柔道整復師とあん摩マッサージ指圧、はり・きゅう療養費の検討開始

 医療保険部会に、柔道整復師療養費検討専門委員会とあん摩マッサージ指圧、はり・きゅう療養費検討専門委員会の2つの専門委員会が立ち上がった。

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 両専門委員会第1回会議は、2012年10月19日に開催された。委員のうち、座長・有識者と保険者等の意見を反映する者は同一のメンバーとなっており、施術者の意見を反映する者だけが異なっている。開催日を同一にし、効率的に会議を進めるという方針が出されている。
 それぞれの委員会の資料は、第1回社会保障審議会医療保険部会 柔道整復療養費検討専門委員会配付資料 |厚生労働省第2回社会保障審議会医療保険部会 あん摩マッサージ指圧、はり・きゅう療養費検討専門委員会配付資料 |厚生労働省の中にある。保険者が柔道整復師療養費とあん摩マッサージ指圧、はり・きゅう療養費の急増に危機感を感じており、具体的に削減の手段を提案していることがわかる。高橋委員提出資料2(PDF:330KB)が両専門委員会に共通した文書である。以下、抜粋する。

平成 24 年度療養費改定に当たっての意見(要請) 平成24年3月13日


 柔道整復師の施術(以下「柔整」という。)に係る療養費、はり灸師の施術(以下「はり灸」という。)に係る療養費、あんま・マッサージ・指圧師の施術(以下「あんま等」という。)に係る療養費及び治療用装具の作成(以下「治療用装具」という。)に係る療養費は、平成 21 年度の総額(推計)で約 4,800 億円に上っております。また、療養費の伸びも医療費の伸びをはるかに上回る勢いであり、(中略)この 5 年間(平成 16年度と平成 21 年度の間)でみると、国民医療費は 12%増加(年平均 2.3%増)に対し、柔整に係る療養費は 19%増加(年平均 3.6%増)、はり灸に係る療養費は 81%増加(年平均12.6%増)、あんま等に係る療養費は 113%増加(年平均 16.4%増)しています。
 (中略)柔整、はり灸、あんま等及び治療用装具に係る療養費の請求では、不正請求が生じており、平成 21 年の行政刷新会議及び会計検査院の平成 21 年度決算検査報告の指摘でも適正化が指摘されています。


 以下、要望案(項目のみ)。

# 算定基準について
(1)柔整、はり灸及びあんま等に係る療養費の定額給付化
 定額給付化の検討に時間を要する場合には、下記の(2)から(9)の事項について、速やかに実施されたい。
(2)多部位・長期施術に対する保険給付の逓減制の強化(柔整)
(3)算定部位の明確化(柔整)
(4)施術期間及び施術回数の上限の制定(はり灸・あんま等)
(5)初検時相談支援料の廃止(柔整)
(6)「亜急性」の外傷の定義(柔整)
(7)重複施術の制限(共通)
(8)保険適用となる疾患の明確化(はり灸)
(9)往療料の適正化(共通)
(10)治療用装具の作成基準の明確化(治療用装具)


# 運用に関する取扱いについて
(1)医師による同意書の添付義務化(共通)
(2)同意書様式の詳細化(はり灸・あんま等)
(3)支給申請書の改正(共通)
(4)協定書の内容の改正(柔整)
(5)健康保険を利用する場合の注意事項等の説明義務化(共通)
(6)患者への領収明細書発行の義務化(はり灸・あんま等)
(7)行政による指導監督の強化(共通、治療用装具)
(8)施術録の整備の義務化(はり灸・あんま等)


# その他(海外療養費)


 様々な分析がされているが、底流に流れているのは、柔道整復師あん摩マッサージ指圧師、はり・きゅう師の養成校数増に伴う資格者数増が、保険請求増と関係しているという認識である。


 本図をみると、特に柔道整復師とはり・きゅう師増が顕著であることがわかる。




 柔道整復師の多部位請求に都道府県で顕著な差があること、人口10万人あたり柔道整復師数が多いところで療養費件数が多いことが示されている。




 あん摩マッサージ指圧の療養費請求件数の6割以上が往療料という異常な事態になっている。月16回以上の往療をみると、明らかな地域差がある。最も多い大阪では14%以上となっている。
 あん摩マッサージ指圧、はり・きゅう療養費検討専門委員会、高橋委員提出資料1(PDF:1467KB)をみると、次のような記載がある。

1.訪問マッサージによる往療料の不正請求

  • 「往療料」とは、歩行困難等、真に安静を必要とするやむを得ない理由等により通院で治療を受けることが困難な場合に、看家の求めに応じて看家に赴き施術を行った場合に支給できる。
  • なお「往療料」は、治療上真に必要があると認められる場合に支給できるものであり、これによらず、「定期的若しくは計画的」に看家に赴いて施術を行った場合は支給できない。
  • しかしながら、近年、高齢者に対して、次のような内容に基づき電話や訪問等で勧誘を行い、 受領委任払いで療養費請求を行うとともに、その際、本来は算定することができない「往療料」 を算定のうえ療養費請求を行う施術者がいる。
    • 「健康保険が使えるから1割負担の数百円で施術が受けられる」
    • 「こちらから訪問するので通院の必要はない」
    • 「医師の同意書が必要だが、良い医者がいるので紹介する」
    • 「継続して治療することが大事なので、毎週、○曜日に訪問する」


 医療機関は、医師法・医療法、保険療養担当規則を遵守することが求められる。違反した者は、保険医療機関取り消しというペナルティが課せられる。一方、この間、柔道整復師団体や訪問マッサージ業界では不正請求の横行が目に余る事態となっている。自浄作用も働いていない。
 健康保険を使わず、自費での利用者のみを相手にしている場合には、どこからも文句は来ない。問題は、健康保険の理念に逸脱し、公的なルールを守らない者たちが利益をあげているという現状である。視覚障害者の生計を立てるために設けられたあん摩マッサージ指圧、はり・きゅうの資格制度が形骸化し、真面目に療養を提供している零細事業者にしわ寄せが生じている。
 柔道整復師療養費検討、および、あん摩マッサージ指圧、はり・きゅう療養費検討両専門委員会の議論が今後どのように推移するかは不透明である。業界団体の強力なロビー活動が行われ、泰山鳴動しネズミ一匹といった事態に終わる可能性もある。ただし、どのような結論に終わるにせよ、公的な議論の場が設けられ、問題点が明るみに出ることの意義は大きい。両専門委員会での真剣な議論を心から望む。


<追記> 2012年12月1日
 両専門委員会の議事録が出たので、リンクを追加する。
 第1回社会保障審議会医療保険部会 柔道整復療養費検討専門委員会議事録 |厚生労働省
 第1回社会保障審議会医療保険部会 あん摩マッサージ指圧、はり・きゅう療養費検討専門委員会議事録 |厚生労働省