震災がれき広域処理反対だけでは放射性物質拡散阻止は不可能

 震災がれき広域処理が暗礁に乗り上げている。放射性汚染物質拡散阻止が大きな理由のひとつとなっている。一方、首都圏の一般ゴミ焼却灰の高濃度汚染に関しては、話題にさえなっていない。

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 「がれき広域処理」は愚の骨頂-「放射性物質は拡散せず封じ込める」が放射線防護の鉄則 | すくらむ立命館大学名誉教授安斎育郎氏の講演内容が記載されていた。

 いま、がれきを広域処理すべきという議論がありますが、「放射性物質は拡散せず封じ込める」という放射線防護学の鉄則から考えると愚の骨頂と言わざるを得ません。がれきに放射性物質が含まれているわけですから、安全確保を第一として地方自治体に拡散せず国の責任で集中的に管理しなければなりません。

 震災がれきの広域処理に反対する代表的な意見である。
 この論理の問題点は2つある。ひとつは、震災がれきの実際の放射性物質汚染に関し、具体的数値を用いた検討がされていないことである。もうひとつは、一般ゴミの放射性物質汚染に全く言及されていないことである。


 岩手県の震災がれきを受入れた島田市のホームページ、http://www.city.shimada.shizuoka.jp/kankyou/sisetu/gareki_top.jsp、および、静岡県のホームページ、静岡県/災害廃棄物の試験焼却における放射能測定結果(島田市試験焼却分)に、試験焼却の数値がある。島田市の測定では無害化処理灰の放射性Cs濃度は64Bq/kgである。しかも、この値は試験焼却前のデータとほぼ変わらない。岩手県沿岸部北部〜中部の放射性物質汚染はきわめて低値であることが以前から分かっていた。今回の島田市が行った試験焼却のデータ収集によってこのことが再確認されている。


 首都圏の一般ゴミの放射性物質汚染の深刻さに関係し、次のような事件があった。

 放射性セシウムを含む焼却灰が首都圏の自治体から持ち込まれた秋田県で3日、排出元の埼玉県加須市などへ灰を返す作業が始まった。大館市小坂町に4カ月半、仮置きされていたが、住民の反発で処分再開のめどが立たないため、順次、送り返す。年内に作業を終える予定だ。


 返却先となるのは加須市のほか、千葉県市川市、神奈川県大和市など6県の6市町4事務組合。焼却灰は計245トンで、ほとんどが鉄道コンテナ25基に入れられたままになっている。作業は午前9時に始まり、まず、加須市に返す灰18トンがトラックに積まれた。JR大館駅から、4日に貨物車で出発する。


 秋田県に運び込まれた焼却灰をめぐっては、7月11日、千葉県松戸市の灰から国の基準(1キロあたり8千ベクレル)を上回る放射性セシウムが検出された。しかし、松戸市からの連絡が不十分だったため、小坂町の処分場に埋め立てられた。さらに他の自治体などからも灰が運び込まれ続けた。

http://www.asahi.com/national/update/1203/TKY201112030123.html


 秋田県小坂町のホームページ、広報号外-8月10日(町内の最終処分場に国の基準値を超える焼却灰が埋め立てられたこと等の問題について) に詳しい経緯がある。都市部のゴミ処理のつけを地方が請け負うという図式は、原発立地問題に相似している。


 最近では、次のような記事が東京新聞埼玉版に掲載された。

 下水処理の過程で生じた汚泥の焼却灰から放射性物質が検出され、下水処理場の敷地に大量に仮置きされている問題で、県下水道局が、五カ所の県営下水処理場にある焼却灰について、二月下旬から県外の民間処分場で埋め立て処分を進めていることが一日、同局への取材で分かった。同局は「風評被害を招くおそれがある」として、埋め立て場所を公表していない。 (杉本慶一)
 国の基準では、放射性セシウムが一キログラム当たり八〇〇〇ベクレル以下の焼却灰は、管理型の産業廃棄物処分場に埋め立てできる。県営の五下水処理場には二月二十八日現在で約九千四百五十トンの焼却灰が仮置きされ、うち八〇〇〇ベクレル超は五百トンと推定されている。
 同局は、寄居町にある県営最終処分場での埋め立ては困難と判断。県外の複数の民間産廃処分場と契約し、地元自治体の了解も得たという。処分対象は五〇〇〇〜六〇〇〇ベクレル以下に限り、同二十一日に搬出を開始。同二十八日までに計約五百四十トンを埋め立てた。
 下水汚泥の焼却灰はセメントの原料などに利用されてきたが、福島第一原発事故の影響で昨年五月に放射性物質が検出され、搬出を中止。放射性セシウムは最高で一五二〇〇ベクレルを検出したが、現在は二一一〇〜四五〇ベクレルに下がっている。
 同局は、県外で埋め立てる焼却灰について「きちんと安全性を確認している」と強調するが、「場所を公表すると、いたずらに住民の不安を招いてしまう」としている。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/saitama/20120302/CK2012030202000065.html


 埼玉県の住民にも、搬入先の自治体にも知らせず、こっそりと処理するというやり方は到底妥当とは言えない。
 東京都二十三区清掃一部事務組合のホームページ、東京二十三区清掃一部事務組合/放射能及び空間放射線量等の測定結果内にある平成24年1月25日事故由来放射性物質により汚染された焼却灰等の処理状況について(PDFファイル420KB)には、放射性セシウム濃度(セシウム 134 及びセシウム 137 の放射能濃度の合計値)が 8 000 Bq/kg を超えた江戸川清掃工場のデータがグラフとともに掲載されている。


 調べれば調べるほど、岩手県宮城県沿岸部の震災がれきよりも首都圏の一般ゴミ焼却灰の方が危険であることがわかる。しかし、震災がれき広域処理問題が政治問題化する一方、首都圏の高濃度放射性物質が含まれた焼却灰の広域拡散は放置されている。私には、弱い立場の被災地がスケープゴートにされているようにしか思えない。
 放射線防護学を現在の状況にどのように適用していくか、データをもとにして論議することが必要である。私のような門外漢にさえ、一般ゴミ焼却灰の汚染データはすぐに見つかる。専門家の真摯な取組みが求められている。