日本におけるリハビリテーションの歴史的経過(2000年〜2004年)

 引き続き、高齢者リハビリテーション研究会「高齢者リハビリテーションのあるべき方向」(2004年1月)にある「高齢者リハビリテーションの現状」の部分を土台に、2000年以降の歴史的経過を振り返る。引用部分は「高齢者リハビリテーションのあるべき方向」の記述である。

 (2000年以降 介護保険等における取組)
○  2000(平成12)年からは、老後の最大の不安要因である介護を社会全体で支える仕組みである介護保険制度が施行された。これまで高齢者に提供されてきたリハビリテーションやその関連サービスのほとんどは、そのままの形で介護保険に継承されている。市町村で要介護認定を受けた要介護者に対して、介護支援専門員が作成するケアプランに基づいて、介護保険からリハビリテーションが提供されることとなった。これまでの予算に基づいた措置から社会保険への転換により高齢者に提供されるサービスの量は飛躍的に拡大し、高齢者に対するリハビリテーションはより身近なものとなったと言える。


○  また、介護保険制度施行に併せて介護予防事業が創設され、要介護状態にならないための介護予防*1の取組や、同時期に「健康日本21*2」が開始され、国民的な生活習慣病予防対策の強化が図られた。さらに医療保険においては、脳卒中等の患者に対して入院中に病棟で集中的にリハビリテーションを提供し、在宅復帰を目的とする「回復期リハビリテーション病棟」も創設された。


# 激動の時代の幕開け
(2000年)

  • 介護保険制度施行: 医療と保健、福祉の統合。基盤整備促進。なお、介護保険法そのものは1997年に成立した。施行まで3年間の準備期間があった。
  • 回復期リハビリテーション病棟入院料新設。
  • 第4次医療法改定: 一般病床と療養病床の区分導入。
  • 老人医療費定額から定率1割負担へ。

(2001年)

○  2002(平成14)年度の診療報酬改定においては、(1)従来の実施時間を中心とした評価から患者の症状に応じた個別療法を中心とする評価、(2)病棟等におけるADL*3(Activities of Daily Living:日常生活活動)の自立を目的とした理学療法の評価など早期リハビリテーションの評価の充実、(3)施設要件における訓練室面積要件を緩和し、高い人員配置を要件とした類型の設置、などが行われた。


# リハビリテーション診療点数大幅改定
(2002年)

  • 個別療法を中心とした評価: 複雑(40分)、簡単(20分)から、1単位20分の評価へ。1日4単位(条件により6単位まで)。療法士1人あたり個別療法18単位まで。
  • 早期リハビリテーション加算引き上げ: 1単位あたり14日以内なら100点の加算。
  • ADL加算導入: 病棟における訓練を重視。
  • 施設基準変更: 総合リハビリテーション施設基準に(B)基準: 施設240m2、PT・OT15人以上。(A)基準と比し、面積基準が大幅に緩和。
  • 言語療法の評価: STの点数がほぼPT・OTと同一となる。
  • リハビリテーション実施計画書の設定: ICFの用語使用。定期的評価と説明を義務づけ。

○  2003(平成15)年4月には、介護保険制度施行後、初めてとなる介護保険料の見直しと介護報酬改定が行われ、自立支援の観点から、個々の利用者のニーズに対応した、きめ細かく満足度の高いサービスが提供されるよう、介護老人保健施設介護療養型医療施設、通所リハビリテーション、訪問リハビリテーションにおいて個別リハビリテーションが導入された。


○  このように、これまでわが国においては、予防、医療、介護において一体となった高齢者リハビリテーション提供体制の整備が図られてきているが、
 (1) 最も重点的に行われるべき急性期のリハビリテーション医療が十分に行われていないこと
 (2) 長期間にわたって効果が明らかでないリハビリテーション医療が行われている場合があること
 (3) 医療から介護への連続するシステムが機能していないこと
 (4) リハビリテーションとケアとの境界が明確に区別されておらず、リハビリテーションとケアとが混同して提供されているものがあること
 (5) 在宅におけるリハビリテーションが十分でないこと
などの課題があり、必ずしも満足すべき状況には至っていない。そのため、今後の高齢者介護の基盤となるリハビリテーションの現状についての検証と今後のあるべき姿の検討が求められている。


# 介護報酬、診療報酬改定と医療法改定に伴う病床転換、障害者支援費制度導入
(2003年)


(2004年)

  • 言語療法Iの創設など基準見直し。早期リハビリテーション加算対象に言語聴覚療法も認める。
  • 1日6単位算定対象患者の拡大。
  • 亜急性期入院医療管理料新設。


 2000年〜2004年までは、それ以前とうってかわって、リハビリテーション関係者にとって目まぐるしい制度改悪への対応が必要となった時代だった。診療報酬に関して言うと、1990年代のような大幅な引き上げこそなくなったが、早期および濃密なリハビリテーションへの誘導、言語聴覚療法への適正な評価、定期的評価と説明の強調など、納得できる改定が続いた。回復期リハビリテーション病棟急増、介護分野への需要拡大もあり、診療報酬マイナス改定が続く中、医療機関の生き残り対策として、リハビリテーションが脚光を浴びていた時代だったとも言える。
 しかし、高齢者リハビリテーション研究会が指摘された問題点も残されていた。社会保障費一律削減が決定される中、2006年度診療報酬・介護報酬同時改定が準備された。

*1:介護予防:高齢者の生活機能の低下を予防するための取組。厚生労働省においては、これまで介護予防事業として、高齢者ができる限り要介護状態となったり、状態が悪化することがないようにするために、疾病・事故の予防教育や筋力向上のための訓練、生きがいづくりのためのデイサービス、低栄養予防等のための食の自立支援などを実施してきている。

*2:健康日本21:生活習慣病の早期発見や早期治療とともに、疾病を予防する健康的な生活習慣を普及・定着させるため、2000(平成12)年から生活習慣病予防として重要な9つの分野について2010(平成22)年までの目標を設定し、その達成に向けた国民運動を展開している。

*3:ADL:ひとりの人間が独立して生活するために行う基本的な、しかも各人に共通して毎日繰り返される食事、排泄、歩行、更衣、整容、入浴などの一連の身体動作群のこと。ADLの評価の対象は、主としてこれらの身体的運動機能であるが、精神活動やコミュニケーション能力などが評価される場合もある。