長嶋茂雄氏とオシム元監督

 オシムサッカー日本代表監督は、どのようなリハビリテーションを受けているのだろう。長嶋茂雄氏と同じ病院に入院していると噂されているので、多分次のような状況だと予想している。


* リハビリテーション専門学校の講義資料より(2004年、長嶋茂雄氏が脳梗塞で倒れた時に作成)

「一時帰宅」「5時間リハビリ」 長嶋監督がアテネに意欲満々!(週刊ポスト6月28日号の見出しより)


 この見出しをみた感想
# 巨人ファン
 偉いなあ。さすが長嶋さん!


# リハビリテーション関係者
 1日5時間なんて、訓練の上限を越えているのでは?特別待遇なのかな?


# ある病院に入院中の患者家族
 長嶋さんは5時間もリハビリテーションしてもらっているのに、どうしてうちのおばあちゃんは1日20分なの?このままじゃ、寝たきりになってしまう。介護が大変だからどうしよう。ずっとこの病院においてもらえればいいのに。困ったわ‥‥‥


 リハビリテーション関係者以外、意味が全く分からないだろうと思う。
 実は、保険診療上1日で実施可能なリハビリテーションの上限が決まっている。2004年当時は1日6単位だった。1単位20分なので最長2時間である。2006年以降は、条件によっては1日9単位(3時間)まで実施可能となった。いずれにせよ、1日5時間なんて一般的なリハビリテーション病院では通常は実施できない。


 脳卒中治療ガイドライン2004では、次のような記述がある。

 脳卒中後遺症による運動障害に対しては、自然回復を待つよりも、リハビリテーションを行うことが強く勧められる(グレードA)。


 患者層や評価時期によって効果が異なるが、機能障害および能力低下の回復をより促進するためにリハビリテーションの量を増やし、集中して行うことが勧められる(グレードB)。


 起立ー着席訓練や歩行訓練など下肢訓練の量を多くすることは、歩行能力の改善のために強く勧められる(グレードA)。


 グレードとは、治療の根拠があるかどうかを示している。グレードAが最も高く、ついでグレードBである。
 要するに、長嶋茂雄氏に行われ、オシム元監督にも実施されていると思われるリハビリテーションは、理にかなっているのである。一般的な病院ではそこまで行えない理由はつぎのとおりである。


 まず、リハビリテーション専門職の数が少ないことがあげられる。現在、PT・OT・STとも急ピッチで養成が進んでおり、5年で倍増するペースとなっている。
 リハビリテーション専門医も少ない。2007年9月26日1,383名しかいない。しかも、毎年40名程度しか増えていない。産科医や小児科医が絶滅危惧種に指定されそうだという話があるが、リハビリテーション専門医はそもそも数が少ない天然記念物ものである。したがって、リハビリテーション医療の普及がなかなか進まない。
 国の低医療費政策も悪影響を及ぼしている。2006年の改定で、脳血管疾患等リハビリテーション料の低い方の基準は、20分あたり1000円まで切り下げられた。この額では療法士を雇えないということで、リハビリテーションをやめてしまった病院もある。
 回復期リハビリテーション病棟自体もまだ足りない。人口10万人あたり50床という目標があるが、人口の高齢化を考えるとそれでも不足している。特に東京など関東地方では目標値をクリアしていない。


 どうして、長嶋茂雄氏やオシム元監督は、規定を超えてリハビリテーションができるのだろう。おそらく、保険外の負担が発生しているのではと推測する。以前、この病院の看護師長の講演を聞いた時、最も高い個室料金は1日◯万円とのことだった(◯の中は想像してください、切りのいい数字です)。しかも、最も高い個室から埋まっていくということである。東京はお金持ちが多いところだと、つくづく思った。


 リハビリテーション医療改善のために、全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会は、手厚いスタッフ配置を求める運動を行ってきた。しかし、今回の診療報酬改定で、回復期リハビリテーション病棟に対する成果主義が導入されようとしている。詳しくは、回復期リハビリテーション病棟と成果主義(まとめ)をご覧いただきたい。リハビリテーション医療をめぐる環境の改善なしに、良い成果はあげられない。効果があがりそうな患者だけを集め、より重度の患者が切り捨てられる可能性もある。モラルハザードが危惧される。


 誰もが長嶋茂雄氏やオシム元監督と同じようなリハビリテーションが受けることができるように、リハビリテーション医療の普及に貢献したい。それが私の願いである。