無料低額診療施設の増加

 http://www.asahi.com/articles/ASGCM4Q80GCMULFA01B.htmlという記事で、無料低額診療制度が取り上げられていた。

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 病気になっても治療代が払えず、病院窓口で払う自己負担分の治療代を無料にしたり安くしたりする病院にかけこむ人がいる。普通の診療とはちがう「無料低額診療」という仕組みだ。患者数は年間で延べ700万人を超え、ここ数年で延べ100万人近く増えた。年をとって病気になったり失業で収入が途絶えたりして、医療を受けにくくなった人たちが増えている。

http://www.asahi.com/articles/ASGCM4Q80GCMULFA01B.html


 本記事で特に気になったのは、次の部分である。

 全国の年間患者数は全体で延べ10億人近い。厚生労働省の調べでは、このうち無料低額診療は12年度に延べ約706万人いて、09年度より延べ約90万人増えた。無料低額診療をする医療機関も339施設から558施設に増えた。


 無料低額診療事業について/社会・援護局総務課/平成20年1月21日 第4回医療機関の未収金問題に関する検討会資料に、無料低額診療事業の実績の推移に関するデータがある。施設数は260施設前後で横ばいであり、取扱い患者総数はむしろ低下している。


 無料低額診療事業に関する最近の資料がないかどうかを調べてみたところ、平成24年社会福祉施設等調査の概況|厚生労働省概況の16ページに無料低額診療事業施設数の推移が記されていた。ちょうど上記資料の次の年である平成18年(2006年)から平成24年(2012年)までのデータである。

平成18年 19年 20年 21年 22年 23年 24年
無料低額診療施設 233 241 249 264 283 325 416


 朝日新聞記事では、平成21年(2009年)の施設数が339施設となっている。一方、平成24年社会福祉施設等調査の概況では264施設であり、だいぶ差がある。残念ながら、取扱い患者数に関する記載はなく、比較はできない。いつも思うことだが、新聞紙面ではスペースの問題があり、データの出所を明記できなくても仕方はないが、Web版の方くらい根拠を明確にする姿勢を見せて欲しい。いずれにせよ、無料低額診療施設は平成22年(2010年)を境に急増していることは確かである。
 格差拡大による経済的問題のため医療へのアクセスが困難になっていることが背景にある。しかし、無料低額診療利用患者数が増加したといっても、年間約10億人の患者総数の1%にも満たない。固定資産税の減免などのメリットはあるが、基本的には医療費自己負担分を医療機関側が負担する制度であるため、実施医療機関数も十分とはいえず、少数派にとどまっている。
 国民皆保険制度が形骸化してきている。病気が進行してから、あるいは、脳心事故などの重篤な状態になってから医療機関を受診するという事態が顕在化してきている。経済的問題による医療機関受診抑制を生じさせない状況をつくるためには、医療政策として本事業の推進を図るべきではないかと私は考える。