仙台ぐらし

 仙台在住の人気作家、伊坂幸太郎の新著「仙台ぐらし」が、地元出版社荒蝦夷から発行された。

仙台ぐらし

仙台ぐらし


 荒蝦夷の雑誌「仙台学」連載のエッセイ11篇、東日本大震災後のエッセイ4編、書き下ろしの短編「ブックモビール」が収録されている。
 地元仙台ネタが満載である。「タクシーが多すぎる」というエッセイを読むと、伊坂氏も規制緩和後のタクシー過剰状態に辟易しているのがわかる*1東北大学文系講義室のそばにある喫茶店の人気メニュー、「ミルクコーラ」についての話など興味深い話題が満載である。
 伊坂氏は、原稿を仙台市中心部のカフェで書いていることはファンの間では良く知られている。ある大手チェーンの一角でノートパソコンを叩いている姿がしばしば目撃されているらしい。私も一度はと思っているが、残念ながら未だに見かけたことがない。震災時にも、仙台市東口のビルの1階の喫茶店にいたと書かれている。地震発生時の恐怖、被災後の不自由な生活、いち早く全国から駆けつけてきた救援トラックを見た時の感謝などが作家ならではの精密な描写で描かれている。震災当時の想いがよみがえってくる。
 「ブックモビール」は、被災地のボランティアが主人公となっている。そこに、人間関係をシールに例えた次のような記載がある。

人ってのは、その土地で生きているんだよ。まわりの人間とコミュニティの中で。だから、簡単には移動なんてできねえよ。ほら、シールと同じだ。…よっぽど丁寧に、少しずつ剥がさないと、ぼろぼろになるじゃねえか。

 共感しながら、この部分を読んだ。東電第一原発事故に関して、東日本震災被災地全体を放射線物質汚染地とみなしたうえで避難することが唯一の解決策かのように訴える者たちがいるが、当事者ではない人間が無責任に叫んでいると私もいつも感じている。


 本書が書店に平積みされていたので買ってきたところ、妻も同じ日に購入していた。仙台ではベストセラーとなっていることは間違いない。