柔道整復療養費問題に関する業界団体の危機意識

 柔道整復療養費不正請求問題が社会問題化している。社団JB日本接骨師会、第1回柔道整復診療と療養費の問題協議会速記録.pdfより、業界団体の問題意識に関して紹介する。なお、本協議会は2009年10月12日に行われた。


 協議会代表松原伸行氏のあいさつより関連する部分を抜粋する。

 まず、平成11年・東京新聞、平成14年・毎日新聞柔道整復師に対する批判的なキャンペーンが行われました。

 それから時がたって、昨年の6月に、朝日新聞がまた同じように柔道整復師に対する批判的なキャンペーンを行いました。

 会計検査院は、我々業界の調査を行いました。確かに新聞記者が言うように、我々の業界はかなり療養費の不正を行っている人たちがふえている。減っているんではなく、ふえている。私たちはかなり危機感を持ちました。このままでは業界が駄目になってしまう。そういう危機感を持ちました。
 そして、この業界を代表する人たち、社団法人の日整さんと我々は呼んでいるんですけれども、そういう団体があります。全国の柔道整復師の3割強が属している大きな団体でございます。社団法人でありますから、厚生労働省や行政とパイプを持っています。そこに働きかけて、こういうような新聞という公器を使った柔整師に対する批判、問題点の指摘に対して公に我々柔道整復師は反論するなり、答えを出す、我々が内部を変えていくんだと、回答を出す必要があるんじゃないだろうかということを、再三にわたって社団法人の幹部の方とお会いして、話し合いを持ちました。
 しかしながら、社団法人の幹部7人たちは、また我々とかなりスタンスが違っておりました。それはその当時、自民党の政治家に政治献金することによって、我々の業界を守ろうというスタンスでございました。

 朝日新聞のキャンペーンが数カ月にわたって行われまして、その後とまったんですけれども、そのことに関して、社団法人の方もいらっしゃるんで言いにくいんですけれども、ある社団法人の幹部の先生にお聞きしました。どう思うんですかと、聞いたことがあります。1カ月ぐらい前でしたか。そしたら、その先生がおっしゃいました。我々はいろいろ働きかけた結果、マスコミを理解したんだ。柔道整復師が社会にとって必要なんだということを朝日もわかったから、キャンペーンをやめたんだ。そういうふうにおっしゃっていました。1週間ほど前、朝日に書いた朝日新聞の記者に直接電話してみました。その後どうでしょうか。こう言われました。あなたたちは詐欺集団で駄目な業界なんだ。そういうふうに言われました。


 社団法人の日整さんとは、公益社団法人 日本柔道整復師会のことである。時の権力者にすり寄り、既成権益を維持することに腐心したことが暴露されている。鯛は頭から腐るとは、このことを言う。
 本協議会を開催した社団JB日本接骨師会も柔道整復師団体の一つである。日本柔道整復師会と比べ、まともな主張をしているように思える。ただし、速記録を読めばわかるように、彼らの最大の関心時は柔道整復療養費委任払い制度維持である。保険診療ができなくなることに対する危機感が行動の源泉となっている。
 社団JB日本接骨師会の政策は、第3回柔道整復診療と療養費の問題協議会レジメ.pdfに記載されている。(仮称)療養費受領認定柔道整復師というより上位の資格を作り、柔道整復師の質を高めることにより、療養費委任払い制度を維持するという路線である。
 残念ながら、新たな認定制度は日の目を見ることはない。まず、業界団体が一枚岩となっていない。また、関連する医療団体、特に整形外科医団体の協力が得られるはずもない。そして、度重なる不正事件により柔道整復師という資格に対する世間の目が冷たくなっている。
 医師に対等に近い地位を得たいという願望が速記録から伺える。しかし、私の目から見て、柔道整復師は既に歴史的使命を終えた存在としか思えない。本来の業務対象である脱臼・骨折患者は整形外科のもとを訪れる。慢性骨関節疾患を扱おうと思っても、担当する医療職は他にもある。若くして開業できるというメリット以外、柔道整復師を特徴づけるものがない。
 医師の指示書があれば、治療行為ができるという制度を新たに作るとする。一定の経験を有するという前提で、柔道整復師の他に、整体師、鍼灸師、そして、リハビリテーション専門職である理学療法士作業療法士言語聴覚士が開業権を持つとした場合、患者はどの職種を選択するのか。身体障害がある者は、間違いなくリハビリテーション専門職を選ぶ。疼痛治療を望む者は、鍼灸師を選択するかもしれない。療養費委任払い制度に守られ安穏をむさぼってきた柔道整復師が、他職種との競争に勝てるとは到底思えない。