東京都区部はリハビリテーション資源不足地域

 NHKスペシャルを見て、気になったことがある。最初に紹介された80歳代の男性だが、リハビリテーションを十分受けていないのではということである。

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 この男性の基礎疾患が何か全く分からない。少なくとも両上肢に重い麻痺はない。会話も可能である。やや知的機能が低下している印象を持つ。妻が数年前に亡くなった後、都営住宅で独居を続けていたということを考えると、もともと虚弱状態だったが歩行可能で、外出や家事も可能だったのではないかと推測する。
 入院のきっかけは、熱中症である。昨年7月から2ヶ月間入院した後、短期入所を1ヶ月ごと3ヶ所利用し、昨年末にやっとサービス付高齢者向け住宅に入居できた。移乗動作はほぼ全介助で、要介護4と認定されている。予備能力の低い高齢者ではあるが、熱中症だけで要介護状態になったという経過には問題がある。
 日本リハビリテーション医学会では、リハビリテーション前置主義という考えを示している。要介護状態にならないように、十分なリハビリテーション医療を受けてから、介護サービスにつなげるべきだという考えである。東京都、特に区部はリハビリテーション資源不足地域である。脳血管障害や大腿骨頚部骨折ならリハビリテーション医療を受けさせようと思うかもしれないが、高齢者の内科疾患で病前の生活機能がわからない場合には、在院日数短縮を優先させ、リハビリテーションを受けずに退院を迫られた可能性がある。


 医療機関の医療情報センター | ウェルネス > 運営サイト/コンテンツ > 2次医療圏データベースシステム ダウンロードに、無償の2次医療圏データベースシステムが公開されている。この中の、「2次医療圏基礎データ(巧見さん)Ver4.0.1.xls」を用いて、東京都のリハビリテーション資源を可視化する。比較対象として、まず、全国データを示す。


# 回復期リハビリテーション病棟
 平成23年12月全国回復期リハ病棟連絡協議会に基づくデータを見ると、回復期リハビリテーション病棟人口10万対比は全国平均で48.2となっている。ゼロ(白)、25未満(青)、25〜50(緑)、50〜75(黄)、75〜100(橙)、100以上(赤)で示した。


 西高東低傾向を示す。特に、四国・九州で高い。関東は回復期リハビリテーション病棟が少ない地域が多数を占める。


 人口10万人あたり療法士数を、25%タイル未満(青)、25〜50%タイル(緑)、50〜75%タイル(黄)、75%タイル以上(赤)で示す。出展は、平成22年10月1日病院報告である。なお、最新データである平成23年病院報告のデータは、病院報告 平成23年病院報告 閲覧(閲覧表) 二次医療圏(従事者票) 年次 2011年 | ファイルから探す | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口にある。


# PT
 PT10万対比は、平均値37.1である。最小値3.6、25%タイル値25.6、50%タイル値34.5、75%タイル値47.9、最大値171.5である。

# OT
 OT10万対比は、平均値24.0である。最小値0.0、25%値15.5、50%値22.3、75%値32.4、最大値141.8となっている。


# ST
 ST10万対比は、平均値7.5である。最小値0.0、25%値4.4、50%値6.6、75%値9.6、最大値37.2となっている。

 回復期リハビリテーション病棟と同じく、西高東低、関東で低いという傾向を示す。


 東京都(島しょ部を除く)の部分を拡大する。
# 回復期リハビリテーション病棟

# PT

# OT

# ST


 NHKで紹介された男性の居住地である足立区は、葛飾区、荒川区とともに区東北部医療圏に属する。基本データは下記のとおりである。
 人口: 132万9,308人
 65歳以上高齢者: 29万2,238人
 高齢化率: 22.0%
 回復期リハビリテーション病床数(人口10万対): 619床(46.6床)
 PT数(人口10万対): 354人(26.6人)
 OT数(人口10万対): 184人(13.8人)
 ST数(人口10万対): 46人(3.4人)


 リハビリテーション資源は、いずれも全国平均ないし中央値以下である。特に、OT・STは25%タイル以下となっている。同様の傾向が、他の区部で認められる。
 現状でも、この地域ではリハビリテーション資源が不足している。今後、都市部、特に東京都とその近県(埼玉・千葉・神奈川)で高齢者が急速に増加することを考えると、居宅サービス、介護施設、高齢者向け住宅などの拡充とともに、リハビリテーション医療供給体制を充実させることが重要な課題となっている。