改正道路交通法施行後高齢者の運転免許自主返納が増加

 以前、下記エントリーを書いたことがある。

d.hatena.ne.jp

 

 エントリーのまとめは次のとおりである。

 以上をまとめると、認知機能検査にて第1分類と判断され医師診断書が求められる高齢運転者のほとんどは、CDR1か0.5だと判断できる。短い診察時間だけでは認知症でないと診断することは難しい。また、HDS-RやMMSEのような認知機能スクリーニング検査がカットオフポイントを上回ったからというだけで運転可と判断することにも問題がある。本来なら、認知症疾患医療センターで判断すべき課題だが、全国でわずか336ヶ所(2016年12月28日現在)しかなく、急激な紹介患者増への対応は困難である。運転免許診断書問題をきっかけに、非認知症専門医でも認知症に対し真剣に取り組まなければいけない時代となっていると腹をくくり、対応を考える必要がある。 

 

 診断書を求める高齢者が一般病院にも押し寄せるものと考え、気合いを入れ待っていたが、さっぱり来ない。理由について考えていたところ、警察庁Webサイトに、2017年11月2日付けで、改正道路交通法の施行後6月の状況についてというトピックスがアップされており、実情が理解できた。

 高齢者運転対策の現状として、次の資料が提示されている。

f:id:zundamoon07:20171111175221j:plain

 当初、臨時適性検査を受ける者が年間約5万人と予想されていたが、実際に通知または診断書提出命令を受けた者が半年間で約2.1万人となっており、手続き中の者も含めると、ほぼ当初の予測どおりと言える。

 一方、実際に医師の診断を受けた者は7,673人(36.6%)となる。その他の内訳をみると、自主返納者が5,142人(24.5%)、再受験し第2分類・第3分類に変更1,216人(5.8%)、免許失効910人(4.3%)となる。なお、医師の診断書待ちが6,034人(28.8%)いるので、この群がどのような判断を受けるかによって、今後の内訳は異なってくる。

 目立つのは、自主返納率の高さである。なんと約1/4が自主返納している。臨時適性検査の通知を受ける前に自主返納した者も1,249名いる。

 本資料を見ると、運転免許の自主返納状況に関するグラフも載せられている。

f:id:zundamoon07:20171111175239j:plain

 本グラフを見ると、この数年、自主返納数が大きく増加していることがわかる。今年3月の改正道路交通法がさらに自主返納増加の後押しをしているように見える。

 運転免許証を自主返納した方への各種特典のご案内について|警察庁Webサイト運転免許証の自主返納をお考えの方へ 〜各種特典のご案内〜 - 高齢運転者支援サイトというリンクが貼られている。運転免許証を自主返納した者は運転経歴証明書が申請できる。その運転経歴証明書を提示すると、バスやタクシーの乗車料金補助、買い物や温泉利用時の特典などがある。

 日本リハビリテーション医学会秋季学術集会で高齢者の運転免許に関する講演を聞いてきたが、どうやら、運転免許センターで認知機能検査を実施する際、この自主返納に関する特典のことを詳しく説明しているようである。自分自身の運転に自信がなくなってきた高齢者や本人の運転に関し危険性を感じている家族にとって、メリットがあるのなら自主返納制度を利用しようという動機付けとなっている。

 ただし、各種優遇措置は、あくまでも自主返納者が対象であり、運転免許取り消しとなった者は対象外である。高齢者が診断書を求めに来た際、明らかに認知症のため自家用車運転を許可できないと医師が判断した場合には、最後のチャンスと考え、この自主返納制度についてしっかりと説明して欲しいと、講師の先生は述べていた。各自治体で独自の取組みをしているので、具体的な支援内容も確認して欲しいとのことだった。

 なお、認知機能検査の結果を理由として一律に運転免許証取り消しをすることに対する反対意見も根強い。2017年10月2日に行われた、第1回高齢者の特性等に応じたきめ細かな対策の強化に向けた運転免許制度の在り方等に関する調査研究分科会配布資料一覧|警察庁Webサイトを見ると、実車試験制度の導入や限定条件付免許の導入も検討されているようである。実際に安全運転ができるのかどうかということは、実車評価が適当である。また、運転環境次第では、他者に迷惑をかけずに運転が可能な地域もある。交通量が少ないところで、買い物や通院など限られた目的だけで短時間だけ運転をするということなら、自家用車運転を許可しても良いのかもしれない。

 いずれにせよ、高齢社会の進行のなかで、生活の質と密接に結びついている自家用車運転の課題について、様々な取組みがされてきていることは間違いない。