「悪意の情報」や「ダメな科学」を見破る大まかな指針

 科学的な装いをもった「デタラメ」な情報が飛び交っている。マスメディアの影響力は大きい。識者の意見で権威づけながら、あらかじめ描いていたストーリーに従って強引に結論に持っていくような番組、報道、雑誌が幅をきかせている。
 インターネットで情報を収集する際も、使い方を誤ると、偏った情報だけ集め思い込みの呪縛から抜け出せなくなることがある。まかり間違うと、偏見や差別の要因ともなりうる。


 問題ある情報に惑わされないためには、科学的なものの考え方、素養、リテラシーが必要となる。「悪意の情報」を見破る方法という本は、日常生活に影響を及ぼす科学関連の問題を理解するための方法論を一般読者向けにまとめたものである。


「悪意の情報」を見破る方法 (ポピュラーサイエンス)

「悪意の情報」を見破る方法 (ポピュラーサイエンス)


 「悪意の情報」を見破る方法とほぼ同趣旨のものとして、「ダメな科学」を見分けるための大まかな指針」のポスター - うさうさメモとして公開された。クリエイティブ・コモンズ・ライセンスで公開されたポスターの日本語バージョンで、「せっかく作ったので、広めてくださいね」とあるので、紹介させていただく。なお、本エントリー名は、「悪意の情報」を見破る方法と「ダメな科学」を見分けるための大まかな指針を足して2で割った安易なものである。



 「悪意の情報」を見破る方法の章をもとに、特に重要と思う部分に関し以下にまとめた。


第1章 よくある科学への思い込み
 科学はつねに発展途上にある。研究結果の解釈について科学者たちの意見が分かれるのは当然である。しかし、メディアも含めた利害関係者は、科学者たちの意見が分かれていることを隠し、ものごとを単純化しようとしたり、逆に、大多数の科学者の見解が一致しているときに、科学界が真っ二つに割れているような幻想を作り出す。
 時代を先取りした考えが見過ごされてしまった例は、確かに歴史上存在するが、隠れた天才などめったにいない。査読は、科学的発展の鍵を握る重要なステップであり、査読をへていないものは、健全な批判精神をもって扱うべきである。この部分は、「ダメな科学」ポスターの「12.ジャーナルと引用数」でも言及されている。


第2章 利害と科学情報の関係性
 「ダメな科学」ポスターに紹介されている「3. 利益相反」の問題を取り上げている。企業がらみの研究では、個人的または金銭的な利益のために、研究内容が偽って伝えられることもある。ただし、利益相反(企業との癒着による情報の歪み)だけを問題とはしていない。自分のものの見方を相手に確信させようとする傾向があることをふまえ、どのような立場から情報を発信しているかを確認することの重要性も本章では指摘している。


第5章 偶然と因果関係との境界線
 「ダメな科学」ポスターの「4.相関関係と因果関係の混同」、「8.対照群がない」、「9.盲検試験が行われていない」に相当する。複雑な問題の場合には、複数の原因が絡みあっている。このような場合、因果関係に影響を及ぼす要因を交絡因子の検討が不可欠である。介入研究時に隠れた交絡因子を含めその調整に威力を及ぼすのが、無作為化試験であり、実験群と対照群で比較する時に研究対象となる因子以外を一括して統制することができる。二重盲検を加えると、観察者者バイアスも除外することができる。二重盲検無作為化試験は介入研究のゴールドスタンダードとなっている。
 実験的研究を行えない場合もある。その場合、様々な種類の研究を組み合わせ、同じ結果を示唆するデータが得られないかどうかを検討する。原因と結果を結びつけるメカニズムが説明できるかどうかも問題となる。


第6章 特殊か普遍か
 「ダメな科学」ポスターの「11.結果に再現性がない」に相当する。ある状況下で得られた研究結果は、他の状況には当てはまらないことが多い。途方もない主張には、それ相応の証拠が求められる。1つの研究だけでは、まったく不十分である。


第7章 数字のトリック
 統計数字のトリックについて述べた部分である。「ダメな科学」ポスターの「6.小さすぎるサンプルサイズ」、「7.代表的でないサンプル」が該当する。特に、選択バイアスの存在に注意する。母集団の選択の仕方で結果は異なる。研究対象となった集団が大きかったり、わずかの差を検出できるような指標を用いれば、結果が有意となることにも注意をする。


第9章 情報の落とし穴
 本章では、人間の思考プロセスの問題点が紹介されている。因果関係を早合点してしまう。過度に一般化したがる。自分の信念を裏づける話には耳を傾け、それを覆す話には耳をふさいでしまう(確証バイアス)。論理を無視し、感情や直感で反応してしまう。「ダメな科学」ポスターの「1.扇情的な見出し」、「2.結果の曲解」、「5.推測表現」、「10.結果のいいとこ取り」などが相当する。


 私自身は、EBMの勉強をするなかで、上記考え方に慣れ親しんできた。権威のある専門家の意見より、研究手法に着目して結果を把握するようにしている。新しい医学教育を受けた世代は概ね同様の傾向があるように思える。ただし、全ての医師がそうではない。権威ある肩書きを持ちながら、「トンでもない」情報を流し続ける者もいる。
 科学情報の良否を判定する力量を身につけるうえで、「悪意の情報」を見破る方法も、「ダメな科学」を見分けるための大まかな指針は役に立つ。自らの認知バイアスを自覚し修正する態度を持ち続けたいと自戒している。