有料老人ホームの急激な増加

 当院回復期リハビリテーション病棟から有料老人ホームに退院する患者が増えている。有料老人ホームの実態を調べるなかで、第22回 消費者委員会 議事録 : 消費者委員会 - 内閣府という資料が見つかった。


 有料老人ホームに関する議事録をみると、水津厚生労働省老健局高齢者支援課長が、(資料2−1) 有料老人ホームについて (PDF形式:304KB)を用いながら、次のような発言をしている。

  • 高齢化が進展する。特に75歳以上の高齢者がどんどん増えていく。
  • 認知症の高齢者も急速に増加をしていく。
  • 高齢者が一人で、あるいは夫婦だけで住む世帯が急速に増えていく。
  • 特に大都市圏、首都圏でいうと埼玉や神奈川といった東京の外側の部分で急速な高齢化が進む。
  • 高齢者の方が自宅で住むのが難しい状況が生じてきている。
  • 特別養護老人ホームへの入所申込者が非常に多い。現在、特別養護老人ホーム入所者が約44万人、申込者が42万人であり、大体同じくらいである。しかし、その中には要介護度が比較的軽い方や在宅でない方が相当数いる。
  • 高齢者向けのバリアフリー住宅、有料老人ホームといった住まい系の整備がまだまだ進んでいない。特養を中心とする介護保険3施設が80万を超えるのに対し、有料老人ホームとその他の施設・居住系サービスが50万、さらに高齢者向けのバリアフリー住宅となると10万に満たない。
  • 有料老人ホームについては急速に増えている(下図参照)。


 有料老人ホーム増加の背景として、次のような発言をしている。

 御案内のとおり介護保険制度が施行されまして、介護保険のサービスを受けると自己負担1割という制度が導入されましたので、それまではともすれば高額所得者向けとされていた有料老人ホームがかなり拡大をしたというのが平成12年以降。さらに平成18年以降は、有料老人ホームの定義を拡大しておりますので、その影響で増えたということと考えております。

 (資料2−3) 有料老人ホームの定義・規制 (PDF形式:170KB)と書いてありますが、先ほど申し上げました定義が平成18年の老人福祉法の改正で拡大をされております。従来その改正前は人数が10人以上ということで、一定以上の人数ということに限定をしていたということ。サービスとして食事の提供を必須としていたということでございます。
 これにつきまして、人数要件は廃止し、サービス提供につきましては4つのうちのいずれかのサービスを提供していることということで拡大をしたわけでございます。背景といたしましては、改正前の要件ですと、どうしても規制を逃れるホームが出てくるといった指摘がなされまして、網を広げる範囲を拡大したということでございます。
 その裏側になりますが、同時に平成18年の改正で規制の強化を行っております。「従来」が左側、「18年度より」にございますように、例えば重要事項説明書の交付を義務化する。あるいは一時金の算定基礎の明示を求める。一時金の保全措置も法律上最大500万円ですが、これを義務化する。また、これは法律ではなくて指導指針でございますが、契約締結日からおおむね90日以内の契約解除の場合は前払金を返還する。こういった入所者保護の観点からの規制の枠組みの強化も行っております。


 4つのサービスとは、「食事の提供」、「介護の提供」、「洗濯、掃除等の家事」、「健康管理」を示す。食事の提供を必須項目からはずし、人数制限を緩和する一方、都道府県への届出を義務づけたことになる。
 しかし、議論の中でもでてくるように、規制の網の目からはずれる未届けのホームが増加している。2009年に群馬県渋川市にあった静養ホームたまゆらという施設で火災があって、10人の方が死亡したという事故があったが、未届けの有料老人ホームだった。
 経営姿勢に問題がある施設も少なくない。基本的サービスが提供されず、ほとんどのサービスを関連事業所の介護サービスでまかなう形態の有料老人ホームに入居すると、往々にして問題が生じる。例えば、訪問介護事業所を運営する事業所が自らの訪問介護だけで居宅サービス区分支給限度基準額いっぱいとなるように週間スケジュールを組まれると、訪問看護や訪問・通所リハビリテーションなど他のサービス利用が困難になる。退院時、移乗、排泄が自立していた患者が数ヶ月で機能低下を起こして再入院となる事例を経験すると、何のためにリハビリテーションを行ったのかわからなくなる。経済的困難を抱えているため、比較的低額の有料老人ホームに入居すると、貧困ビジネスの犠牲になりかねない。
 高額の入所一時金を払っても安心できない。有料老人ホームの契約に伴うトラブルが増加している。具体的には、「入居後短期間で退所したが、少額しか返還されない」、「退去時に原状回復費用として高額なリフォーム代を請求された」、「解約をしたが、返還期日が過ぎても返還金が支払われない」といった事例が報告されている。
 高齢者が暮らしていく場所として、有料老人ホームや高齢者用住宅など居住系施設の比率が高まっていくことは時代の趨勢である。地域ケアの担い手として重要性が高まるこれらの居住系施設の質の向上が求められている。