医学探偵ジョン・スノウ

 福岡の行き帰りに読んだ本である。

医学探偵ジョン・スノウ―コレラとブロード・ストリートの井戸の謎

医学探偵ジョン・スノウ―コレラとブロード・ストリートの井戸の謎



 19世紀半ばの英国では、致死的な疾患としてコレラが大流行を繰り返していた。当時、感染症という概念がなく、病気の主因は「澱んだ悪しき空気」が原因という「瘴気論」が幅をきかせていた。主人公の医師、ジョン・スノウは斬新な疫学的手法を駆使して、コレラの大流行の原因に迫っていく。医学史を取り扱った本であるが、題名どおり推理小説を思わせる味わいがある。
 当時の世相も興味深い。世界に冠たる大英帝国のお膝元で、当時の労働者階級が狭い住居に押し込まれ、不衛生な環境に置かれていたことがあぶり出される。営利主義の水道会社が供給した水で感染症が広がっていく。水を顕微鏡で除いたスケッチも挿入されている。この図を見せられると、どんなに頼まれても、この時代には暮らしたくないと思えてくる。人類のたゆまぬ英知の上に、現在の生活があることをあらためて思い起こさせてくれる本である。