障害者施設等病棟の見直し(まとめ)

 障害者施設等病棟の見直しが次回診療報酬改定で行われる。


# 障害者施設等病棟の要件(現行)

イ 児童福祉法に規定され、厚生労働大臣の指定する以下の施設
・ 肢体不自由児施設
・ 重症心身障害児施設
・ 国立高度専門医療センター
・ 国立病院機構の設置する医療機関

ロ 上記イに定めたもの以外で、次の各号のいずれにも該当する一般病棟
1) 以下の患者を概ね7割以上入院させていること
・ 重度の肢体不自由児(者)
・ 脊髄損傷等の重度障害者
・ 重度の意識障害
・ 筋ジストロフィー患者
・ 難病患者等

2) 看護基準
・ 10:1以上(看護補助者を含む。夜勤時は看護職員1を含む2以上)

 上記基準のうち、重度の肢体不自由児(者)とは、身体障害者福祉法施行規則・別表第5号における肢体不自由の1、2級に相当する範囲、とされている。


# 障害者施設等病棟の4つの顔

 障害者施設等病棟はいくつもの顔を持つ。文献報告も少なく、ネットで検索してもその姿は茫洋としてつかめない。私は、その特性から大きく4つに分かれると推測している。

1)肢体不自由児(者)施設
2)療養病棟的特性
3)一般病棟的特性
4)リハビリテーション病棟的特性


 中医協診療報酬基本問題小委員会(第107回)(2007年11月7日)の入院医療の評価の在り方について資料(診−2−2)に障害者施設等施設の調査結果がある。


 障害者施設等病棟は表に示すように2006年度以降、急増している。

病床届出数 病床数累計 病棟数累計
2002年度  22.974  22,974   518
2003年度   3,605  26,579   594
2004年度   5,720  32,299   775
2005年度   3,866  36,165   841
2006年度   8,528  44,693  1,187
2007年度  11,009  55,702   ー

注)2006年度までは各年7月1日の数値。2007年度は5月1日の数値。


 厚労省は、障害者施設等病棟急増の原因を探るため、2007年7月23日〜8月10日の期間に合計680施設にアンケートを行った。57.4%の回答率だった。


 患者構成は、肢体不自由児(者)施設等15,154名、その他の施設13,666名となった。平均年齢肢体不自由児(者)施設等39.5歳、その他の施設74,1歳、平均入院期間肢体不自由児(者)施設等5,269日、その他の施設579日だった。

 疾患別構成をみると、肢体不自由児(者)施設等では、脳性麻痺が45.9%と最多だったのに対し、医療法人立の病棟では、脳梗塞38.4%、脳出血12.8%となった。疾患回答なしがそれぞれ29.6%、28.9%となった。

 患者の退院の見通しは、肢体不自由児(者)施設等では、退院(転院・転棟)の見通しは無いが81.1%だったのに対し、医療法人立では90日以内に退院できる見通し20.4%、今後受け皿が整備されれば退院できる31.6%となった。

 2007年に障害者施設等入院基本料を算定している病床に入院している患者が2006年度にどのような算定をしているかという調査では、療養病棟2,486名、一般病棟988名、障害者施設等30,062名となった。


 診療報酬基本問題小委員会(第117回)(2007年12月14日)の中に障害者施設等入院基本料に関する資料がある。入院医療の評価のあり方について(2)の(診−1−2)には、療養病床の年次推移に関する図が示されている。2006年度診療報酬改定前と比し、医療療養病床が26.1万床から25.1万床へ、介護療養病床が12.3万床から11.3万床へ、それぞれ1万床ずつ減少している。一方、障害者施設等病棟は3.6万床から5.6万床へと2万床増えている。


 以上の調査結果より、厚労省は次のような結論を導きだした。

* 課題
(1) 障害者施設等入院基本料の対象患者は、本来であれば手厚い医療が必要である障害者や難病患者等を想定していたところ。しかし肢体不自由児(者)施設等以外の医療機関では、脳梗塞等に伴う障害を持つ患者の割合が高く、医療ニーズの低い患者が多い場合もあると推測される。
(2) 療養病床に対して医療区分を導入したことに伴い、平成18年度以降療養病棟から障害者施設等入院基本料を算定する病棟への転換が進んでいるが、当該入院患者の多数は慢性期の療養の対象と考えられる。

* 論点
 障害者施設等一般病棟の本来の目的に鑑み、医療ニーズがそれほど高くないと考えられる脳梗塞脳出血後遺症の患者が中心となっている病棟に対しては、一定の経過措置を設けつつ、ふさわしい病棟への転換を進めることを検討してはどうか。


 データを解釈する限り、約2万床前後は肢体不自由児(者)施設と推計される。その多くは、2000年度診療報酬改訂直後に算定した病棟だろう。


 厚労省は、障害者施設等病棟の急増は、療養病棟からの移行と結論づけている。データからみる限り妥当な判断と思われる。しかし、地域に存在する障害者病棟の状況をみると、一般病棟からの移行も少なくない。

 障害者施設等病棟では、特殊疾患入院施設管理加算、入院期間に応じた加算が算定できる。入院基本料(10:1)1,269点+特殊疾患管理加算350点=1,619点が基本的診療点数となる。入院期間14日以内で312点、30日以内で167点の加算がつく。さらに、各種加算、出来高払いの診療報酬が加わる。
 高齢者が多いなどの理由で在院日数が長期化しがちな一般病院の場合、障害者施設等病棟にした方が経営的メリットがある。また、障害者施設等病棟が在院日数のカウントからはずれるため、病院全体の在院日数短縮に貢献する。このことに気づいた病院経営者が、一般病棟から障害者施設等病棟への移行を進めたと思われる。


 障害者施設等病棟でリハビリテーション医療を積極的に行っている病院も見受けられる。
 回復期リハビリテーション病棟では、発症から入院までの期間、および、在院期間、対象疾患に制限がある。また、リハビリテーション料以外は全て包括である。したがって、発症から時間がたちすぎている、長期にリハビリテーションを行う必要がある、対象疾患からはずれている、そして、重症であるため包括診療報酬では持ち出し分が多い患者を対象として、障害者施設等病棟を利用しているところがある。


# 障害者施設等病棟からの転換の見とおし

 障害者施設等入院基本料を算定している病棟の中から、肢体不自由児(者)施設等以外から脳卒中後遺症患者が除外される。


 療養病棟的特性をもつ場合には、療養病棟ないし転換型老健を目指すことになる。経過措置等として、「算定要件の見直しについては、◯ヶ月の猶予をもって対応」、「対象外となった患者に対し、退院調整料を検討」と記載されている。また、療養病棟に転換した病棟において、「◯年◯月時点で入院していた対象患者については、平成22年3月末までは医療区分2とみなす等」、「平成24年3月末までの措置は別途設定・退院調整料を新たに設定」となっている。約2年の猶予期間中は、現在の入院患者は点数が比較的高い医療区分2とみなすという暫定措置が利用できるため、経営的メリットがある。ただし、あくまでも2年間だけであり、新規患者には適応されない。


 一般病棟的特性がある場合には、一般病棟に戻し、在院日数管理を強化することになる。看護スタッフ確保困難、医師不足、在院日数管理に伴う労働強化対策など、課題は山積している。


 リハビリテーション病棟的特性がある場合、回復期リハビリテーション病棟への転換を目指すことが妥当である。障害者施設等病棟のまま脊髄損傷や頭部外傷などに特化するところもあると推測する。一方、これまで障害者施設等病棟が救い上げてきた重症の若年脳血管障害で長期にリハビリテーションを必要とする患者は行き場を失いかねない。

 疾患別リハビリテーション料算定日数上限問題が表面化した2006年度以降、リハビリテーション医療を限定的なものととらえ、制限していく動きが強化されてきている。回復期リハビリテーション病棟への成果主義導入に伴う重症患者の選別の問題も危惧される。ADLが短期間で著明に改善する患者以外を切り捨てなければ医療経営が成り立たないような制度改変は、リハビリテーション医療の存在意義を否定するものとしか思えない。

 障害者施設等病棟でしか対応できなかったリハビリテーション適応患者が、リハビリテーション医療の蚊帳の外におかれないことを願う。