賀来満夫教授講演「新型インフルエンザにおける感染症危機管理」メモ

 本日、東北大学大学院医学系研究科感染制御・検査診断学分野教授賀来満夫先生の講演、「新型インフルエンザにおける感染症危機管理」を聞いた。メモした内容を記載する。


1.危機管理の基本
 判明している情報の把握・解析 → 的確な行動・対応


# 判明している情報の把握・解析

  • 若年者の感染例が多く、高齢者は少ない。
  • 感染率は通常のインフルエンザよりやや高いと考えられている。
  • 新型インフルエンザウイルスの病原性は中等度。
  • 新型インフルエンザの症例死亡率は国より異なる。
  • 基礎疾患(糖尿病、循環器呼吸器慢性疾患、自己免疫疾患)や妊婦では重症例、死亡例がみられる。
    • ただし、健康な若い人でも重症例がある。


# 的確な行動・対応

  • 既に感染はコミュニティに広がっていると考える。
  • 病原性は高くなく、タミフルリレンザが有効であるため、冷静に対応していく。
  • 健康な人も含めて、咳エチケットや手洗い、マスクなどできる限りのことをして感染拡大を防ぐ。
  • 第2波(秋以降)の発生に備えた医療体制を充実させる。
  • リスクファクターを持つ方への感染拡大を防ぐ。
  • 重症化を防止する。


2.具体的対応
(1)個人・組織:感染予防の徹底
 うつされない、うつさないためにできるだけ多くのフィルターをかける。100%防ぐことは困難。リスク軽減という考え方に基づき対応していく。

  • 咳エチケット
  • マスク
  • 手洗い
  • 消毒薬
  • うがい
  • 抗ウイルス薬、ワクチン


(2)飛沫感染接触感染対策が基本
 インフルエンザは飛沫感染。空気感染ではない。2m以上離れていれば感染しない。
 接触感染対策も重要。咳、くしゃみをした時に手についたウイルスがドアノブなどにつく。そのドアノブなどを触った人が手を口に持ってくると、感染する。
 WHOの医療施設における感染伝播予防対策では、標準予防策+飛沫感染対策が基本となっている。このうち標準予防策が接触感染対策となる。手洗いの徹底が重要。また、インフルエンザウイルスはアルコール計消毒剤が効果的。
 飛沫感染対策には、患者の配置、マスクの着用がある。
 入院の場合には、患者を個室に入れる、ベッド間を2m離すなどが大事。
 外来の場合、一般の患者と発熱患者の接点をできるだけ避ける。リスクファクターのある患者は長期処方とする。
 換気も重要。SARS飛沫感染だった。換気を良くすることでSARSを制圧したという教訓がある。
 マスク着用は飛沫感染予防に重要。医療者だけでなく、発熱患者も必ずつける。流行期になるとマスクはなくなる。今のうちからマイマスクを確保しておくように患者に伝えていて欲しい。
 マスクが感染予防に効果がないという意見がある。しかし、マスクを着用するかどうかは文化の違いが大きい。欧米では、咳エチケットを強調する。ティッシュで口を覆い、そのティッシュをすぐにゴミ箱に捨て、さらに飛沫がついた手を早めに洗うということが推奨されている。しかし、街中ではゴミ箱も手洗いをする場所もない。それよりは、人ごみの中でマスクをつけた方が良い。花粉症対策もあり、日本ではコンビニで高性能のマスクが購入できる。こんな国は世界を探してもない。WHOの会議でマスクを持っていたところ、種類の多さに驚かれた。SARSで陣頭指揮に立った香港の研究者Seto氏も、アジアではマスク文化があることを強調している。


(3)組織としての対応
 発熱外来システムは、神戸の例をみてもわかるとおり、破綻した。開業医をまきこみ、機能分化と連携で対応する仙台方式が注目されている。
 クラスタアウトブレイクへの気づきと重症化防止への対応に心がけて欲しい。クラスタアウトブレイクとは、小流行のことである。
 インフルエンザの症状として、発熱や呼吸器症状があるが、米国では消化器症状(下痢、嘔吐)も多かったので気をつけて欲しい。
 感染を起こしやすい場所は、家庭41.1%、学校28.6%、職場23.3%。コミュニティは3.7%と少ない。さらに、日本の場合は、医療機関や公共交通機関がある。問診時に、家庭や学校、職場で同じような症状のものがいないかを聞く。
 重症化対策としては、抗ウイルス剤の早期投与が重要。接触者への予防投与も考慮して良い。二次性細菌感染を起こすと命に関わる。スペインかぜの死者は96%が二次性細菌感染だった。季節性インフルエンザは上気道に感染することがほとんどだが、新型インフルエンザでは下気道感染を起こしやすい。呼吸器症状の強い例では、搬送・紹介のタイミングを考慮する。