公立病院改革ガイドラインと医療崩壊(まとめ)


# 公立病院改革ガイドラインの概要

 公立病院改革懇談会の開催要綱には、次のような趣旨が記載されている。

 6月19日の「経済財政改革の基本方針2007」においても、「総務省は、平成19年内に各自治体に対しガイドラインを示し、経営指標に関する数値目標を設定した改革プランを策定するよう促す」とされたところである。
 このたび「公立病院改革ガイドライン」策定に当たり、有識者の意見を伺うため、「公立病院改革懇談会」を開催する。


 最終的にまとまった公立病院改革ガイドライン(以下ガイドラインと記述)では、公立病院改革の3つの視点として、(1)経営効率化、(2)再編・ネットワーク化、(3)経営形態の見直しが強調されている。ガイドラインのポイントから引用する。

(1)経営の効率化
・ 経営指標に係る数値目標を設定
1)財務の改善関係(経常収支比率、職員給与費比率、病床利用率など)
2)公立病院として提供すべき医療機能の確保関係 など
・ 一般会計からの所定の繰出後、「経常黒字」が達成される水準を目途
(地域に民間病院が立地している場合、「民間病院並の効率性」達成を目途)
・ 病床利用率が過去3年連続して70%未満の病院は病床数等を抜本的見直し

(2)再編・ネットワーク化
・ 都道府県は、医療計画の改定と整合を確保しつつ、主体的に参画
・ 二次医療圏等の単位での経営主体の統合を推進
・ 医師派遣拠点機能整備推進。病院間の機能重複を避け、統合・再編を含め検討
・ モデルパターンを提示

(3)経営形態の見直し
・ 人事・予算等に係る実質的権限、結果への評価・責任を経営責任者に一本化
・ 選択肢として、地方公営企業法全部適用、地方独立行政法人化、指定管理者制度、民間譲渡を提示
・ 診療所化や老健施設、高齢者住宅事業等への転換なども含め、幅広く見直し


 再編・ネットワーク化を行う理由としては、ガイドラインでは、次のように指摘されている。

 近年の公立病院の厳しい経営状況や道路整備の進展、さらには医師確保対策の必要性等を踏まえると、地域全体で必要な医療サービスが提供されるよう、地域における公立病院を、1)中核的医療を行い医師派遣の拠点機能を有する基幹病院と2)基幹病院から医師派遣等様々な支援を受けつつ日常的な医療確保を行う病院・診療所へと再編成するとともに、これらのネットワーク化を進めていくことが必要である。
 この場合において、地域の医療事情に応じ、日本赤十字社等の公的病院等を再編・ネットワーク化の対象に加えることも検討することが望ましい。


 CBニュース 公立病院改革で特例債の発行容認(2007年12月21日)から、財政面での支援措置について、報じられている。

 GLでは、これまで明らかになっていなかった財政支援措置の具体的な中身を示した。それによると、医師不足などによって03年度以降に発生した不良債務を長期債務に振り返るため、「公立病院特例債」の発行を08年度に限って認める。償還期間は7年。
 特例債を発行できるのは、医業収入に対する不良債務の割合(不良債務比率)が07年度時点で10%以上の公立病院事業。自治体が08年度内に改革プランを策定することが条件。

 特例債の発行容認には、資金不足が足かせになり抜本改革に踏み切れない病院事業の債務返済を支援することで、再編・ネットワーク化を促す狙いがある。
 総務省によれば、不良債務比率が10%以上の病院事業は06年度末時点で全国に67ある。債務の総額は03年度から06年度までに約560億円増えているといい、特例債の発行額については600億円を見込んでいる。


# ターゲットは都市部の公立病院

 ガイドラインより、公立病院の果たすべき役割の明確化の部分を引用する。ターゲットは都市部の公立病院であることが滲み出ている。

 公立病院をはじめとする公的医療機関の果たすべき役割は、端的に言えば、地域において提供されることが必要な医療のうち、採算性等の面から民間医療機関による提供が困難な医療を提供することにある。
 公立病院に期待される主な機能を具体的に例示すれば、1)山間へき地・離島など民間医療機関の立地が困難な過疎地等における一般医療の提供、2)救急・小児・周産期・災害・精神などの不採算・特殊部門に関わる医療の提供、3)県立がんセンター、県立循環器病センター等地域の民間医療機関では限界のある高度・先進医療の提供、4)研修の実施等を含む広域的な医師派遣の拠点としての機能などが挙げられる。各公立病院は、今次の改革を通じ、自らが果たすべき役割を見直し、改めて明確化すると同時に、これを踏まえ、一般会計等との間での経費の負担区分についての明確な基準を設定し、健全経営と医療の質の確保に取り組む必要がある。
 このような観点からすれば、特に民間医療機関が多く存在する都市部における公立病院については、果たすべき役割に照らして現実に果たしている機能を厳しく精査した上で、必要性が乏しくなっているものについては廃止・統合を検討していくべきである。また、同一地域に複数の公立病院や国立病院、公的病院、社会保険病院等が並存し、役割が競合している場合においても、その役割を改めて見直し、医療資源の効率的な配置に向けて設置主体間で十分協議が行われることが望ましい。


 関係する文章をガイドラインから引用し、以下に列記する。

  • 「民間病院並みの効率性」の達成
  • 民間的経営手法の導入
  • 経営感覚に富む人材の登用等
  • 病床数が過剰な二次医療圏内に複数の公立病院が所在する場合には、後掲の再編・ネットワーク化により過剰病床の解消を目指すべき
  • 特に、都市部にあって、複数の公立病院や国立病院、公的病院等、更には大規模な民間病院が多数立地し、相互の機能の重複、競合が指摘されるような場合には、他の医療機関の配置状況等を踏まえ、当該公立病院の果たすべき機能を厳しく見直し、必要な場合、他の医療機関との統合・再編や事業譲渡等にも踏み込んだ大胆な改革案についても検討の対象とすべきである
  • 「民間にできることは民間に委ねる」


 都市部で大幅な赤字を計上している病院が明らかなターゲットになっている。都立病院や各政令都市にある市立病院が統合・再編の対象となる。特に老朽化し、新規に立て直そうとしている自治体病院は厳しい状況に立たされることになる。


# 過疎地の中小病院が生き残れるのかどうか

 ガイドラインでは、経営指標の目標設定及び評価に関する留意点のところに、離島・へき地等に関して、次のような記述がある。引用する。

 さらに、これらの経営指標の水準は、病院の立地条件、医療機能等により大きく左右される場合も多く、これらの事情を捨象してあらゆる指標について一律の水準での目標設定や相互比較を行うことは困難である。とりわけ、例えば北海道や沖縄における離島、へき地に立地する病院や、小児科、産科、周産期、精神医療等に特化した専門病院は、一般会計等繰入前の経営指標は著しく厳しい水準とならざるを得ず、一般会計からの繰出基準の設定や経営指標の評価において一般的な公立病院とは異なる取扱いが必要な場合が多い点に留意すべきである。


 ガイドライン17ページに「別紙2 経営指標に係る目標数値例(不採算地区病院分)」という表があり、病床利用率など目標となる指標が低く抑えられている。ここでいう不採算地区とは、以下の要件をすべて満たす病院である。

  • 病床数100床未満(感染症病床を除く)、又は、1日平均入院患者数が100人未満であり、1日平均外来患者数が200人未満である一般病院。
  • 当該病院の所属する市町村内に他に一般病院がないもの又は所在市町村の面積が300km2以上で他の一般病院の数が1に限られるもの。

 上記条件を満たす病院は、北海道や沖縄における離島には多いかもしれない。しかし、平成の大合併で誕生した大崎市などでは、条件が当てはまらなくなる。過疎地域でも、やはり過去3年間連続して病床利用率70%未満というハードルが課せられることには変わりない。


# 公立病院改革の現状とガイドラインの影響

 公立病院改革懇談会(第1回)資料の19〜25ページに全国の自治体病院の改革事例が列挙されている。


 厚生労働省の医療施設調査(平成17年10月1日)によると、全国に自治体立病院が1,060ある。既に1/4近くの自治体病院がなんらかの改革に手をつけている。そして、その多くは経営形態の見直しである。再編・ネットワーク化は、全国的にみてもまだ少数派である。


 公立病院改革は待ったなしの課題となっており、経営の効率化や経営形態を中心が進んでいくだろうと予測する。
 一方、再編・ネットワーク化に関しては、複数の病院、経営体、自治体が絡み合うことを考慮すると、将来展望を明らかにし、強力なリーダーシップを示さない限り、実現困難である。
 最大の問題は、医師派遣機能である。基幹病院は、高度・先進的医療や救急医療を行っている。また、診療科も多く、専門分化している。医師数が見かけ上多くても、他の医療機関に派遣できるほどの余力はない。また、基幹病院で求められる医療と、中小病院や診療所など住民に近いところで求められる医療は異なる。派遣する側と受ける側のミスマッチが生じる。実際、国立病院機構間で行われた医師派遣は成功せず、短期間で終了した(参考資料:東京日和@元勤務医の日々、役人の思惑違い緊急医師派遣、2007年5月18日付)。いざ、統合・再編してみれば、荷を分かち合う病院が消え、基幹病院に全ての課題が押し付けられるといった悲劇も予想される。


 公立病院改革ガイドラインは病院経営の観点でまとめられている。営利目的の民間企業と同様、如何に生き残るかが思想の根本にある。そこには、医師数抑制政策や低医療費政策への批判はない。
 自治体の財政破綻を理由とした急速な改革は、栄養状態が悪い患者に対し緊急手術をする時に似たリスクを負う。基礎体力がある場合、多少の荒療治でも最終的な結果は良好となるだろう。しかし、小規模自治体にはそのような体力がない。公立病院改革の結果、地域から医療機関がなくなってしまう可能性がある。公立病院改革ガイドラインは、過疎地域における医療崩壊の最後の引き金となりかねない。そして、いったん医療崩壊が生じると、地域も崩壊する。