東北における地熱発電所の適地

 東北は九州とならんで地熱発電所の先進地域である。東日本大震災を受け、詳細は調査を行ったところ、さらに開発可能な資源があることが分かった。

 福島第1原発事故で再生可能エネルギーが注目される中、地熱発電関連の事業者が東北で原発1基分の出力を得られるとの試算をまとめた。経済産業省なども来年度予算の概算要求で地熱発電に多額の資金補助を計上し、後押しを始めた。クリーンで天候に影響されない電源に期待は大きい。一方で有望視される地域は自然公園内で、開発には難しさが伴う。公園外でも温泉への影響が懸念され、一筋縄ではいきそうにない。

http://www.kahoku.co.jp/news/2011/10/20111010t75001.htm


 もとになったのは、http://www.chikaikyo.com/index.htmlが発表した2011.9.22「東北6県の地熱開発有望地区について」(プレス発表)である。
 地図をみると、有力候補地は下北半島、八甲田、八幡平(北部、南部)、栗駒(北部、南部)、蔵王、磐梯となる。この中でも、磐梯地域の潜在能力は際立っている。開発可能出力をみると、久蔵森2.5万、一切経山7万、東吾妻6万、安達太良北3〜7.5万、安達太良東1.5万、安達太良西1.5万、磐梯山北0.5万、合計22〜26.5万となっている。


 しかし、実際の地熱発電所建設にあたっては、克服すべき多くの問題がある。
 http://wwwsoc.nii.ac.jp/grsj/index.html地熱エネルギー利用促進(地熱発電)に係る政策的提言には次のような記載がある。

 しかしながら、我が国は世界の中でも特に恵まれた地熱資源保有国であるにもかかわらず、現状では持てる資源量を十分活用できていない。たとえば、経済産業省資源エネルギー庁内に設置された「地熱発電に関する研究会」の中間報告にある、当面有望な資源量約 425万 kW のうち、8 分の 1 の 53.5 万 kW しか開発利用されていない。これは、主として、発電コスト問題、国立公園問題、温泉問題という3つの障壁を乗り越えられないことによっている。これらは政策的支援に大きく依存している問題でもある。

 発電コスト問題、国立公園問題、温泉問題の中で、最も克服が困難なのは温泉問題である。

 3 番目の問題は温泉問題である。これは、温泉地域の周辺で地熱発電が行われると、温泉が枯れ、営業ができなくなる可能性があるとの観点から、温泉業者から地熱発電の反対があり、有望な資源がありながら、地熱エネルギーの利用ができないというものである。地球の恵みである地球熱の利用法としては、温泉利用・発電利用とも有用で重要な価値があり、本来、共生が望ましい道と考えられる。そして、共生の道は十分存在すると考えられる。詳細は本学会が平成 22 年 5 月に発表した報告書「地熱発電と温泉利用との共生を目指して」に示されているが、地下の熱システムの科学的理解に基づいて、温泉利用・発電利用の共生 は十分可能と考えられる。


 http://www.kahoku.co.jp/news/2011/10/20111010t71024.htmをみると、下北、八甲田、栗駒が及び腰の中で、岩手県八幡平市は積極的である。

 地熱発電を進めてきた自治体は対照的。「松尾八幡平」などが候補地に挙がった八幡平市では1966年、日本初の松川地熱発電所が建設された。ことし7月には市と民間事業者による2カ所目の発電所建設も決まった。市総合政策課は「さらなる事業拡大のための高額な調査費用を、国が補助してくれるのは助かる」と歓迎する。
 長い時間をかけ地熱発電の意義が住民に浸透しているという八幡平市。同課は「厳しい条件も多いが、開発には地域の理解を得ることが大切だ」とアドバイスする。

 岩手県八幡平市で地熱発電を検討 | レスポンス(Response.jp)をみると、確かに「岩手県八幡平市日本重化学工業、地熱エンジニアリング、JFEエンジニアリングは、岩手県八幡平市八幡平御在所地域で地熱発電の事業化に向けた検討で合意した。」とある。
 「地熱発電と温泉利用との共生を目指して」の42〜43ページをみると、その理由がよくわかる。温泉開発のためにボーリングを実施したところ、蒸気が噴出した。そのエネルギーを発電に利用しながら、残った温水を東八幡平温泉郷の別荘・ホテル及び観光施設に分湯している。さらに、松川地熱発電所は観光スポットになっている。

 地元松川荘の声として「地熱発電所の成功に伴って,旅館の経営も順調に伸び,松川荘の現在の発展を招いたも のと思っております。」

 ここまで共存共栄できれば、地熱発電所を誘致するのも当然と言える。ちなみに、松川温泉に行った時の写真を以下に示す。



 松川地熱発電所の冷却塔で地域のシンボルとなっている。


 温水はパイプラインをとおって、山麓の施設に運ばれる。


 松川荘の写真である。



 白濁した濁り湯があふれんばかりに露天風呂に注ぎ込まれている。


 温泉卵もすぐに美味である。


 温泉と地熱発電は共存できる。単に温浴にだけ使うのではなく、再生可能なエネルギー源としても使うという発想の転換が温泉事業者にも求められる。
 先に述べたように、福島の安達太良・磐梯周辺は地熱発電の適地である。周辺には、高湯*1、土湯、土湯峠(野地、新野地、鷲倉、幕川)、岳、磐梯熱海などの名湯がキラ星のように並んでいる。しかし、残念ながら、福島第一原発事故以降、温泉地は閑古鳥が鳴いていると聞く。原発事故の影響は数年〜数十年続く。経済活性化の意味も含め、地熱発電の導入を検討しても良いのではないかと私は思う。