震災がれきの処理、まずは岩手県沿岸部分から

 岩手県宮古市の震災がれきの広域処理が始まった。

 東日本大震災で発生した岩手県宮古市のがれきが三日、東京貨物ターミナル駅(東京都品川区)に貨物列車で搬入され、都内での処理が始まった。東北地方以外の自治体での震災がれき受け入れは初めてで、中間処理施設で破砕、選別後、東京湾の埋立処分場に埋める。放射性物質による汚染の不安から、都内でも反対の声があり、都は処理過程でも放射線量を測定する方針で「広域処理のモデルケースとしたい」としている。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2011110402000028.html


 環境省の方針は、環境省_東日本大震災への対応内にある東日本大震災により生じた災害廃棄物の広域処理の促進について(PDF:1,097KB)(平成23年11月2日)に詳しい。

 東日本大震災においては、地震による大規模な津波により膨大な量の災害廃棄物が発生しており、岩手県では1年で排出される一般廃棄物の量と比較すると約11年分、宮城県では約19年分となっています。これらの災害廃棄物の処理は復旧復興の 大前提であることから、できる限り速やかに処理を進めなければなりません。また、災害廃棄物の仮置場への搬入が進む中、災害廃棄物の仮置場における火災がしばしば発生しており、被災地にとって重大な懸案となっていることからも、早急に処理を進める必要があります。しかしながら、被災地では処理能力が大幅に不足していることから、被災地以外の施設を活用した広域処理の推進が不可欠です。なお、福島県は県内処理を基本としています。
 本年9月28日には東京都から岩手県の災害廃棄物を受け入れる旨が発表され、本日、岩手県において都内への搬出が開始されており、初めてとなる本格的な広域処理が実現しました。


 東京都の対応は、http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2011/11/20lb1600.htmに記載されている。


 私は、震災がれきの広域処理に関しては、岩手県沿岸部分を先行して進めることが適切であると判断する。理由を以下に述べる。


 http://radioactivity.mext.go.jp/ja/list/191/list-1.htmlにおいて、http://radioactivity.mext.go.jp/ja/contents/5000/4899/view.htmlが公表された。
 これまでに公表されている東日本のセシウム、空間線量は次のとおりとなっている。


# 文部科学省がこれまでに測定してきた範囲(改訂版)及び岩手県静岡県、長野県、山梨県岐阜県、及び富山県内の地表面へのセシウム134、137の沈着量の合計


# 文部科学省がこれまでに測定してきた範囲及び岩手県静岡県、長野県、山梨県岐阜県、及び富山県内における地表面から1m高さの空間線量率


 本データを見る限り、地表面へのセシウム134、137の沈着量の合計が6万Bq/m2を超えている高汚染地域は、福島浜通り中通り、栃木・群馬北部、茨城北部県境、茨城南部・千葉北部、宮城県境ということになる。地表面から1m高さの空間線量率に関しては、さらに山間部で高い傾向があるが、これに関しては天然核種による影響があると文部科学省は述べている。
 大きく分けると、福島第一原発から北西に向かった後に中通り地方を南下し、栃木・群馬の山間部に抜けるルート、そこから枝分かれをして会津地方に抜けたルート、おそらく海上を通った後に茨城県南部から千葉県北部に至り東京に迫ったルート、そして、これも太平洋上を北上した後に女川付近を通り宮城県北から岩手県南部に到達したルートがあったと推測される。
 注意しなければならないのは、最も低い区分が1万Bq/m2以下となっていることである。全く汚染がなかった訳ではなく、相対的に低い水準にとどまったことが示されているだけである。ただし、空間線量と対比してみると、この区分は0.1μSv/hrに相当しており、低汚染地域であることは間違いない。
 チェルノブイリ原発事故では、遠く日本にも放射性物質が到達したことが知られている。福島第一原発事故においても、放射能汚染は世界に広がっている。近隣である宮城県岩手県が無傷であることはありえない。しかし、事故当時の風向きもあり、不均等に広範囲に広がった放射性物質拡散の中で、相対的に岩手県沿岸部の汚染が低い値にとどまったのは奇跡とも言える。なお、地図をみると、福島第一原発から宮古市までの直線距離は約250kmであり、東京までの距離よりやや遠い。


 対応する岩手県宮城県セシウム134、137の沈着量の合計と地表面から1m高さの空間線量率は以下のとおりである。なお、宮城県分は、http://radioactivity.mext.go.jp/ja/contents/5000/4891/view.htmlを使用している。


# セシウム134、137の沈着量の合計(岩手県


# 地表面から1m高さの空間線量率(岩手県


# セシウム134、137の沈着量の合計(宮城県


# 地表面から1m高さの空間線量率(宮城県


 岩手県に関していうと、大船渡市以北の沿岸部は放射能汚染が低いことが示されている。一方、宮城県においては、福島県境に近い山元町、亘理町岩沼市や女川町、気仙沼市セシウム134、137の沈着量の合計が3〜6万Bq/m2を超えている中〜高汚染地域がある。内陸部においても県南の丸森町角田市白石市で6万Bq/m2を超えている。
 16都県の一般廃棄物焼却施設における焼却灰の放射性セシウム濃度測定結果について (PDF:1,039KB)(平成23年8月29日)をみると、さらに興味深いことがわかる。


# 岩手県のデータ

  • 沿岸部
    • 岩手沿岸南部広域環境組合(釜石市): 飛灰(7月5日)1128 Bq/kg
    • 宮古地区広域行政組合(宮古市): 飛灰(7月21日)240 Bq/kg
    • 久慈広域連合(久慈市): 飛灰(6月30日)604 Bq/kg
  • 内陸部南部
    • 一関地区広域行政組合(一関市): 飛灰(7月22日)30000 Bq/kg
    • 奥州金ケ崎行政事務組合(奥州市): 飛灰(7月13日)10500 Bq/kg


 焼却施設に運ばれる一般廃棄物量は焼却施設の処理能力が異なるので一概には言えないが、岩手県のデータをみる限り、津波被害を受け大量のがれきが発生した沿岸部は低く、内陸部南部が高い結果になっている。航空機モニタリングの測定結果に酷似する。なお、宮城県のデータは、岩手県よりやや高値となっており、311〜2581 Bq/kgとなっている。仙台市松森工場の値が最も高い。
 福島県のデータは、浜通り中通りを中心に1万Bq/kgを超える値が続出している。最高値は95300 Bq/kgとなっている。
 関東地方のデータにはばらつきがある。福島県に近い地域で1万Bq/kgを超える値が続出している。全体として、茨城・栃木・群馬県宮城県より高値である。千葉県では柏市が最も高く、70800Bq/kgという値が記録されている。ちなみに、東京都では江戸川区で12920 Bq/kgという値が記録されている。地域別にみると、関東地方においても、航空機モニタリングの測定結果の分布状況と似た結果となっている。


 ちなみに、環境省の方針は、東日本大震災により生じた災害廃棄物の広域処理の促進について(PDF:1,097KB)(平成23年11月2日)をみると、「受入側の埋立処分に係る追加的な措置が必要とならないよう、焼却処理により生じる焼却灰の放射性Cs濃度が8,000Bq/kg以下となるよう配慮。」となっており、さらに最近のデータをもとに次のように述べている。

  • 災害廃棄物を焼却した際に発生する焼却灰の中の放射能濃度を安全側に仮定を置いて算定し、評価を実施。
  • 最も高い測定結果が得られた陸前高田市の調査結果を用いた場合でも、 放射性Cs濃度:3,450Bq/kgにとどまった。広域処理を行った場合も、安全な処分のための追加的措置を必要とすることなく、管理型処分場で埋立が可能。
  • 宮古市の災害廃棄物を実際に混焼した実証試験により放射性Cs濃度の上昇はなく焼却灰の濃度は133Bq/kgであることを確認。
  • 岩手県及び宮城県の沿岸市町村については、いずれの市町村の災害廃棄物も、その焼却灰は8,000Bq/kgを大幅に下回る可能性が高い。


 震災がれきの処理過程中に、放射性物質は濃縮される。たとえ、濃度が低くても処理量が多いと問題があるという主張には理がある。広域処理においては、引き受ける自治体側にはメリットが全くない。臓器移植におけるドナーとレシピエントの関係に似ている。利益がないのに、痛みだけ求められるのは嫌だという住民感情にも配慮が必要である。
 しかし、震災がれきを放置しておくわけにはいかない。復興が遅れることによる震災関連疾患の増加が危惧される*1。被災地では、せっかく生き延びた被災者が、脳卒中や心疾患、うつ病による自殺などで亡くなったり、要介護状態になったりしている。岩手県宮城県では、放射能汚染より震災関連疾患への対応の方が明らかに優先順位が高い。
 航空機モニタリングの測定結果をみても、一般廃棄物焼却施設における焼却灰の放射性セシウム濃度測定結果をみても、岩手県沿岸部の放射能汚染は低値である。被災地=放射能汚染地域という概念は思い込みでしかない。各種データをみる限り、震災がれき広域処理対象となっている岩手県宮城県のうち、少なくとも岩手県沿岸部に関しては低汚染地域であり、広域処理における優先地域であると私は思っている。