胃瘻造設と経口摂取回復に関する診療報酬改定

 中央社会保険医療協議会 総会(第328回)、平成28年2月10日が開催され、平成28年度診療報酬改定の概要が明らかになった。答申について、総−1(PDF:3,645KB)に個別改定項目が記載されている。
 この中で、「胃瘻造設術・胃瘻造設時嚥下機能評価加算の減算要件見直し」(301〜304ページ)と「摂食機能療法の対象の明確化等」(196〜197ページ)の後半部分、経口摂取回復促進加算2について取り上げる。

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第1 基本的な考え方
 胃瘻造設術及び胃瘻造設時嚥下機能評価加算の施設基準要件における経口摂取回復率の要件について、施設における嚥下機能評価の体制や、嚥下機能の維持・向上に対する取組についても新たに評価する。また、術前の嚥下機能検査実施の要件について、全例検査の除外対象となる項目を新たに追加する。


第2 具体的な内容
 胃瘻造設術及び胃瘻造設時嚥下機能評価加算の施設基準となっている、経口摂取回復率の基準に加え、新たにカンファレンスと計画書の作成を要件とした基準を設ける。また、術前の嚥下機能検査実施の要件について、全例検査の除外対象とされている項目を見直す。

【胃瘻造設術、胃瘻造設時嚥下機能評価加算】
[施設基準]
 胃瘻造設術を実施した症例数が 1年間に 50以上である場合であっ て、以下のア又はイのいずれかを満たしていない場合は100分の80に減算


ア) 当該保険医療機関において胃瘻造設術を行う全ての患者(以下の1)から6)までに該当する患者を除く。)に対して、事前に嚥下造影又は内視鏡下嚥下機能検査を行っていること。
 1)消化器疾患等の患者であって、減圧ドレナージ目的で胃瘻造設を行う患者
 2) 炎症性腸疾患の患者であって、成分栄養剤の経路として 胃瘻造設が必要な患者
 3)食道、胃噴門部の狭窄、食道 穿孔等の食道や胃噴門部の疾患によって胃瘻造設が必要な患者
 4)意識障害がある患者、認知症等で検査上の指示が理解できない患者又は誤嚥性肺炎を繰り返す患者等嚥下造影又は内視鏡下嚥下機能検査の実施が危険であると判断される患者 (ただし、意識障害が回復し、安全に嚥下造影又は内視鏡下嚥下機能検査の実施が可能と判断された場合は、速やかに実施すること。)
 5)顔面外傷により嚥下が困難な患者
 6)筋萎縮性側索硬化症、多系統萎縮症、脊髄小脳変性症の患 者又は6歳未満の乳幼児であって、明らかに嚥下が困難な患者

 ア)の4)が修正された項目、6)が追加された項目である。4)に規定されている検査が危険であると判断される患者のなかに、認知症等で検査上の指示が理解できない患者と誤嚥性肺炎を繰り返す患者が追加された。

イ) 以下のいずれかを満たしていること。
 1)経口摂取以外の栄養方法を使用している患者であって、要件に該当する患者の合計数の3割5分以上について、1年以内に栄養方法が経口摂取のみである状態へ回復させていること。
 2)胃瘻造設を行う患者全員に対して以下の全てを実施していること。
 a. 胃瘻造設を行う患者全員に対し多職種による術前カンファレンスを行っていること。なお、カンファレンスの出席者については、3年以上の勤務経験を有するリハビリテーション医療に関する経験を有する医師、耳鼻咽喉科の医師又は神経内科の医師のうち複数の診療科の医師の出席を必須とし、その他歯科医師、看護師、言語聴覚士、管理栄養士などが参加することが望ましい。
 b. 胃瘻造設を行う患者全員に対し経口摂取回復の見込み及び臨床的所見等を記した計画書を作成し、本人又は家族に説明を行った上で、胃瘻造設に関する同意を得ること。

 イ)の要件は緩和されている。これまでは、1)の要件のみであり、経口摂取回復率35%以上という高い壁があった。ただし、2)のカンファレンス要件もよく読んでみると、医師要件(3年以上の勤務経験を有するリハビリテーション医療に関する経験を有する医師、耳鼻咽喉科の医師又は神経内科の医師のうち複数の診療科の医師の出席を必須)を満たすことは厳しい。リハビリテーション科医だけの判断ではダメであり、耳鼻咽喉科医か神経内科医も参加しないといけないという不可思議な条件となっている。

(新) 経口摂取回復促進加算2 20 点


[施設基準]
(1) 当該保険医療機関において、摂食機能療法に専従の常勤言語聴覚士が1名以上勤務していること。ただし、ADL 維持向上等体制加算、回復期リハビリテーション病棟入院料、地域包括ケア病棟入院料及び地域包括ケア入院医療管理料を算定している病棟の配置従事者と兼任はできないが、摂食機能療法を実施しない時間帯において、脳血管疾患等リハビリテーション、集団コミュニケーション療法、がん患者リハビリテーション、障害児(者)リハビリテーション及び認知症患者リハビリテーションに従事することは差し支えない。また、前月の摂食機能療法の実施回数が 30 回未満である場合に限り、第7部リハビリテーション第1節の各項目のうち専従の常勤言語聴覚士を求める別の項目について、兼任は可能である。
(2) 過去3月間に摂食機能療法を開始した入院患者(転院、退院した者を含む)で、摂食機能療法の開始時に胃瘻を有し、胃瘻の造設後摂食機能療法開始までの間又は摂食機能療法開始前1月以上の間経口摂取を行っていなかったものの3割以上について、摂食機能療法を開始した日から起算して 3月以内に栄養方法が経口摂取のみである状態(内服薬又は水分を不定期に経口摂取以外の方法で摂取する状態を含む。)へ回復させていること。
ただし、以下のものを除く。
 1)摂食機能療法を開始した日から起算して3月以内に死亡した患者(栄養方法が経口摂取のみの状態に回復した患者を除く。)
 2)消化器疾患等の患者であって、減圧ドレナージ目的で胃瘻造設を行った患者
 3)炎症性腸疾患の患者であって、成分栄養剤の経路として胃瘻造設が必要であった患者
 4)食道、胃噴門部の狭窄、食道穿孔等の食道や胃噴門部の疾患によって胃瘻造設が必要であった患者
(3) リハビリテーションに関する記録(医師の指示、実施時間、訓練内容、担当者等)は患者ごとに一元的に保管され、常に医療従事者により閲覧が可能であること。
(4) 摂食機能療法を開始した入院患者(転院、退院した者を含む)について、氏名、胃瘻造設・紹介等の日時、経口摂取への回復の状態等を一元的に記録しており、常に医療従事者により閲覧が可能であること。また、当該患者の記録については、摂食機能療法の開始日から起算して、少なくとも5年間は保管していること。なお、「経口摂取への回復の状態」は、摂食機能療法を開始した日から起算して3月後の状態又は栄養方法が経口摂取のみである状態に回復した年月日について、患者ごとに記録してあれば足りるものとする。
(5) (2)で算出した割合を毎年地方厚生(支)局長に報告していること。

 前回診療報酬改定で導入された経口摂取回復促進加算 185点の方は「1年以内」を基準としていたが、経口摂取回復促進加算2 20点の方は「3月以内」が基準となっている。さらに、鼻腔栄養または胃瘻という条件が胃瘻になり、必須だった嚥下造影又は内視鏡下嚥下機能検査も算定要件からはずれている。ただし、胃瘻造設をするような患者の3割以上が3月以内に経口摂取のみに回復するという状況があるとしたら、過剰な胃瘻適応も疑われる事態と言える。いずれにせよ、実際には請求しがたい診療報酬規定である。