脳波を使った意思伝達装置

 NHKスペシャルで、「閉じ込め症候群」や「閉じ込め状態」の話が特集された。

 ある種の難病や脳損傷の患者の中に、こうした「閉じ込め症候群」や「閉じ込め状態」と呼ばれる究極のいのちの状態に陥る人が増えている。全身の筋肉が動かなくなる難病を患う照川貞喜さんは、頬のわずかな動きをセンサーに感知させることで意思を伝えている。しかし、照川さんが頬でパソコンを操作して綴った要望書が、今、大きな波紋をよんでいる。「完全な“閉じ込め状態”になったら死なせてほしい。闇夜の世界では生きられない。人生を終わらせることは“栄光ある撤退”であると確信している」。


 残念ながら、私はNHKスペシャルは見ていない。ただ、番組終了後、27年間経過した「閉じ込め症候群」(2008年12月5日)をみて、私のブログを訪れた人が多数いたことに気づいた。そのうちの1人、花姥さんと次のようなコメントをやりとりした。

花姥 2010/03/19 08:47 はじめまして
今朝、閉じ込め症候群という言葉をTVではじめて聞きました。
ネットで検索している内にこちらに辿り着きました。
上記二点についてはなんとか機器を駆使して、意志疎通ができるとしても、
total LiS:眼球運動も含め随意運動が失われた状態。の場合はどうなるのでしょう。
意識ははっきりしているのに、周囲に自分の意志を伝えられない。
自分の意志と関係なくものごとが判断されてしまう。
不安、辛さといった言葉では表現できない重さを感じます。
現在はこのような状態の方に、どういう介護がなされているのでしょう?
また、音楽や音読などのボランティアは可能なのでしょうか。


zundamoon07 2010/03/19 12:10  コメントありがとうございます。
 ご指摘のtotal LiS(眼球運動も含め随意運動が失われた状態)はきわめて珍しい例ですので、実際のリハビリテーションがどのように行われているかはよくわかりません。最も近い状態、代表的な運動ニューロン疾患、ALS(筋萎縮性側策硬化症)の場合では、脳波を使用して意思疎通をする機械の利用が進められています。


 脳波を使った意思伝達装置を実際使っている例に関して、文部科学省平成20年度採択教育GP 重度障害者ICT支援コーディネータ育成・東北福祉大学内にある、『重度障害者ICT支援フォーラム2009』の報告書、全部(11.5MB)の16〜25ページ、坂爪新一先生の講演、「重度身障の人達のコミュニケーション支援技術」に詳しく紹介されている。

 最近,ブレインコンピュータというものが大変進歩してきました。そういうふうな研究をしたいという方もいらっしゃるかもしれません。ここ2,3年です。ですがまだ駄目で,実用には至らないです。脳に電極を埋め込んだり,或いはセンサーを,心電図を採るようなセンサーですが,そのようなものを頭にたくさん着けたり,そんなことがまだ必要です。

 今のところ,きちんと使えるのはこの2つ(別なスライド),テクノスジャパンの脳波検出装置,それからかつての日立,いまのエクセルというところで作っている脳血流計という検出装置,この2つはとにかくユーザーがいます。ただ,脳血流のほうは何か問いかけをして,それに対する答えが約30秒経ってから返ってくるという,そういう性能しかまだありません。30秒ではちょっと遅いのでは,と言っています。2〜3秒で返ってくるのであれば使い物になるかな,と思っております。


 坂爪先生には、以前、入院中の患者でお世話になったことがある。本論文で紹介されたALS患者さんが意思伝達装置を使いこなすことも見たこともある。脳波を使って意思伝達装置を動かすことができるという話もその縁で知っていた。講演内容を読むと、意思伝達装置の設定とALS患者が試行錯誤の末で何とか使いこなせるレベルになったことが分かる。
 意思伝達装置の課題について、坂爪先生が次のようなことを述べている。

 私は、要するに歳をとりすぎました。訪問作業に出るぐらいのことは別に問題はないのですが,ひとつの訪問に対して何時間か,或いは何日かの準備作業が必要になります。そういう作業がどうも最近ちょっと難しくなったなと,そろそろ撤退しなくてはいけないのかなと思っています。

 それに関連しまして,さっきの講演の中で,一体どれぐらいの件数の支援をやっているのかという表をお見せいたしました。私の方では140件くらい,みやぎ障害者ITサポートセンターで50件くらい,差し上げた資料には載っております。それから宮城県介護センターでおよそ100件。わたしはこう思うのです。こういう人たちの生活を保証しなくていいのですか?という問題です。これは行政の役割じゃないのかなと私は思います。今,お二人の判定のお話がでましたけれども,判定して支給したあとのサポート,支援はどうするのか。こっちではできないからそっちでやって下さいよと,そう依頼をされても,依頼される側はかなりボランティアベースなのが現状なわけです。それではまずいのではないでしょうか。


 意思伝達装置の適応や設定などはリハビリテーション専門職が工学技術者と協力しながら行うのが望ましい。リハビリテーション専門職の方は、診療報酬から補填できるが、工学技術者は全くのボランティアとなっている。技術の進歩に制度が追いついていない。坂爪先生が引退するまであと1年ほどとなっている。