プラザキサ使用に関する日本循環器学会の緊急ステートメント

 JCS - 日本循環器学会より、(8/12)心房細動における抗血栓療法に関する緊急ステートメントについてが出された。プラザキサ(ダビガトラン)使用に関し、気になった点は次の下り。

一方、ビタミン K 非依存性のダビガトランは食物の影響を受け難く、薬剤相互作用も少なく、患者ごとに投与量の調節は原則不要で、血液モニター不要で固定量の投与が出来る点でワルファリンに比較して投与し易い薬剤であることは間違いない。なおかつ RE-LY 試験で示された様に、ワルファリンに比べて出血事象を増加することなく、脳卒中や全身性塞栓症発症率を同等もしくはそれ以上に低下させた事実は、心房細動診療 において積極的にダビガトランによる抗凝固療法を推進する要因となる。確かに、18,113 例で実施された RE-LY 試験の結果は重いが、本試験へ登録された日本人患者が 326 例のみであったことを忘れるべきではない。出血のハイリスク患者に対する日本人での至適用量について、また重度の弁膜症合併例についてもエビデンスは乏しいことから、今後の市販後調査の中で症例を積み上げて、 日本人における安全性と有効性を確認する必要がある。また、禁忌症例への投与も含め、重篤な出血事例が報告されている現状を鑑みると、日本人の至適投与量の確認、より安全な使用のためのモニター法の開発、などを含めて薬剤の特性を十分理解した上で適正に使用することの重要性を循環器専門医として発信していくことが重要である。


 ちょっと待ってくれ、という気持ちになる。市販後調査は臨床試験ではない。インフォームドコンセントも、文書を用いて厳密に行っている訳ではない。循環器専門医だけが使う薬ではない。心房細動がある場合、CHADS2 スコア2点以上にはダビガトラン推奨となっているが、脳卒中TIAの既往だけで2点となる。実質的には、脳卒中後遺症を診る全ての診療科がダビガトランを使用することになる。重篤な出血合併症があった場合、処方した責任をとるのは非専門医である。
 なお、ステートメントには、「除細動時の対応」、「抜歯、手術、生検時の対応」、「出血性合併症時の対応」、「ワルファリンからの切り替え法」、「ダビガトランへの抗血小板療法の追加」、などの項目があり参考になる。ただし、よく読むと、エビデンスはこれからという感じである。
 ワルファリン使用で安定している患者は、ダビガトランに関するエビデンスが蓄積されるまで変更しない方が適当と判断する。なお、納豆を食べたいからと変更を希望する患者には、十分説明をしたうえで切り替える。おそらく、主にダビガトランを使用するのは、心原性脳塞栓後のリハビリテーション目的で転院してきた患者で、ダビガトランが既に投与された者となる。
 なお、ステートメントにはダビガトランからワルファリンへの変更方法についての記載はない。切り替え時にどの程度塞栓症を生じやすいかについてのエビデンスはないからと想像する。したがって、回復期リハビリテーション病棟のような包括性病棟での持ち出しが増えるからという理由でダビガトランをワルファリンに変更することは、参考になるデータがなく、あまり勧められないことになる。