療料届け出拒否問題に対する厚労省課長の苛立ち

 m3ニュース、08年度診療報酬改定 高齢者診療料「医療の制限ではない」 届け出拒否問題で原医療課長より。

08年度診療報酬改定 高齢者診療料「医療の制限ではない」 届け出拒否問題で原医療課長


記事:Japan Medicine
提供:じほう


【2008年4月9日】
 後期高齢者の外来での医学管理を評価する包括点数「後期高齢者診療料」の届け出をしないよう求める地域医師会が相次いでいる問題で、厚生労働省保険局医療課の原徳壽課長は4日、本紙の取材に応じた。患者が自由に医療機関を選べなくなるとの地域医師会の主張に対し、「誤解に基づく主張であり、医療を制限するとはどこにも書いてない」と指摘。同診療料はあくまで医学管理料の1つであり、フリーアクセスの制限は起きないと強調した。その上で「自分の健康について理解してくれる身近な医師を持つことを多くの患者が望んでいる。医師と患者の信頼関係を後押しするための点数であり、診療所の医師は患者の願いに応えるべきではないか」と呼び掛けた。


 原課長は「昨年1月に公表された日本医師会の指針を読んで、まったく同感だと思った。後期高齢者の診療報酬の骨子はこの指針に基づいている。後期高齢者診療料もこの考え方を基に新設した」とも述べ、日ごろから患者の慢性疾患の管理を行い、状態が急変したら専門医に紹介する同診療料の考え方に、日医の方針との違いはないと強調した。日医は昨年1月、かかりつけ医機能の充実に関する指針を公表。地域ケア体制の整備には医師の意識改革が重要とした上で、「病状に応じた適切な医療提供あるいは橋渡しをも担い利用者の安心を創造しよう」「高齢者の医療・介護のサービス提供によって生活機能の維持・改善に努めよう」など7項目の提言をまとめた。
  後期高齢者診療料の届け出を行わないよう呼び掛けている地域医師会の動きについては、「なぜ患者の要望に応えようとしないのか。患者の要望に応えたいと考える診療所医師の意欲をそごうとするのか分からない」と疑問を投げ掛けた。さらに、「後期高齢者診療料は、中小病院でも算定可能にしてほしいという要望が強い。しかし、あえて診療所のみが算定できるようにした。われわれも、多くの国民も、診療所の医師に期待している。診療所の医師は患者の願いに応えてほしい」と述べた。


「主病は1つ」は以前からのルール


 一方、「1人の患者の主病を診る1医療機関が算定」との要件に反発があることに対しては、「医学的に主病は1つに決まるものであり、これは診療報酬上での以前からのルール。後期高齢者医療制度に合わせて突然出てきたルールではない。主病は医学的に客観的に1つに決めてもらわなければならない」と指摘。後期高齢者診療料が「医学管理料」の1つである以上、主病を診療する1医療機関が算定するという診療報酬上のルールは、ほかの医学管理料と同様に適用されると強調した。


「主病を診療する1医療機関が算定」が原則-医学管理料のルール


 「1人の患者の主病を診る1医療機関が算定」という後期高齢者診療料の要件に、医療現場から反発の声が上がっていることに対し、厚生労働省保険局は「以前からの医学管理料の算定ルール」(医療課)と強調する。
  診療報酬点数表の「特掲診療料」の通則には、医学管理料のうち「特定疾患療養管理料」「ウイルス疾患指導料」「小児特定疾患カウンセリング料」「小児科療養指導料」「てんかん指導料」「難病外来指導管理料」「皮膚科特定疾患指導管理料」「慢性疼痛疾患管理料」「小児悪性腫瘍患者指導管理料」などは、同一医療機関で同一月に算定できないと明記されている。先月5日に出された医療課長通知では、「自院、他院を問わず同一月に算定できない」と明記されたが、「自院、他院を問わず」の部分は訂正通知で削除された。しかし、通則に列記されているこれらの医学管理料について、「患者の主病を診る1医療機関が算定する」という厚労省の方針に変わりはない。つまりA診療所で特定疾患療養管理料を算定している患者に対し、B診療所がウイルス疾患指導料を算定することはできない。
  診療報酬点数表の特定疾患療養管理料の欄には「主病とは、当該患者の全身的な医学管理の中心となっている特定疾患をいうものである」と明記されている。医療課によると「患者の主病は医学的に1つに決まるものであり、その主病を診る1つの医療機関が医学管理料を算定する」というのが診療報酬算定上のルールということになる。
  このルールは、医学管理料の1つである後期高齢者診療料にも適用される。A医療機関でこれまで継続して特定疾患療養管理料を算定している患者に対して、B医療機関では後期高齢者診療料を算定できない。保険局は「どちらが先かという話ではなく、医学的に決定される主病を診ている医療機関が算定することになる」(医療課)と説明する。
  医学的に1つに決まる1人の患者の主病に対し、複数の医療機関で医学管理料を算定することは原則できない。先月28日に出された疑義解釈でも、「複数の診療所で主病に対してさまざまな診療が行われることは、説明に基づく選択がなされた上での治療とは認められないことから、いずれの診療所でも出来高で算定することとなる」と明記した。


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 地域医師会レベルで、後期高齢者診療料届け出拒否問題が広がっていることに対し、原医療課長が危機感を持っていることがわかる。
 そもそも、後期高齢者診療料を「医師と患者の信頼関係を後押しするための点数」と強弁する感覚が理解できない。1996年に導入されその後廃止となった老人慢性疾患外来総合診療料(外総診)が1,470点(院外処方の場合)だったのに対し、後期高齢者診療料はわずか600点である。


 後期高齢者診療料ボイコット宣言で、神奈川保険医協会は次のように指摘した。

 4月実施の新医療制度、75歳以上を対象とする後期高齢者医療制度は06年度の老人医療費を基準に設計されている。それに照らすと、包括項目の医療費合計は7,716円(平成18年社会医療診療行為別調査)であり、6,000円は▲27%ととても低い水準である。しかも、この7,716円は平均像であり、肺炎など急性疾患や糖尿病の服薬管理の患者は、検査・レントゲンなど平均水準以上の医療費を実際に要しており、6,000円は極めて低い水準である。


 手のかかる診療を要求しながら、診療報酬は格段に切り下げられる。どこが「医師と患者の信頼関係を後押しするための点数」と言えるのだろうか。


 主病は一つであるという主張も診療報酬上の規定に過ぎない。複数の慢性疾患を抱えている高齢者に対し、医療機関は連携をとりながら診療を行っている。「主病は私の方で見ていますから、貴方の診療所では医学管理料をとらないでください。」と主張することを求める後期高齢者診療料は、医療連携をかえって破壊する。


 そもそも、後期高齢者医療制度は医療費削減のために導入された。後期高齢者診療料とは、低い診療報酬で医師にゲートキーパーの役割を担わさせることを目的としている。患者の受療権を守り、医療機関の経営を安定させ、築き上げてきた医療連携を発展させるために、地域医師会、保険医協会などが後期高齢者診療料届け出をボイコットするのは、自然な流れである。
 宮城県医師会が後期高齢者診療料に慎重な対応を求めるという通達を出したというテレビニュースが、本日放映された。少しずつ着実に後期高齢者診療料届け出拒否が広がっている。