団体信用生命保険は脳卒中患者を救わない

 仕事柄、身体障害に関わる様々な書類を記載する。元来の悪筆のため、診断書はできる限り書きたくない。特に、団体信用生命保険用の診断書は折角時間を費やして仕上げても役に立たないことが多く、最近は相談を受けた時点で断ることが多い。理由を述べる。


 住宅ローンを申し込むと、通常団体信用生命保険に加入する。団体信用生命保険の仕組みについては、All About マネーをご覧いただきたい。住宅ローンの返済途中で死亡、高度障害になった場合に、本人に代わって生命保険会社が住宅ローン残高を支払う制度である。
 脳卒中後遺症で重度障害になった場合、患者と家族は住宅ローンの返済に窮する。銀行に相談すると、主治医に相談し、診断書を書いてもらうことを勧められる。しかし、よほどのことがない限り、脳卒中では高度障害と認定されない。


 団体信用生命保険加入日以降の障害、または疾病によって保険期間中に次のいずれかに該当した時に、高度障害状態になったと判断される。
1.両目の視力を全く永久に失ったとき。
2.言語またはそしゃくの機能を全く永久に失ったとき。
3.中枢神経系または精神に著しい障害を残し、終身常に介護を要することとなったとき。
4.胸腹部臓器に著しい障害を残し、終身常に介護を要することとなったとき。
5.両上肢とも、手関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったとき。
6.両下肢とも、足関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったとき。
7.1上肢を手関節以上で失い、かつ、1下肢を足関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったとき。
8.1上肢の用を全く永久に失い、かつ、1下肢を足関節以上で失ったとき。

 「常に介護を要する」とは、食物の摂取、排便・排尿・その後の始末、および衣服着脱・起居・歩行・入浴のいずれもが自分ではできず常に他人の介護を要する状態を意味する。要するに、重度寝たきりの状態である。また、「そしゃくの機能を全く永久に失ったもの」とは、流動食以外のものは摂取できない状態で、その回復の見込みのない場合を意味する。 経管栄養の状態である。さらに、よく読むと、脳卒中で最も多い片麻痺に該当する項目がない。上記7、8のような状態になることは滅多にない。


 団体信用生命保険の重度障害からは、脳卒中片麻痺が意識的にはずされている。歩行ができなくても、摂食動作ができていれば該当にならない。


 今後新たに住宅ローンを組む方にアドバイスする。多少金利は高くなったとしても(+0.3%程度)、三大疾病付の保険にした方が安心である。脳卒中なら、初めて医師の診療を受けた日からその日を含めて60日以上、言語障害、運動失調、麻痺等の他覚的な神経学的後遺症が継続したと医師によって診断された時に、住宅ローン支払いを肩代わりしてもらえる。がんや心筋梗塞のハードルも決して高くない。


 住宅会社や銀行は団体信用生命保険の限界をしっかりと説明して欲しい。脳卒中になってからも住宅ローン支払いに苦しむ患者を目の前にして、何もできないのは辛い。