維持期リハビリテーションは大幅な減点

 中央社会保険医療協議会 総会(第328回)、平成28年2月10日が開催され、平成28年度診療報酬改定の概要が明らかになった。答申について、総−1(PDF:3,645KB)に個別改定項目が記載されている。「II-3 質の高いリハビリテーションの評価等、患者の早期の機能回復の推進について」(169〜197ページ)が、リハビリテーション関連項目である。
 この中で、「要介護被保険者の維持期リハビリテーション介護保険への移行等」(182〜185ページ)について検討する。

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第1 基本的な考え方

 急性期、回復期リハビリテーションは主に医療保険、要介護被保険者等の維持期リハビリテーション(入院中の患者を除く。)は主に介護保険、という医療と介護の役割分担を勘案し、標準的算定日数を超えており、状態の改善が期待できると医学的に判断されない場合の脳血管疾患等リハビリテーション廃用症候群リハビリテーション、運動器リハビリテーションについて評価の適正化を行いつつ、介護保険への移行を図る。なお、要介護被保険者等に対するこれらのリハビリテーションは、原則として平成 30 年3月までに介護保険へ移行するものとする。
 個々の患者のニーズを踏まえつつ、心身機能の向上から活動、参加へと発展させるリハビリテーションを推進するとともに、必要に応じて介護保険への移行を円滑に行う観点等から、要介護被保険者等に対するリハビリテーションについて、その目標設定支援等にかかる評価を新設し、医療保険介護保険にかかるリハビリテーションの併給を拡大する。


 まず、維持期リハビリテーションの規定が、平成28年3月から平成30年3月まで延長されたことが示されている。診療報酬点数が出されない段階で、この部分だけ見て、外来患者におそらく来年度も通院でのリハビリテーションは可能だと説明してしまった医療機関もあるかもしれない。しかし、実際に提起された点数をみると、大幅な引き下げとなっており、維持期リハビリテーションから撤退する医療機関が増加しかねない改定内容となっている。

第2 具体的な内容

1.現在、標準的算定日数を超えており、状態の改善が期待できると医学的に判断されない場合においても、1月に 13 単位に限り疾患別リハビリテーションを算定できることとなっているが、要介護被保険者等(入院中の患者を除く)に対する脳血管疾患等リハビリテーション廃用症候群リハビリテーション、運動器リハビリテーションについては、これらの評価を適正化しつつ、原則として平成 30 年3月までの実施とする。


 改定案
【脳血管疾患等リハビリテーション 料】 【廃用症候群リハビリテーション料】 【運動器リハビリテーション料】


[維持期リハビリテーションを受け る患者が要介護被保険者等である場合に算定する点数]
 本則の 100分の60


[要介護被保険者等に対して維持期リハビリテーションを実施する保険医療機関において、介護保険リハビリテーションの実績がない場合]
 所定点数の 100分の80に相当する点数により算定


[算定要件]
 要介護被保険者等のうち入院中の患者以外の患者については、原則として平成 30年4月1日以降は 「注4」の対象とはならないものとする。


 中医協資料、別紙1−1(医科診療報酬点数表)(PDF:3,257KB)の190〜202ページに、リハビリテーション料の改定内容がある。H001 脳血管疾患等リハビリテーション料を見ると、次のようになっている。

注4 注1本文の規定にかかわらず、注1本文に規定する別に厚生労働大臣が定める患者に対して、必要があってそれぞれ発症、手術若しくは急性増悪又は最初に診断された日から180日を超えてリハビリテーションを行った場合は、1月13単位に限り、算定できるものとする。この場合において、当該患者が要介護被保険者等である場合には、注1に規定する施設基準に係る区分に従い、次に掲げる点数を算定する。

イ 脳血管疾患等リハビリテーション料(I)(1単位)  147点
ロ 脳血管疾患等リハビリテーション料(II) (1単位)  120点
ハ 脳血管疾患等リハビリテーション料(III) (1単位)  60点


注5 注4の場合において、別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関以外の保険医療機関が、入院中の患者以外の患者 (要介護被保険者等に限る。)に対して注4に規定するリハビリテーションを行った場合には、所定点数の100分の80に相当する点数により算定する。


 「介護保険リハビリテーションの実績がない場合、所定点数の100分の80を算定する」における所定点数とは、注4の点数であるということに注意しなければならない。要するに、100分の60×100分の80=100分の48となり、元の点数の半分以下になってしまうということである。


 新設された目標設定等支援・管理料にも注意を払う必要がある。

2.要介護被保険者等に対するリハビリテーションについて、機能予後の見通しの説明、目標設定の支援等を評価する。


(新) 目標設定等支援・管理料
1  初回の場合  250点
2  2回目以降の場合  100 点


[算定要件]
(1) 脳血管疾患等リハビリテーション廃用症候群リハビリテーション、運動器リハビリテーションを実施している要介護被保険者等に以下の指導等を行った場合に、3月に1回に限り算定する。

1 ) 医師及びその他の従事者は、共同して目標設定等支援・管理シートを作成し、患者に交付し、その写しを診療録に添付する。
2)  医師は、作成した目標設定等支援・管理シートに基づき、少なくとも次に掲げる内容について、医師が患者又は患者の看護に当たる家族等に対して説明し、その事実及び被説明者が説明をどのように受け止め、どの程度理解したかについての評価を診療録に記載する。
 ア)  説明時点までの経過
 イ)  治療開始時及び説明時点の ADL 評価(Barthel Index 又は FIM による評価の得点及びその内訳を含む。)
 ウ)  説明時点における患者の機能予後の見通し
 エ)  医師及びその他の従事者が、当該患者の生きがい、価値観等についてどう認識しており、機能予後の見通しを踏まえて、患者がどのような活動ができるようになること、どのような形で社会に復帰できることを目標としてリハビリテーションを行っているか、又は行う予定か。
 オ) 現在実施している、又は今後実施する予定のリハビリテーションが、それぞれエ)の目標にどのように関係するか。
3) 1)及び2)の交付、説明は、リハビリテーション実施計画書の説明、又はリハビリテーション総合計画書の交付、説明の機会に一体として行って差し支えない
4) 当該患者が、以後、介護保険によるリハビリテーション等のサービスの利用が必要と思われる場合には、必要に応じて介護支援専門員と協力して、患者又は患者の看護に当たる家族等に介護保険による訪問リハビリテーション、通所リハビリテーション等を提供する事業所(当該保険医療機関を含む。)を紹介し、見学、体験(入院中の患者以外の患者に限る。)を提案する。
(2) 脳血管疾患等リハビリテーション廃用症候群リハビリテーション又は運動器リハビリテーションを実施している要介護被保険者等のうち、標準的算定日数の3分の1を経過したものについて、直近3か月以内に目標設定等支援・管理料を算定していない場合、当該リハビリテーション料の 100分の 90 を算定する。


[経過措置]
 目標設定等支援・管理料を算定していない場合の脳血管疾患等リハビリテーション料、廃用症候群リハビリテーション、運動器リハビリテーション料の減算については、平成 28 年 10 月1日から実施する。


 目標設定等支援・管理シートに関する様式が今後出てくると予想する。「標準的算定日数の3分の1を経過したものについて、直近3か月以内に目標設定等支援・管理料を算定していない場合、当該リハビリテーション料の 100分の 90 を算定する。」となっていることを考慮すると、脳血管障害の場合、60日目には説明しなければならないことになる。要介護認定時期にもよるが、回復期リハビリテーション病棟の場合、入院直後にリハビリテーション総合実施計画書と合わせ、目標設定等支援・管理シートの説明を定期的に実施しないと、診療報酬上著しい不利益が生じることになる。


 最後の項目は、医療保険介護保険の併用に関する規定である。

 要介護被保険者等である患者に対して行うリハビリテーションは、同一の疾患等について、医療保険における疾患別リハビリテーションを行った後、介護保険におけるリハビリテーションに移行した日以降は、当該リハビリテーションに係る疾患等について、医療保険における疾患別リハビリテーション料は算定できない。なお、目標設定等支援・管理料を算定してから3月以内に、当該支援における紹介、提案等によって、介護保険におけるリハビリテーションの内容を把握する目的で、1月に5日を超えない範囲で介護保険におけるリハビリテーションの提供を受ける場合は当該「移行」に含まない。


 お試しで利用する限りは、介護保険への移行に含まないとしながら、医療保険における維持期リハビリテーションに対する経済的締付けが強められている。特に介護保険でのリハビリテーションの実績がない医療機関にとっては、頭が痛い課題である。平成30年3月までと期間を限られたことも合わせて考えると、医療保険を用いた維持期リハビリテーション継続は、風前の灯火となってしまったと言える。