「世界史」と「土の文明史」

 本日、腰痛軽快し、無事退院となった。入院中、特に症状が軽減した後半に、ふだんできない読書三昧の時間を持てた。読んだ本は以下のとおり。

世界史 上 (中公文庫 マ 10-3)

世界史 上 (中公文庫 マ 10-3)

世界史 下 (中公文庫 マ 10-4)

世界史 下 (中公文庫 マ 10-4)

土の文明史

土の文明史

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 「世界史」(ウィリアム・H・マクリール著)は、巨視的に世界史を捉えた名著として、知られている。ユーラシア大文明という視点で、中東、インド、ギリシア、中国の文明の誕生を概括している。紀元1500年までを、4地域の文明が均衡を保ちながら周辺に影響を及ぼしていった時期と捉え、その後の歴史を西欧の優勢が明らかになった時期とまとめている。ところどころに挿入される年表が斬新である。特に、十分な知識がなかった中東・インド両文明の興亡が本書を読んで整理できる。
 定住して耕作が可能となったことで人口が増え都市が生まれたことが、まず述べられている。文明揺籃の地としてのメソポタミアの重要性にあらためて気づかされる。その後、各種技術革新の影響で文明世界が変化することも示される。例えば、古代文明に変革をもたらした因子として、「蛮族の戦車戦団」、「鉄器時代人の侵入」というキーワードを掲げ、それぞれの地域における影響を簡潔に示している。
 ジャレド・ダイヤモンド著「銃・病原菌・鉄」で示された地理的要因と歴史的発展との関係が、本書でも強調されている。印象的なエピソードを中心につづられた「銃・病原菌・鉄」よりは、歴史の流れを把握するうえでは、「世界史」の方が適切のように思える。ただし、歴史上の人物の所業についてはほとんど触れられておらず、物語的な楽しさを期待すると肩透かしにあう。


 「土の文明史」の方は、土壌に焦点をあて、文明の衰退について記述した本である。
 以前から、肥沃な三日月地域として農耕文明が生まれたチグリス・ユーフラテス川流域がなぜ不毛な砂漠地帯となったのか、気にはなっていた。また、成長著しいローマ共和国と地中海地域の派遣をかけて争ったカルタゴは、農業が盛んな地域として知られていたが、現在、北アフリカ一帯はその面影はすっかりなくなっていることも疑問だった。人間の営みに伴い、土壌が侵食され、農業が衰退するという本書の指摘には考えさせられるものがある。数千年単位で形作られた財産である土壌が損傷された場合、急激な人口増を支えきれなくなるという歴史の繰り返しをふまえ、今後の環境保全に役立てることの重要性が強調されている。
 環境問題と文明との関係を扱ったジャレド・ダイヤモンド著「文明崩壊」と同じような問題意識が、本書にはある。どちらでも取り上げられている失敗例としては、イースター島、ハイチがある。コスモポリタン化しつつある地球のメタファーとして捉えれば、地球の行く末に一抹の不安を感じる。