二木立先生の講演「今後の医療制度改革とリハビリテーション医療」

 全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会研究大会より、二木立先生の講演「今後の医療制度改革リハビリテーション医療」の内容を紹介する。
 私自身にとって重要と判断した部分を記載する。なお、レジュメからの抜粋+メモ書きで構成している。メモ書きに関しては、冒頭に[メモ]と記載する。

1.2006年医療制度改革法の位置づけと今後の医療制度改革の見通し


 [メモ]詳しくは、「医療改革ー危機から希望へ」を読むようにとのこと。

医療改革―危機から希望へ

医療改革―危機から希望へ


(1)2006年医療制度改革関連法の位置づけ
 1980年代前半の「第一次保険・医療改革」以来、四半世紀ぶりの包括的改革。
 ただし、個々の制度改革は従来の政策の延長上にあり、「抜本改革」と呼ぶのは不適切。
 新自由主義的医療改革(医療への市場原理導入)は含まれていない。


(2)2008年制度改革の見通しの「大枠」
1)患者負担の大幅拡大と「特定療養費制度の再構成」(保険外併用療養費)により、医療・介護保障制度の公私2階建て化が加速される。→ 低所得層の受診機会の抑制。
2)「医療計画制度の見直し等を通じた医療機能の分化・連携」と医療機関の「二極分化」が進む。ただし、厚労省「医療政策の経緯、現状及び今後の課題について」(2007年4月)では、ある程度の急性期医療に対応できる中小病院があることが必要。」と言及。
3)「在宅医療の充実」は現在よりも進むが、「在宅ターミナルケア」の急増はない。
4)医療機関の複合体化が加速する。
 新しい「複合体」のサービス提供形態は相当変わる。介護保険の3入所施設中心から、「居住系サービス」中心へ
 * 「居住系サービス」: 自宅以外の多様な居住の場。ケアハウス、有料老人ホーム、グループホーム等の地域密着型サービス、高齢者専用賃貸住宅等。
 医療法第5時改正により、医療法人による有料老人ホームの設置・運営が解禁された。法改正後の通知で、医療法人による高齢者専用賃貸住宅の開設も可能となった。療養病床削減のために「なんでもあり。」
 [メモ]「回復期リハビリテーション病棟実態調査」における退院先に、「居住系サービス」を加えた方が良い。
5)医療法人制度改革により、医療機関の非営利性の徹底と透明で効率的な医療経営への要請が格段に強まる。
6)療養病床の再編・削減は厚労省の思惑どおりには進まない。
 医療療養病床の15万床への削減は困難。
 [メモ]医療療養病床ベースの回復期リハビリテーション病棟は削減対象からはずすことが決定された。


2.リハビリテーション診療報酬改定を中長期的視点から複眼的にみる


 二木先生曰く、以下が初めて講演する部分。


(1)厚労省リハビリテーション診療報酬改定のプラス面
◯ 日本リハビリテーション医学会や日本リハビリテーション病院・施設協会の「根拠に基づく」提言、先進的医療機関の取り組みを評価し、リハビリテーション医療の質の引き上げに努めてきた。
◯ その象徴が、2000年の回復期リハビリテーション病棟の新設。
 [メモ]民間中小病院の救世主的病棟。今後も回復期リハビリテーション病棟だけは増やすと厚労省幹部は明言している。全国の中小病院は石川誠医師に足を向けて寝れない。
◯ 1980年代以降の厳しい医療費抑制政策の下でも、質の高いリハビリテーション(急性期・回復期)を評価。
◯ 単純にプラスとは言えないが、一連の改定で質の評価・管理のための規制が強化された。医療の質の担保は、本来、各医療機関や学会、専門職集団が自主的に行うべきものだが、わが国ではそれの土壌・条件が弱いため、厚労省が強権的にそれを「代行」した。


(2)厚労省リハビリテーション診療報酬改定のマイナス面
◯ 21世紀に入って(2002年以降)、恣意的で、充分に「根拠に基づく」ことのない改革が、一般医療に先立って、先行的・実験的に導入されるようになった
 [メモ]リハビリテーション医療は「モルモット」になっている。
◯ 2002年改定: 患者レベルでの3つの療法の合計回数の上限導入。
 ー 制限診療の復活。「リハビリテーション医療の2階建て医療(公私混合医療)化の布石」。
◯ 2005年10月: 制限回数を超えるリハビリテーション混合診療化。
 ー 混合診療部分解禁の「目玉」とされた。
◯ 2006年改定: 発症後期間に基づくリハビリテーション算定日数上限の導入。
 ー 医療保険の急性期・亜急性期医療保険への純化の先駆け。他面、上記混合診療は事実上否定。
◯ これらの背景に、1990代以降のリハビリテーション医療費の着実な増加がある。
 ー 2002年以降、リハビリテーション医療についても「ゼロサム改定」へ転換。


◯ リハビリテーションに先行的・実験的に導入された3つの理由。

  • リハビリテーション医療費が医療費全体の1〜2%にすぎず、失敗しても影響が小さい。
  • リハビリテーション関連団体の政治的発言力がまだ弱い。
  • [メモ](この部分はレジュメになく口頭で追加)リハビリテーション関係団体は真面目で、個別データをしっかり集めている。また、良い人が多く、従順。

 [メモ] 講演終了後の質問「個別データを公表すると、質の低いところが分かってしまう。身内を売るようなことにもなる。このことに関して、二木先生はどう思うか。」 → (回答)評価をし、説明責任をはたすことが重要。ただし、官僚に悪用されないこと。質が高いことを示していれば、国はそう簡単には医療費を削れない。


(3)恣意的で、充分に「根拠に基づく」ことのない実験的改革の導入の最たるものが、2008年改定で導入予定の、回復期リハビリテーション病棟の「質に応じた評価」
◯ 指標: 居宅等退院率、重症患者受け入れ率、重症患者の退院時日常生活動作改善率。
 これら「指標は試行的なものであり、その妥当性については検討を行いつつ導入」。
 特定施設・地域でのモデル事業を飛ばして、全国レベルで「社会実験」!?
 vs 急性期病院へのDPC方式の慎重な導入。
 [メモ] リハビリテーション医療関係者は、「なめられている」。
 [メモ] 講演終了後の質問「先生は何で私たちと一緒に闘わないのか。」→(回答)矛先が間違っている。リハビリテーション医療関係者が了承したから、試行的に導入されることが決まった。中医協委員は慎重。2月1日中医協でも、「アウトカムは難しい。」、「患者選別につながらないようにあくまでも試行的に」という発言が相次いでいる。データを集め、おかしいところはおかしいと主張しましょう。


◯ 「成果に基づく(質に応じた)支払い(pay for performance、P4P)」の国際的経験。
 イギリス(プライマリケア)、アメリカ(メディケア等の入院医療)等、主として英語圏諸国で、2000年前後から導入され始めているが、多くはまだ試行的。
 入院医療の対象はすべて急性期医療・手術。
 大半の指標は「構造」「プロセス」に関わるもので「アウトカム」は例外的。
ー P4Pは「質の評価というよりも、まさにパフォーマンスで、何をやったかというプロセスの評価…クリティカルパス等に近い」(宇都宮啓厚労省保険局企画官『文化連情報』2008年1月号「今後の医療供給体制と農村医療」)
 アメリカではメディケアへの包括的導入が予定されているが、リハビリテーション医療とスキルド・ナーシング・ホーム(亜急性期医療施設)への導入は「現時点では除外」、「不適切」と勧告されている。
 (Institute of Medicine: Rewarding Provider Performance, 2006, pp.110-112)
 イギリスでは、医療費大幅引き上げ政策の一環として導入された。
 [メモ] 加算要件としてプライマリケア医に支払われた。
 [メモ] アメリカでは、入院医療単価下げとパフォーマンスの高い病院に対し少し引き上げるという組合せで行われた。


 詳しくは、「P4Pのすべて」という書籍を読みましょうとのこと。P4Pを推進する立場で記載されているが、いろいろな前提条件が必要ということを強調している。

P4Pのすべて―医療の質に基づく支払方式とは

P4Pのすべて―医療の質に基づく支払方式とは


◯ リハビリテーション医療を対象とし、しかも「アウトカム」指標を用いた「質に応じた評価」は世界初!

  • 「根拠に基づく」ことのない、無謀な試み。
  • 指標達成のため、患者の選別・新たな「リハビリ難民」が生じる危険がある。
  • 回復期リハビリテーション病棟の質の確保は、人員水準に応じた施設基準の2段階化(リハビリテーション医療関連5団体の要望)により行うべき。
  • 「アウトカム」指標および「プロセス」指標と医療費との関連については、診療報酬改定とは切り離し、モデル事業等により、学問的検討を行うべき。


おわりに


◯ よりよい医療改革をめざした私の改革案と「希望の芽」。
 → 「医療改革」第1章を読まれたい。
◯  リハビリテーション専門職・団体には2つの責務がある。
 リハビリテーション医療の適応と禁忌を明確にし、「根拠に基づく」リハビリテーション医療を確立する
 医療サービスと介護(保険)サービスの橋渡し役を果たし、患者・利用者に切れ目のないサービスを提供する
◯  大局的には、医療・福祉は永遠の「安定成長産業」であり、特に医療と福祉の接点にあるリハビリテーション医療はその最大の成長株。 
 2つの責務が実行されるならば、リハビリテーション医療の将来は明るい。


 二木立先生の講演は時宜を得たものだった。独特の皮肉たっぷりな口調で、リハビリテーション医療関係者の「人の良さ」という弱点を指摘しながらも、「根拠に基づく」医療を構築していくことが将来を切り開く道となることを示していただいた。


 また、本ブログで私が訴え続けてきた「成果主義」の危険性を、世界の状況と比較しながら詳細に分析し、分かりやすく聴衆に説明していただいた。


 本講演を聞けたことが、全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会研究大会に参加した最大の成果だった。二木先生に改めて感謝を申し上げたい。