てんかん発作と交通事故

 てんかん発作に伴う交通事故に関するニュースが2件続けてあった。

 三重県四日市市羽津町の近鉄名古屋線の踏切で、ワゴン車を運転中に自転車の男性3人に追突し、電車と衝突させて死傷させたとして、自動車運転過失致死傷の罪に問われている歯科医師池田哲被告(46)の初公判が20日、津地裁四日市支部であった。池田被告の弁護人は「事故を予見できなかったので過失はないと考えている」と無罪を主張した。

http://www.chunichi.co.jp/s/article/2011042090125436.html

 栃木県鹿沼市で登校中の小学生の列にクレーン車が突っ込み、児童6人が死亡した事故で、県警は20日、自動車運転過失致死容疑で調べを受けている運転手柴田将人容疑者(26)=日光市=が、てんかんの発作を起こしたため、突然意識を失い、事故を起こしたとの見方を固めた。

http://www.asahi.com/national/update/0420/TKY201104200695.html


 てんかん患者の運転については、http://www.ne.jp/asahi/home-office/nak/ept/ept_index.htmlにある、「運転をやめさせるべきか,それが問題」(2008.04.13)という論考が参照になる。

道路交通法という法律をかいつまんで説明しますとと,てんかんを有していても2年以上発作がない場合,あるいは意識を消失しない発作や,夜間に限られる発作の場合には,専用の診断書による審査を経た上で運転が許可される場合がある,とされています.しかし,実際の判断はとっても難しいのです.

法律の問題も守らなければなりませんが,最終的には運転を行う患者さんが自分の能力を総合的に判断して危険かどうか決めなければならないのです.これが運転する側の業務上の責任です.医師は,法律うんぬんだけでなく,自分の患者さんの安全を守ることと患者さんの生活の質を考えなければいけませんし,社会に対する責任も負わなければなりません.


 中里信和先生は、日本初のてんかん科教授である。東北大学大学院医学系研究科運動機能再建学分野の所属であり、東北大学にある4つのリハビリテーション医学講座のひとつを2010年に継いだばかりである。広南病院時代よりお世話になっている。困ったことがあれば、いつも気軽に相談している。
 てんかん自体は命に関わることは少ないが、交通事故、高所からの転落、そして、入浴中の溺水に十分注意するようにと話されたことを覚えている。中でも、交通事故は他者を巻き込む可能性があり、運転免許取得はデリケートな問題である。東北地方のような車社会では、仕事につくためには自家用車免許が求められることが多い。運転中にてんかん発作を起こした若者を救急外来で診た時に、発作を起こしやすいかどうか明らかになるまで運転は禁止と説明したことがあるが、二度と来院しなかった。
 報道された2つの事件いずれも、許しがたい。歯科医という医療職にある人間が、コントロール不良であるにも関わらず、運転中に発作が起こるとは思わなかったと述べている。以前同様の事故を起こしているにも関わらず、クレーン車を運転して6人もの子供の命を奪った。いずれも、自覚が低すぎる点で飲酒運転常習者と同様である。
 このような事件が起きると、てんかん患者に対する偏見が広がってしまう。へたすると、公安委員会用の診断書を記載した医師にも批判の矛先が向かいかねない。医師の方に過度の自主規制が働くと、てんかん患者の社会生活に影響を生じる。真面目に治療を続けているてんかん患者にとって迷惑千万であることは間違いない。