昨日紹介した「グローバリゼーション 人類5万年のドラマ」という書籍の後半部(第8〜10章)を読んで、重要と思える部分をまとめた。
- 作者: ナヤン・チャンダ,友田錫,滝上広水
- 出版社/メーカー: エヌティティ出版
- 発売日: 2009/02/23
- メディア: 単行本
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- 出版社/メーカー: エヌティティ出版
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<総論>
# グローバリゼーションが流行語となった背景
- 20世紀後半の40年を概観してみれば、グローバリゼーションという言葉が取り上げられてきたのは、貿易、投資の拡大や政府、企業の意図的な政策・戦略がもたらした結果と位置づけることができる。
- 技術の進歩が、世界は一つという考え方を強固にした。
- 全世界を一つのマーケットに見立ててビジネスを展開するグローバル企業だけが、長期にわたる成功を収めることができるというビジネス戦略が確立されていった。
- 1995年までには、グローバリゼーションは国境なき生産システムを意味するようになっていた。グローバリゼーションはもはや避けて通れない潮流と見られ、グローバル化は企業の合言葉になった。
# グローバリゼーションの「影の部分」
- 低賃金国へのオフショアが進み、先進国で失業問題が生じた。日本産業のグローバリゼーション・プロセスは「バンブー(空洞)効果」と呼ばれた。
- 1997年のアジア危機の後、経済のグローバリゼーションは多国籍企業による搾取を意味し、天然資源の破壊、途上国の文化伝統の破壊など諸悪の根源とみなされるようになった。
- 1999年に行われたWTO第1回閣僚会合(シアトル)は、反グローバリゼーション運動の高まりの中で中断に追い込まれた。グローバリゼーションは呪われた言葉となった。
# 別の(オルター)グローバリゼーションの模索
- グローバリゼーションは、われわれの時代を支配している現実である。しかし、地球上の全人口のほぼ半数にとっては何の役にも立っていない。グローバルな社会システムを構築しなければグローバルな経済システムは実現しない。(クリントン元大統領へのインタビュー)
- 2001年、グローバリゼーション反対が設立した世界社会フォーラム(WSF)の第1回会議(ポルト・アレグレ、ブラジル)が開かれた。公式モットーは「もうひとつの世界は可能だ」(Another world is possible)だった。
- 世界統合と相互依存の進展はグローバリゼーションが不可逆的なものであることを示すものだと考えられるようになった。2004年の世界経済フォーラム(WEF)では、反対派は「別の(オルター)グローバリゼーション」を強く求めた。
<各論>
# 農業
- 発展途上国の農民たちは、先進国の不公平な補助金制度、半ダンピング条項、非関税障壁が撤廃されない限り、自国経済のさらなる開放はありえないと主張している。先進諸国が湯水のようにつぎ込んだ農業助成金は3000億ドルに上る。
- 農業のグローバリゼーションは、勝者と敗者を生み出し世界を分断したばかりでなく、同じ国の中でも分裂をもたらした。生産業者は自国で進む段階的な市場開放に苦しめられているが、消費者たちは開放経済がもたらす豊富な商品やその低価格の恩恵を受けている。
# 環境破壊
- グローバリゼーションの進展に伴い、森林伐採が世界的に広がり、環境破壊が進んでいる。例えば、中国で高まる大豆需要をまかなうため、数年間でブラジルの熱帯雨林250万エーカー(100万ヘクタール)が開墾された。
- 世界市場に安価な中国製品があふれているが、中国国内だけでなく世界各地に広がる環境汚染という代価を支払うことになった。
# 知的所有権
- 先進諸国におる知的所有権の独占は弱小・貧困国にとってしばしば不利益となる。一方、新技術の開発に取り組んでいる国にとっては、特許権の保護は必要不可欠なルールである。インドは貧しい人びとが安価なジェネリック医薬品を手に入れる機会を奪うと特許権の保護に反対していたが、異議申し立てを取り下げ、知的所有権に対する協定に署名した。
# アウトソーシング
- 海外への仕事のアウトソーシングは、労働力を国外から輸入するのに等しく、結果的に国内の賃金を押し下げていく。
- 「創造的破壊」(既存の産業が成長を遂げ役目を終えると新たな産業が創出されるという主張)は起こらない。母国を離れた仕事が再び戻ってくることはまずない。製造業で一時解雇された大部分の労働者は、サービス業に職を求めたが、収入面では以前と比べガタ減りした。
- 光ファイバーで結ばれた世界では、優れた知的能力を有した開発途上国(言い換えれば、低賃金の熟練労働者を有した国)に、コンピューターネットワークの管理、ビジネスソフトウェアの保守管理・開発などがアウトソーシングされるようになった。その代表がインドである。セネガルにあるコールセンターでも、旧宗主国であるフランスの顧客に対するIT支援サービスが急速に拡大している。
- ヨーロッパでは、手厚い社会保障システムに守られ、アメリカのような労働者の大量解雇などの例はないが、企業は従業員にアウトソーシングという「ダモクレスの剣」をちらつかせ、賃金を抑え込むことに成功した。
# 移民
- 豊かな西側諸国の周辺貧困地域から流入する大量の移民たちにより、仕事を奪われ、自国のアイデンティティまで脅かされる事態が起こっている。
- ヨーロッパで、経済成長と強い労組の共存時代に生まれたのが、社会の二極分化(高所得、好待遇の「自国」労働者と、急増する不就労あるいは失業中の「外国人」労働者)だった。
- 知的人材の大量流出はしばしば途上国の景気停滞や低迷をもたらす。サハラ以南のアフリカ諸国では医療サービスは壊滅状態になった。イギリスの医療サービスの中核はアフリカやアジア出身の医療スタッフが担っている。イギリス北部のマンチェスターで働いているマラウィ人の医師は、本国の全医師より多い。
# 勝者と敗者
「グローバリゼーションは自らの利益を追い求めるアクター(推進者)によって推し進められる一つのプロセス」というのが本書の大命題である。現在進んでいるグローバリゼーションを止めようとしても不可能である。
本書を読むと、日本が抱えている貧困層の拡大、産業空洞化といった課題が我が国独自の課題ではなく、経済のグローバリゼーションという流れの中で捉えるべき課題であることが理解できる。ガラパゴス化などと揶揄されるが、日本語という習得が難しい言語や細かなことにこだわる日本人気質のため、英語圏やフランス語圏で生じている知的作業のアウトソーシング化が起こりにくいことが、相対的に低い失業率につながっている。
歴史をふりかえると、戦争や植民地支配など様々な災厄を経ながら、地球規模の統合や相互依存が進んできた。国家に対する帰属意識が薄れていったグローバル企業を如何に制御するか、先進国と途上国との格差をどのように解消するかなどの課題が山積みとなっている。難題を解決できず破滅への道へと向かうのか、それとも知恵を出し合い調和のとれたコースに修正するのか、人類の知恵が試されている。