「ホテル又は旅館における高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準(追補版)」(案)に関するパブリックコメント募集中

 「ホテル又は旅館における高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準(追補版)」(案)に関する意見募集について(開始日2019年2月8日、締切日3月10日) が公示されている。ホテル・旅館のバリアフリー推進へ向けた内容であり、評価する方向で意見を提出しようと思っている。


# バリアフリー設計のガイドライン

 今回提案されたホテル又は旅館における高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準(追補版)案に、次のような記述がある。

 (1)「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準」とは

「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準(平成 29 年(2017 年)3 月版)」(以下「建築設計標準」という。)は、すべての建築物が利用者にとって使いやすいものとして整備されることを目的に、利用者をはじめ、建築主、審査者、設計者、施設管理者に対して、適切な設計情報を提供するバリアフリー設計のガイドラインとして定めたものである。

 高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律においては、不特定多数の者が利用し、又は主として高齢者、障害者等が利用する建築物(特別特定建築物)で一定の規模以上のものに対して建築物移動等円滑化基準への適合を義務付けるとともに、多数の者が利用する建築物(特定建築物)に対しては同基準への適合に努めなければならないこととしている。また、高齢者、障害者等がより円滑に建築物を利用できるようにするため、誘導すべき基準として、建築物移動等円滑化誘導基準を定めている。

 建築設計標準では、高齢者、障害者等からのニーズを踏まえた設計の基本思想や、設計を進める上での実務上の主要なポイント、建築物移動等円滑化基準を実際の設計に反映する際に考慮すべき内容、建築物のバリアフリーの標準的な内容を、図表や設計例を交えて解説することとしている。加えて、高齢者、障害者等をはじめとする多様な利用者のニーズに応えるため、施設の実情に応じて設計時に考慮することが望ましい留意点を掲載している。

 

 バリアフリー法には赤字で強調した下記3つの基準があるが、今回検討されたのは建築設計標準であり、バリアフリー設計のガイドラインとして定められているものである。

  •  建築物移動等円滑化基準: 特別特定建築物では義務、特定建築物では努力基準
  •  建築物移動等円滑化誘導基準: 努力目標として誘導すべき基準
  •  建築設計標準: バリアフリー設計のガイドラインであり、建築物移動等円滑化誘導基準を実際の設計に反映する際などに使用するもの

 

 さらに、建築設計標準(追補版)案には次の記述が続く。

(2)今回の改正の背景と位置づけ

○ 2020 年東京オリンピックパラリンピック競技大会の開催や、国際パラリンピック委員会(IPC)及び障害者団体等の要望等を契機に、高齢者、障害者等がより円滑にホテル又は旅館を利用できる環境整備を推進するため、国土交通省は、2017 年 12 月から学識経験者、障害者団体等、施設管理者団体等から構成される「ホテル又は旅館のバリアフリー客室基準の見直しに関する検討会(以下「前回の検討会」という。)」を行った。前回の検討会においては、ホテル・旅館の施設管理者や障害者団体等へのアンケート調査等を踏まえ、2018 年 6 月、ホテル・旅館のバリアフリー化を総合的に推進するため、

バリアフリー客室の客室設置数に係る基準の見直し(政令改正)

バリアフリー客室に係る建築設計標準の充実・普及(※バリアフリー客室=車椅子使用者用客室)

といった内容を含む対応方針がとりまとめられた。

 

  また、「はじめに」の部分にも次の記述がある。

  2020 年東京オリンピックパラリンピック競技大会の開催、我が国における急速な高齢化の進行、障害者差別解消法の施行、観光立国推進による訪日外国人旅行者の増加等を受け、ホテル又は旅館を含む建築物には、より一層のバリアフリー対応が求められている。

 

 今回の建築設計標準(追補版)案は、2020年東京オリンピックパラリンピックへの対応のために急遽まとめられたものだが、急速に進む高齢化や訪日外国人旅行者増加などの側面も見落としてはいけないことが示されている。

 

# 建築設計標準(追補版)案の概要

  建築設計標準(追補版)案の議論をした建築:ホテル又は旅館における高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準の改正に関する検討会 - 国土交通省で紹介されている建築:ホテル又は旅館のバリアフリー客室基準の見直しに関する検討会 - 国土交通省第4回会議の資料1 ホテル又は旅館のバリアフリー客室基準等に関する対応方針(案)に、ホテル又は旅館のバリアフリー客室(以下:BF客室)基準等に関する対応方針(案)が示されている。

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 要望及び課題の抽出という部分では、以下の6項目があげられている。

  • 複数のBF客室へのニーズ
  • BF客室の稼働率が低い
  • BF客室の快適性・デザイン性等、設計上の配慮が必要
  • 多様なニーズ(広さ、設備、価格等)に対応した客室が不足
  • バリアフリーに配慮した一般客室が少ない
  • BF客室等に関する情報提供が不足

 

 上記要望及び課題を受け、以下の3つの方向性が示されている。

 

 さらに、対応方針(案)に関しては、建築:ホテル又は旅館における高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準の改正に関する検討会 - 国土交通省第2回会議資料1 ホテル又は旅館のバリアフリー客室基準等に関する対応方針に対する取組状況をみると、次のような状況となっている。

 

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(1)BF客室設置数に係る基準の見直し

(2)条例整備促進のための基本方針改正

→ 政令改正済み。

(3)事業者等へのバリアフリー対応の要請

→ 施設管理者団体、設計関係団体等、設備・建材関係団体に対して、ホテル・旅館のバリアフリー化に向けた取組みについて要請済み。

(4)BF客室に係る建築設計標準の充実・普及

→ 本検討会設置。

(5)BF客室等に係る情報提供の充実

→ 観光庁で対応済み(参照:「宿泊施設におけるバリアフリー情報発信のためのマニュアル」を作成しました! | 2018年 | トピックス | 報道・会見 | 観光庁 )

 

 バリアフリー客室に係る建築設計標準の充実・普及に関しては、第3回会議の資料1-1 建築設計標準(追補版)概要修正(案にまとめられており、ホテル又は旅館における高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準(追補版)案として提案されている。

 上記(1)BF客室設置数に係る基準の見直しに関しては、下図がわかりやすい。

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 本政令が交付される2019年9月1日以降に建築(新築、増築、改築又は用途変更される)着工が行われる、客室2,000m2以上かつ客室総数50室以上のホテル又は旅館は、特別特定建築物に該当するため、車椅子使用者用客室を現在の1室以上から建築する客室総数の1%以上にするというより高い基準が設けられることになった。なお、この基準は、建築物移動等円滑化誘導基準(望ましい基準)に近づけられているが、やや低い水準にとどめられている。

 

  上記(4)の概要は、下図にまとめられている。

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 建築計画の手順・要点は資料に詳細に記載されているが、最も重要なことは、ホテル又は旅館の事業計画にバリアフリーの観点を盛り込むように求めていることである。

 建築設計標準(追補版)案には、次のような記述がある。

高齢者、障害者、聴覚障害者、視覚障害者等が利用できるよう配慮した客室を整備することや、施設全体のバリアフリー対応のための様々な配慮を行うことは、施設管理者にとって、今後の利用者拡大につながる重要な取り組みでもある。

 

  バリアフリーの視点で、ホテル・旅館を整備することは利用者拡大につながるという視点は重要である。公共交通機関、公共施設、ショッピングモール、劇場、競技場、道路、駐車場など様々な分野で誰もが利用しやすい施設づくりが進んでいるのに比べ、宿泊施設、特に客室のバリアフリー化の遅れは顕著と感じる。2006年度以降に建築されたホテル・旅館でも客室内のユニットバス前に大きな段差があるところは少なくはない。旅行の途中は快適でも、くつろぐために泊まったホテルや旅館の客室で大きな障壁の存在を見せつけられることは、決しておもてなしとは言えない。

 今回の建築設計標準が浸透した後に建設されるホテル・宿泊施設は、バリアフリー化が進んだ快適なものになるのではないかと期待する。既存施設でも、バリアフリーの視点で改修が進むことを期待する。様々な問題が指摘されている2020年東京オリンピックパラリンピックだが、宿泊施設のバリアフリー化を進めるきっかけとなったことは評価すべきではないかと思っている。