がん患者リハビリテーション料新設の背景

 2010年度診療報酬改定で、がん患者リハビリテーション料 200点(1単位につき)、が新設された。厚生労働省:第169回中央社会保険医療協議会総会資料の中にある資料(総−1)(PDF:2,050KB)、46〜47ページより該当部分を引用する。

3.がんに対するリハビリテーションの評価
 がん患者が手術・放射線治療・化学療法等の治療を受ける際、これらの治療によって合併症や機能障害を生じることが予想されるため、治療前あるいは治療後早期からリハビリテーションを行うことで機能低下を最小限に抑え、早期回復を図る取組を評価する。


○新 がん患者リハビリテーション料 200点(1単位につき)


[算定要件]
(1) 対象者に対して、がん患者リハビリテーションに関する研修を終了した理学療法士作業療法士言語聴覚士が個別に20分以上のリハビリテーションが提供された場合に1単位として算定する。
(2) がん患者に対してリハビリテーションを行う際には、定期的な医師の診察結果に基づき、医師、看護師、理学療法士作業療法士言語聴覚士社会福祉士等の多職種が共同してリハビリテーション計画を作成すること。
(3) がんのリハビリテーションに従事する者は、積極的にキャンサーボードに参加することが望ましい。


[対象患者]
(1) 食道がん・肺がん・縦隔腫瘍・胃がん、肝臓がん、胆嚢がん、膵臓がん、大腸がんと診断され、当該入院中に閉鎖循環式麻酔により手術が施行された又は施行される予定の患者
(2) 舌がん、口腔がん、咽頭がん喉頭がん、その他頸部リンパ節郭清を必要とするがんにより入院し、当該入院中に放射線治療あるいは閉鎖循環式麻酔による手術が施行された又は施行される予定の患者
(3) 乳がんに対し、腋窩リンパ節郭清を伴う悪性腫瘍手術が施行された又は施行される予定の患者
(4) 骨軟部腫瘍又はがんの骨転移により当該入院中に患肢温存術又は切断術、創外固定又はピン固定等の固定術、化学療法もしくは放射線治療が施行された又は施行される予定の患者
(5) 原発性脳腫瘍又は転移性脳腫瘍の患者で当該入院中に手術又は放射線治療が施行された又は施行される予定の患者
(6) 血液腫瘍により当該入院中に化学療法又は造血幹細胞移植を行う予定又は行った患者
(7) がん患者であって、当該入院中に骨髄抑制を来しうる化学療法を行う予定の患者又は行った患者
(8) 緩和ケア主体で治療を行っている進行がん、末期がんの患者であって、症状増悪のため一時的に入院加療を行っており、在宅復帰を目的としたリハビリテーションが必要な患者


[施設基準]
(1) がん患者のリハビリテーションに関する経験(研修要件あり)を有する専任の医師が配置されていること。
(2) がん患者のリハビリテーションに関する経験を有する専従の理学療法士作業療法士言語聴覚士の中から2名が配置されていること。
(3) 100m2以上の機能訓練室があり、その他必要な器具が備えられていること。


 がん患者リハビリテーション料について、2月3日に行われた中医協で集中的に論議された。厚生労働省:第165回中央社会保険医療協議会総会資料の中にある、資料(参考−1−1)(PDF:174KB)資料(参考−1−2)(PDF:383KB)が該当資料である。


 さらに、医学書院/週刊医学界新聞(第2869号 2010年03月01日)で、辻哲也先生(慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室)が、「知っておきたいがんのリハビリテーション」という論文を寄稿している。辻哲也先生は、昨年信州で行われた日本リハビリテーション医学会専門医会でも、同じテーマで講演をしている。


 辻哲也先生の論文を読むと、がん患者リハビリテーション料が新設された背景が理解できる。 2015年にがん患者は533万人とピークを迎えることを指摘したうえで、次のような記載がされている。

 欧米では,がんのリハビリはがん治療の重要な一分野として認識されています。例えば,米国有数の高度がん専門医療機関であるMD アンダーソンがんセンターでは,脳・脊椎センター,乳腺センターなど19のケアセンターのひとつに,緩和ケアとリハビリテーション部門が治療の柱として位置付けられています。


 一方,わが国においては,診療科としてリハビリ科を有するがんセンターはまだ少なく,大学病院や地域の基幹病院においても専門外来としてがんのリハビリが運営されている医療機関はほとんどない状況で,欧米と比較してその対応が遅れていることは否めません。


 このような現状の中,静岡県立静岡がんセンターが2002年にがんセンターとして初めてリハビリ科専門医と複数の療法士から構成される施設として開院しました。筆者は縁あって,開院準備から臨床業務に携わってきましたが,リハビリ科への依頼は増加する一方で,潜在的な需要の大きさを身をもって感じてきました。今後,全国の高度がん専門医療機関においてもリハビリスタッフの拡充の流れが広がっていくことを願っています。


 専門医会でメモした内容をみると、静岡がんセンターは、リハビリテーション専門医1名、PT5名、OT4名で始め、1年間に1162名の新患を診たということだった。目が回るような忙しさである。しかし、手術前の介入は請求できず、緩和ケアではリハビリテーション料は包括性となっている。先進的な取組みではあるが、経営的には完全な赤字部門である。
 200点という点数と専従スタッフ2名という診療報酬上の規定は、ゼロから始める場合には敷居が低く魅力的である。しかし、脳血管疾患リハビリテーション料I算定病院では、廃用症候群の点数よりは下がる。術前はがん患者リハビリテーション料200点、術後は脳血管疾患リハビリテーション料I(廃用症候群)235点という運用になるのではないかと予測する。
 いずれにせよ、リハビリテーション科医師やリハビリテーション専門職にとって、がん患者に対するリハビリテーションは挑戦すべき課題であることは間違いない。