医療機関等における消費税負担に関する議論

 2014年4月に消費税は5%から8%となり、翌2015年10月からは10%となる。医療機関における控除対象外消費税等負担問題に関し、中医協の専門分科会にて議論が行われていた。8月28日、第8回 医療機関等における消費税負担に関する分科会 議事次第が開かれ、「医療機関等における消費税負担に関する分科会」における議論の中間整理(案)について税−3(PDF:154KB)が提示された。


 医療機関等における消費税負担の問題に関しては、第1回 医療機関等における消費税負担に関する分科会 議事次第 |厚生労働省にある社会保険診療に関する消費税の取扱い等について資料(税−1)(PDF:102KB)に次のような記載がある。

多段階課税の仕組み

  • 製造、卸、小売りといった取引の各段階ごとに、各事業者の売上に課税する一方、課税の重複を回避するため、前段階で負担した税額を控除する多段階課税の仕組みが採用されている。
  • 事業者は、課税売上げに係る消費税額から、課税仕入れ等に係る消費税額(仕入控除税額)を控除した金額を納付する。
  • 社会保険診療報酬については、社会政策的な配慮から課税することが適当ではないため、非課税とされている。

控除対象外消費税等負担額の発生

  • 支払った消費税額のうち、課税売上割合分のみが控除対象となり、非課税売上に対応する支払消費税は控除されない。一般的に医療機関等の収入の多くは社会保険診療報酬(非課税)であることから、控除対象外消費税等負担額が発生しているとの問題が指摘されている。


 現状の仕組みでは、医薬品・材料費等にかかる消費税の実質的な負担者は患者ではなく医療機関になっている。具体的な負担率に関して、第2回 医療機関等における消費税負担に関する分科会 議事次第 |厚生労働省にある今村委員提出資料(PDF:1558KB)の14ページにまとめがある。

まとめ
(1)控除対象外消費税の負担(2.2%)を、医薬品・材料から生ずる部分(1.1%)と、それ以外の部分(1.1%)に分けてみると、前者は薬価による補填(1.1%)と近似し、後者は診療報酬による補填(0.43%)を大きく上回っている。
(2)医薬品・材料以外から生ずる部分の負担(1.1%)を、設備投資から生ずる部分(0.35%)とその他の支出から生ずる部分(0.74%)に分けてみると、変動要因の大部分は設備投資であり、その負担は一部の医療機関に極端に偏っている。



 例えば、年20億円の診療報酬がある病院だと、その2.2%分4400万円が控除対象外消費税負担となっている。率・額とも決して低くはない。低医療費政策のもと診療報酬補填相当分が抑えられ続けていることも示されている。さらに、大規模設備投資があると消費税負担ははね上がる。


 「医療機関等における消費税負担に関する分科会」における議論の中間整理(案)について税−3(PDF:154KB)を見ると、次のような記載がされている。

診療側委員からは、

  • 高額投資を行った医療機関の費用を、高額な投資を行っていない医療機関が負担することになるので、不公平感が生じる、

という意見など、別建ての高額投資対応を行うことに対する反対意見が多数述べられた。

支払側委員からも、

  • 医療機関が独自の経営判断で行う設備投資に対して、患者や保険者が事後的に補填することは理屈に合わず、加入者、事業者の理解を得るのが困難、

などの意見が述べられた。

以上のとおり、診療側委員、支払側委員の意見が一致したことから、消費税率の8%引上げ時には、別建ての高額投資対応は実施せず、診療報酬改定(調剤報酬改定を含む。以下同じ。)により対応することとする。

報酬上乗せを行う報酬項目等については、透明性・公平性の観点から、基本診療料・調剤基本料への上乗せで対応すべきとの意見に加え、高額な投資に一定の配慮をする観点から、基本診療料・調剤基本料への上乗せに「個別項目」への上乗せも組み合わせるべきとの意見もあった。以上より、基本診療料・調剤基本料への上乗せによる対応を中心としつつ、「個別項目」への上乗せを組み合わせる形で対応することを基本とする。

また、基本診療料・調剤基本料へ上乗せする場合の上乗せ方法については、基本的に以下のとおりとする。
1.医科診療報酬では、
 ア 診療所については、初・再診料及び有床診療所入院基本料に上乗せする。
 イ 病院については、診療所と初・再診料の点数を変えないようにするため、診療所に乗せた点数と同じ点数を初・再診料(外来診療料を含む。)に上乗せし、余った財源を入院料等に上乗せする。

「個別項目」の組み合わせ方については、医療経済実態調査の結果等を踏まえ、今後検討する。

消費税引上げに伴う本体報酬に係る改定財源の配分については、以下の算式で得られる数値により財源を按分することを基本とする。
1 医科、歯科、調剤間での財源配分
 〈医科、歯科、調剤ごとの医療費シェア〉×〈医科、歯科、調剤ごとの課税経費率〉
2 病院、診療所間での財源配分
 〈病院、診療所ごとの医療費シェア〉×〈病院、診療所ごとの課税経費率〉
3 入院料間での財源配分
 〈各入院料ごとの医療費シェア〉×〈各入院料ごとの課税経費率〉
※ 課税経費率:医療経済実態調査等より算出した、当該分類ごとの費用と損益差額の合計額に占める課税仕入れ(原則として、医薬品、特定保険医療材料に係るものを除く)の割合


 高額投資に対する補填に対して消極的な意見となっている。しかし、高額投資には様々なものがある。医療機器などは診療報酬である程度補填が見込まれる。しかし、建物の老朽化に伴う補修、建替え、新築などの費用にかかる消費税負担増は全く回収できない。実際、甚大な建物被害を受けた被災地医療機関のひとつとして、この時期に消費税増税が行われることは頭の痛い課題となっている。
 財源配分に関して大きな位置づけを占める課税経費率の実態もまだ見えてこない。適切な配分がされるかどうか不安を抱く。
 来年度診療報酬改定に向け、中医協議論が今後本格化する。最終的な方向性が出た後、機械的に診療報酬にかけ算をして消費税相当分加えられることになると予測する。医療機関経営において控除対象外消費税負担が経営悪化の大きな要因となっている。このことが十分議論されないまま決着がつきかねないことに懸念を抱く。