聴覚障害認定方法見直し(佐村河内改訂)、4月1日より適用

 聴覚障害の認定方法が、平成27年4月1日より見直される。身体障害者手帳 |厚生労働省に詳細な通知改正等の資料がある。
 具体的な中身は、第6回疾病・障害認定審査会身体障害認定分科会 資料 平成26年12月15日資料3 検討会のとりまとめを踏まえた見直し内容について(PDF:41KB)にある。


 聴覚障害の場合、2級(両耳全ろう)がもっとも重度である。1)聴覚障害に係る身体障害者手帳を所持していないものがいきなり最重度の認定を受けることはほとんどないことを受け、その場合にのみ、オージオメータだけでなく、ABR等他覚的聴覚検査等を実施することが義務づけられたこと、および、2)指定医の専門性を担保するために、聴覚障害に係る指定を新規に指定する場合は、原則として、日本耳鼻咽喉学会専門医を要件とすること、この2つが主な改正点である。


 聴覚障害認定方法の見直しが実施された背景は、聴覚障害の認定方法に関する検討会(第1回)資料 平成26年3月26日資料(PDF:905KB)に詳しく記載されている。




 S氏とは、全ろうの作曲家としてマスメディアに取り上げられ、その後ゴーストライター新垣隆氏に経過を暴露されたことで話題となった佐村河内守氏のことである。2014年3月26日 第1回 聴覚障害の認定方法に関する検討会議事録をみると、次のような論議がされている。

森岡課長補佐 それでは、今回の佐村河内氏の事例につきまして、先に御説明させていただきます。
 資料4の6ページ、7ページ、佐村河内氏ということですけれども、S氏ということで略して説明させていただきたいと思います。


 障害認定の経過については、以下のように記載されている。

 まず平成14年1月に書かれた診断書をごらんください。そちらでは、障害名につきまして「聴覚障害」となっております。
 2原因となった疾病・外傷名としては、感音性難聴となっております。
 3疾病・外傷発生年月日ですけれども、左については昭和60年、右については平成9年ということになっております。
 4参考となる経過・現症でございますけれども、24歳時に左の聴力が低下。34歳時に右の聴力が低下。病院で加療するも改善なしということでございます。
 5の総合所見としては、右が101デシベル、左が115デシベルで、身障2級に該当するとされております。
 将来の再認定については不要となっております。
 結論としては、身体障害者福祉法、別表に掲げる障害に該当するということで、2級相当ということで診断書が作成されております。
 裏側に参りまして、こちらが平成26年2月に作成されました身体障害者診断書・意見書でございます。3の疾病・外傷発生年月日については不明ということになっております。
 4参考となる経過・現症の欄に検査結果が詳しく記載をされております。純音聴力検査で、右が48デシベル、左が51デシベルということになっております。語音聴力検査では、最高明瞭度で右が71%、左が29%ということになっております。
ABRの閾値につきましては、右40デシベル、左60デシベルにおいてV波が確認されたこと。DPOAについては両側とも反応良好であったこと。ASSRの閾値につきましては、右が60デシベル、左は50デシベルということになっております。総合所見としては、上記の結果により聴覚障害に該当しないとの診断となっております。


 障害の有無と障害認定基準に合致するかは別であるということに注意する必要がある。佐村河内氏の場合には、聴覚障害はあるが、再検査の結果、最も低い6級の基準には達していないと証明され、障害者手帳を返上した。
 以下、次のような議論が続いている。

森岡課長補佐 聴覚障害を装ったような事例について、我々に情報提供があったというものはこれまでございません。我々の対応としましては、もちろん必要に応じてABR検査等を実施していただくということにしておりますし、また認定基準でも、両検査とも詐病には十分注意すべきであるということで、認定基準の中におきましても注意喚起をさせていただいているところでございます。

○小川構成員 恐らく今回のような事例というのは、どちらかというとまれな事例ではないかと思いますので、こういった特異な事例が起こったということで、根本的にその認定の方法を変えていく。例えば他覚的な検査を全例で取り入れるとか、そういうような、いわゆる認定方法の変更というのは余り現実的ではないかなという気がします。
 普通は恐らく突然2級に該当する申請が行われるということは、比較的まれなのではないかと思うのです。例えば6級から始まって聴力がだんだん進行してそれが3級になって2級になるというような、こういう経緯の中では、こういった不正が行われるということは余り考えにくいかなという気がします。ですので、そういった時間経過の中でも実際には不正を15条指定医がしっかりと否定をしているというような現実もありますので、余り大きな変更というのは実際には必要ないかなと私は思っております。
 あとは本当に先ほど石川先生がおっしゃられた、いわゆる詐病ということですね。この聴力の中で恐らく詐病ということで一番問題となるのは、あくまでも聴力の検査は自覚的な聴力の検査ですので、例えば80デシベルという聴力を不正で示すということは、何回もやれば必ず変動するわけですね。ところが、一番難しいのは2級に該当するような、全く聞こえない。つまり、全く応答しないというようなときに、それが本当に聞こえていないのか、あるいは全く押す意思がないのか、その辺が一番問題となるのかなという気がしますので、もし今までの認定方法に少し何か加えるというようなことになると、恐らく2級に該当するような、そういうところの認定に際して何か加えるというようなことが必要になるのかなという感じで、3級以下に関しては、恐らくこれまでの認定の方法でそんなに問題はないのではないかと私は思います。


 詐病は、聴覚障害以外の身体障害診断でも問題となる。佐村河内氏の案件を教訓としてくみとる必要がある。リハビリテーション科が最も係る肢体不自由の場合には、次のような対応がなされている。

  • 脳卒中や骨折のような、急に起こりその後回復が期待できる疾患の場合、症状固定まで3〜6ヶ月間の経過をみることが義務づけられている。さらに、この期間にリハビリテーションを含む十分な医療が行われていることを診断書に明記することが望ましいとされる。
  • 神経筋疾患や骨関節疾患のような慢性的な経過をたどる場合は、医療機関で継続して治療を行っており、機能障害レベルでの改善がないことを証明する必要がある。
  • 主治医が明確でなく、身体障害者診断書記載を求められる場合には、初診段階で診断書は記載せず、客観的な指標となる検査を行い、機能障害の状態を確認することを心がける。


 簡単に言うと、主治医がおり、長期間にわたり経過を追えている場合には、よほどのことがない限り、ごまかしはできないということである。ただし、上記のうち、第3項に関しては、意識して対応する必要がある。私が最近経験した事例は以下のとおりである。


 以前軽度の障害があるという身体障害診断書を記載したことがある患者が、等級をあげてもらいたいと久しぶりに診察に来た。最近はどこにも通院していないとのことだった。
 身体所見をとってみると、前回の診断書に記載していた機能障害が消失している一方、反対側の筋力低下を訴えていた。診察室には杖なしで歩行してきていたが、MMTをとってみると、膝伸展筋力がゼロだった。不可解な結果だったため、MRI等の精査を他院で行うことを勧めたが望まれなかったため、診断書記載をしなかった。
 その後も、知り合いの政治家を頼って圧力をかけたり、役所に診察拒否だ、応召義務違反だと訴えられたりしたが、検査のために紹介はするが診断書は記載できないという原則的な対応を続けた。未だに診療情報提供書依頼はなされていない。


 ごく稀に不心得者がいることに専門家が留意しなければならない。耳鼻咽喉科医は、今後、障害認定時にABR等を行う理由として佐村河内氏の事件を説明することになる。佐村河内氏は作曲者としての名を残すことはできなかったが、障害認定見直しの原因を作った人物として末永く語り継がれることになった。