宮城県への全国的なリハビリテーション支援の全体像

 東日本大震災支援に関する会議に参加する中で、宮城県への全国的なリハビリテーション支援の全体像がようやく見えてきた。


 甚大な被害をもたらした東日本大震災だが、地震津波、そして、原発事故の影響が地域によって全く異なる。仙台市中心部では、震災前と同じような生活が営まれている。一方、巨大津波に直撃された気仙沼・南三陸石巻では、ライフラインの復旧不十分であり、長期に避難所暮らしを余儀なくされている。要介護者や虚弱高齢者の生活機能の悪化が危惧されており、地域におけるリハビリテーション機能の強化が急務となっている。
 窮状を打開するため、「東日本大震災リハビリテーション支援関連10団体」 による気仙沼・南三陸石巻地域への支援が開始された。それぞれ次のような活動をしている。


# 気仙沼・南三陸地域
 気仙沼圏地域リハビリテーション広域支援センター(宮城県気仙沼保健福祉事務所)が中心となり、「東日本大震災リハビリテーション支援関連10団体」に支援要請を行った。窓口が一本化された後、情報の共有・伝達・蓄積・活用が容易となった。例えば、気仙沼市全避難所の調査が行われ、400人以上いる避難者のうち30%が生活不活発病であると判断され、その後の介入に役立っている。現在、気仙沼市立病院のリハビリテーション機能充実、福祉避難所へのリハビリテーション支援、地域包括支援センター・かかりつけ医との連携を重点課題として活動が行われている。
 なお、南三陸・地域リハビリテーション支援チームは、宮城県リハビリテーション支援センターチームが担当し、志津川病院を拠点に活動を行っている。


# 石巻地域
 石巻地域では、石巻圏域地域リハビリテーション広域支援センター(東部保健福祉事務所)がコーディネート役となり、「東日本大震災リハビリテーション支援関連10団体」に支援要請を行っている。福祉避難所(桃生農業者トレーニングセンター)を拠点とした活動を行っている。


 気仙沼・南三陸石巻両地域とも、当初は縦割り行政の問題や派遣団体の調整不足により混乱を生じていたが、コーディネーター機能が確保されたことにより、支援体制がスムーズに運営されるようになってきている。前者はもともとリハビリテーション機能を持つ医療機関がなく、療法士数も少ない。一方、後者は回復期リハビリテーション病棟を持つ民間病院が2つ津波の被害にあい、機能を停止している。市内の開業医の3割が被災しており、かかりつけ医機能も低下している。介護施設・事業所の被害も大きい。両地域とも、医療支援とともに、長期的なリハビリテーション支援が必要となっている。


# 東松島〜亘理・山元の状況
 多賀城塩竃・七ヶ浜・松島・利府は、災害拠点病院である坂総合病院内に強力なリハビリテーションチームがあり、避難所でディサービスを行うなどの活動を行っている。仙台市宮城野区では、回復期リハビリテーション機能を持つ東北厚生年金病院と東北公済病院宮城野分院の復旧工事が急ピッチで進んでいる。その他の地域、東松島仙台市若林区、名取、岩沼、亘理・山元に関しては十分な情報がない。「東日本大震災リハビリテーション支援関連10団体」への支援もコーディネートされていない。
 伝え聞く情報をまとめると、現状は次のようになっていると推測する。


1.津波被災地域のリハビリテーション支援対象者数の全体像が把握されていない。
 津波被災地域から、より安全な地域への移住民動が進んでいる。福祉施設への入所なども要因となり、居宅サービスを利用していた要介護者が大幅に減少している。このことは、移動先において介護ニーズが高まっていることも意味する。
 一方、ライフライン途絶、低栄養、低活動状態などの複合的な要因による生活環境悪化、および、感染症、脳血管疾患、骨折などの新たな疾患発症により、「潜在的リハビリテーション支援必要者数」は増大している可能性がある。
 なお、介護保険外のサービスを利用していた障害者・障害児の状況は把握されていない。避難所暮らしに耐えられないため、生活環境が悪化した自宅に留まっているおそれがある。
 震災直後、各圏域の保健所や自治体による調査が行われた。しかし、リハビリテーション関連職種が参加していなかったこともあり、情報共有が行われていない。データも公表されておらず、問い合わせても返事が来ない。「潜在的リハビリテーション支援必要者数」が過小評価されているおそれがある。時間が経つにつれ、要介護状態となる被災者が増加しているのではないかという懸念がある。


2.医療機関、介護事業所が被災し、地域におけるリハビリテーション資源が減少している。
 沿岸部にあった医療機関、介護事業所の被害は大きい。施設被害に加え、以前からの利用者減に介護事業所が悩まされいる。


 最近、知り合いのディサービス管理者から次のような話を聞いた。

  • 自分たちのディサービスも津波の被害にあった。床上浸水をしたため、近隣の住宅を借りて、十数日後に通所介護を再開している。銀行から借金して、元の施設を修復している途中である。民間事業所には全く公的援助がない。被災に伴い、50人の利用者中残っているのは30人に減った。
  • 地域の介護事業所も甚大な被害を受けており、十分なサービスを提供できない状況となっている。しかも、情報が失われ、実態がつかめない。個別に訪問をして、状況を聞いているところである。職員の士気は、高いところと低いところがある。自らも被災している状況で、先の見とおしが立たない施設も少なくない。
  • 海沿いにある特別養護老人ホームが甚大な被害を受けた。入所者は、関連施設であるグループホームに転院オーバーで入れており、生活環境が悪化している。附属する在宅介護支援事業所は、600人ほどの利用者を抱えていた。しかし、震災時にサーバーが失われ、利用者の情報が全くなくなった。どうやら、約1/3が亡くなったか、避難所に入っているようだ。残りのさらに1/3が、施設や遠方の親戚のところにいるらしい。
  • 訪問系サービスは基本的に残っている。ただし、リハビリテーションを提供できる訪問看護ステーション、訪問リハビリテーションは少ない。自分たちのところは、リハの重要性を感じていたので、開設時よりスタッフを募集していた。しかし、なかなか採用にいたらない。今回の震災時、関東から支援に来たPTさんに動作法の援助をしてもらって、大変助かった。


3.コーディネート役の不在が問題となっている
 保健所の業務量が増大しており、リハビリテーション支援が必要な被災者の状況を把握できる余力がなくなっている。また、民間医療機関、介護事業所にとっては、支援チームが無償でサービスを提供することを快く思っていない。津波被災地域は、被害を受けた地域とそうでない地域との間の格差が著しい。様々な因子が絡み合う中で、リハビリテーション対象者を積極的にすくい上げようというコーディネーターが不在のままとなっており、保健所や自治体問い合わせても、「対象者がいない」という返事がなされている可能性がある。


 東松島以南の津波被災地域への対策は、気仙沼・南三陸石巻と同様に必要である。しかし、どのような切り口でアプローチするかが難しい。まずは、リハビリテーション支援対象者、特に震災後に生活機能が低下した者を掘り起こすための調査からとりかかることから始めるべきではないかと思っている。「東日本大震災リハビリテーション支援関連10団体」へ相談をすべきかどうかを検討しているところである。