要介護で身寄りのない生活保護受給者が貧困ビジネスのターゲットに!

 要介護で身寄りのない生活保護受給者が、行政の加担のもと、貧困ビジネスのターゲットにされている。

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 われわれ取材班が、山梨県内の、ある「無届け老人ホーム」の存在を知ったのは、昨年11月、一通の内部告発文書がきっかけだった。


(中略)


 案内された15畳ほどの部屋には7つのベッドが置かれていた。本来「有料老人ホーム」は、都道府県の指針により、「個室」が求められているが、明らかにここはその指針に反していた。さらに、目隠しのないままポータブルトイレが置かれ、目の不自由な入居者にそこで用を足させていたのだ。


 施設の入居者31人のうち、28人は東京都内から来た生活保護受給者。都内には低料金で入れる施設がないため、多くはここに留まらざるを得ないという。


(中略)


 悪質な「無届け老人ホーム」は、生活保護受給者など低所得者を集めているのが特徴だ。ではなぜ、“低所得者”を狙うのかーー。


 その答えを探るべく、去年1月に経営者が行政処分を受けて閉鎖に追い込まれた千葉県内のある無届け老人ホームを取材した。生活保護の高齢者を集め、年間9000万円近い収入を得ていたこの施設は、どのようにして利益をあげていたのか。

低所得の高齢者を狙う貧困ビジネス 「無届け老人ホーム」の闇(1ページ) | ダイヤモンド・オンライン

 さらに、生活保護費以上に儲けられるのが「介護報酬」だったという。当時の入居者のケアプランを検証すると、ひと月に受けられる限度額近くまでサービスを行なったとして介護報酬を請求していた。しかし実際には、そうしたサービスはほとんど行なっておらず、不正請求額は10ヵ月で3800万円にも達していた。


 なぜ、介護保険制度が悪用できたのかーー。 監査を行なった千葉県によると、本来は利用者の側に立つべき「ケアマネジャー」が不正に関わっていたためだという。


(中略)


 3月におきた群馬県渋川市の老人施設の火災は、記憶に新しい。この事件は、入居者の多くが都内の生活保護受給者であり、そうした施設を紹介していたのが都内各区の福祉事務所だった、という現実を世間に知らしめた。


 ではその後、行政の対策はどうなっているのかーー。 葛飾区の福祉事務所を訪ねると、そこでは今でもなお、介護の必要な低所得者を都外に送り出し続けていた。都内の受け入れ先が圧倒的に不足しているため、止められないというのだ。

低所得の高齢者を狙う貧困ビジネス 「無届け老人ホーム」の闇(2ページ) | ダイヤモンド・オンライン

取材を振り返って【鎌田靖のキャスター日記】


(中略)


 もちろんすべての施設に問題があるというわけではありません。しかし行政のチェックを受けることを嫌がる施設側。そして届け出がないことを理由に十分な指導をしない行政側。その狭間で声を上げられないまま、劣悪な環境の中で過ごす低所得の高齢者がいることは紛れもない事実です。


(中略)


 担当ディレクターによると、取材した自治体の複数の担当者から「この問題を取り上げると“パンドラの箱”を開けることになりますよ」と言われたそうです。群馬県渋川市の施設の火災が起きる前、無届け老人ホームをめぐる問題がまだ一般に知られていなかった頃です。都市の生活保護受給者が地方の無届け施設に押し込まれ、行政はそれを見て見ぬふりをしている、その実態が明らかになるのを恐れたのでしょう。


 しかし自治体の担当者の言う“パンドラの箱”は開いてしまったのです。ギリシャ神話ではパンドラの箱には最後に希望が残されたとされます。そうであるなら、私たちの社会がこれからなすべきは、高齢者のための“希望”を見つけ出すことではないでしょうか。


※この記事は、NHKで放送中のドキュメンタリー番組『追跡!AtoZ』第2回(4月25日放送)の内容を、ウェブ向けに再構成したものです。

低所得の高齢者を狙う貧困ビジネス 「無届け老人ホーム」の闇(3ページ) | ダイヤモンド・オンライン


 身寄りがなく、かつ、自宅もない要介護者の行き先がなくなっている。特に、地価の高く、介護施設の絶対数が少ない都市部でその傾向が顕著である。本ドキュメンタリーで提起された内容は、介護事業者による明らかな虐待である。本来なら、行政自らが告発すべき対象である。しかし、現実には、“パンドラの箱”という言葉で示されているように都市部の生活保護担当者の暗黙の了解のもとで、これら虐待は放置されている。しかし、責められるのは悪質な介護事業者や行政だけではない。


 栄養状態が悪く、健康管理もされていない高齢者は、脳卒中や肺炎等の急性疾患にかかると救急病院に搬送される。治療が一段落しても、転院先がないためにベッドを占有し、病院全体の在院日数を延長させる。急性期医療機関にとっては死活問題である。生活保護の方なら喜んで引き取るという居住施設は渡りに船となる。
 回復期リハビリテーション病棟にとっても同様の問題がある。在宅等復帰率60%以上という条件をクリアするためには、老人保健施設へ入所させるより有料老人ホーム等の居住施設への入居を勧めた方が良い。
 医療機関側が退院先を探しに四苦八苦する中で悪質の介護事業者がつけいる隙が生まれている。安全で安定した生活をおくることよりは、目先の障壁を乗り越えることが優先されてしまう。
 悪質事業者は、他者の干渉を嫌う。したがって、正体の知れぬ事業者の場合には意識的に訪問活動をするようにしている。見学に行く、退院前訪問をするなどの活動を拒否するような事業所には患者をお願いしない。良質の事業者との連携を強め、悪質な事業者をあぶり出すという姿勢を医療機関側が示すことが重要ではないかと考えている。