脱原発、再生可能エネルギー中心の社会へ

 日本環境学会会長和田武氏の講演を聞いた。

脱原発、再生可能エネルギー中心の社会へ―福島原発事故を踏まえて日本の未来を考える

脱原発、再生可能エネルギー中心の社会へ―福島原発事故を踏まえて日本の未来を考える


 講演の演題は、上記著書と全く同じ「脱原発再生可能エネルギー中心の社会へ」だった。畑違いの話を聞くのはなかなか刺激的だった。自分の興味ある部分を中心に講演要旨をまとめると、次のようになる。


1.再生可能エネルギーは現時点でもエネルギー資源として豊富に存在

  • 再生可能エネルギーの種類
    • 太陽由来のエネルギー:太陽エネルギー、風力、水力、バイオマス
    • 地球由来のエネルギー:地熱
    • 月の重力エネルギー:潮汐
  • 現代技術による再生可能エネルギー資源の利用可能量と世界のエネルギー使用量を比較すると、2009年時点で、太陽エネルギーは3〜4倍、風力、地熱も消費量以上にある。バイオマスだけでも半分をまかなうことができる。


2.世界の中で再生可能エネルギー比率が急速に高まっている国々がある


3.日本は再生可能エネルギー発電の導入ポテンシャルが高いにも関わらず、現在は最低比率で減少傾向

  • 太陽光、風量、地熱、中小水力発電だけでも、年間発電量11269億kWhの4.6倍の導入ポテンシャルがある。
  • しかし、1990年以降の20年間をみると、再生可能エネルギー比率は3%と変わっておらず、むしろ減少傾向にある。先進諸国の中で最低ランクにある。
  • 原子力発電推進の政策のなかで、再生可能エネルギー政策は抑制されてきた。
  • その中で、不採算であるにも関わらず、住宅への設置を中心に太陽光発電が普及してきた。市民レベルの意識は決して低くはない。市民共発電所の取組みもなされており、2007年9月調査時点で太陽光発電などが185基15843.3kWh設置されている。


4.http://law.e-gov.go.jp/announce/H23HO108.html再生可能エネルギー特措法)施行の影響*1

  • 経済産業省は、「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法案」(再生可能エネルギー特措法)を第177回通常国会に提出することを2011年3月11日に公表した。
  • 再生可能エネルギー特措法は、同年8月26日に成立し、「固定価格買取制度」*2が2012年7月1日にスタートした。
  • 買取価格が当初の予想より高めに設定されたこともあり、再生可能エネルギー普及が推進されることが期待できる。
  • 市民ひとりひとりが、省エネに心がけるとともに、再生可能エネルギー普及に取り組むことが望まれる。そのためにもエネルギー政策に関心をもち、学び、自分の考えをもつことが必要である。


 再生可能エネルギー特措法による固定価格買取制度が開始されていたことを本講演で初めて知った。地元の経済誌を読んでみたところ、企業がビジネスチャンスと色めき立っていることがわかった。買取価格の資料をみると、太陽光発電の建設費は32.5万円/kWhとなっている。1000kWhのメガソーラーなら3億2500万円となる。一方、買取価格は42.00円となる。稼働率12%で計算すると、42×1000×24×365×0.12=4415万円となる。年間運転維持費は1万円/kWhとなっているので、約1000万円かかるが、この費用も含め約9年間で元が取れる計算になる。買取期間は20年となっているので、残りの10年以上は売電価格がそのまま利益となる。
 再生可能エネルギーが導入されると、電力会社の地域独占が崩れる。電力会社は、総括原価方式で費用を増やせば増やすほど利益が膨らむ構造となっているため、自らの発電量が減ると儲けが減ってしまう。さらに、原発も含めた発電施設が遊休状態になると、これまでの巨額の投資が経営の足をひっぱる。電力会社にとって、歓迎することができない事態が進行している。
 地域主導の発電所づくりも進んでいる。しかし、脱原発運動の盛り上がりと比べると、多くの関心を呼ぶという段階にはなっていない。ドイツの経験を参考にするならば、原発数基分の再生可能エネルギーを短期間に導入することも夢物語とは言えない。大規模災害時の対策の意味を含め、病院に太陽光発電を設置することにはメリットが多い。我が病院への導入も真剣に考えているところである。
 再生可能エネルギー特措法は、菅直人前首相が辞任の約束と引き換えに成立にこぎつけたもののである。毀誉褒貶が多い前首相であるが、浜岡原発即時停止と並んで後世に評価される業績ではないかと私は思っている。