要介護認定選択基準変更「研究事業」の対象はわずか86人

 要介護認定選択基準変更「研究事業」の対象はわずか86人だった。

 鈴木課長は、16日に行われた前回のヒアリングで挙がった質問事項などについて回答した。
 厚労省は新たな要介護認定制度について、「モデル事業」と「研究事業」の二本立てで検証を行ったが、「モデル事業」は3万817人を対象に行った一方で、「研究事業」は対象が86人だったことについて、前回のヒアリングで疑問の声が上がっていた。
 鈴木課長は、「研究事業」では、2007年度に5都市(札幌市、愛知県高浜市、神戸市、岡山県総社市、福岡県久留米市)で、調査員が同行し、現行の認定調査と併せて新たな方法による調査を実施したとし、調査対象から同意を得る必要があるなど手間のかかる調査だったと説明したほか、対象者の恣意的な選定もなかったとした。
 「研究事業」の対象の86人は、男性25人、女性61人。また、施設介護が12人、在宅介護が74人だったという。
 調査の結果、一次判定では「一致」62%、「重度に判定」13%、「軽度に判定」26%で、二次判定では「一致」69%、「重度に判定」21%、「軽度に判定」11%になったとした。

http://www.cabrain.net/news/article/newsId/21713.html


 この件に関しては、民主党大河原雅子参議院議員から次のような質問趣意書(平成21年3月18日付)が提出されていた。

一 要介護認定改定について


 今回の要介護認定の改定にあたっては、二〇〇六年度に現行の訪問調査項目八十二調査項目に百十項目を追加して、施設サービス利用者を対象に「高齢者介護実態調査」が実施された。その後、第一次モデル事業では、合計百九十二項目から百四項目を削除し、実施された。そして、二〇〇八年度には、合計八十八項目から十四項目を削除し、コンピューターによる一次判定ロジックも変更して、第二次モデル事業が実施された。それらの結果をもとに、二〇〇九年度からの要介護認定の改定を実施予定と理解していたが、二〇〇九年二月に公表された『要介護認定調査員テキスト二〇〇九』では、認定調査員による訪問調査項目の選択基準についても変更が加えられていることが明らかになった。
1 選択基準の変更については、二〇〇六年度に研究事業が行われたとのことだが、研究事業の調査対象者数、現行の認定結果との相違など、具体的な研究結果について示されたい。
2 二〇〇九年度から実施される要介護認定に先立ち、二〇〇八年度に第二次モデル事業が行われたが、選択基準の変更は盛り込まれていなかったと認識している。なぜ、選択基準の変更を加えずに、第二次モデル事業を実施したのか、その理由を示されたい。

http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/syuisyo/171/syuh/s171088.htm


 この質問に関する答弁書(平成21年3月27日付)は次のとおりであった。

一の1について


 御指摘の研究事業は、平成十八年度の老人保健健康増進等事業において実施された「新たな高齢者の心身の状態の評価指標の作成及び検証に関する調査研究」を指すものと考えるが、同研究においては、認定調査員が要介護認定に係る調査項目(以下「認定調査項目」という。)に掲げられた選択肢を選択する際の基準に関する研究が行われ、新基準の原案が作成されたが、当該原案に基づく認定結果と現行基準に基づく認定結果の比較等の研究は行われていない。その後、平成十九年度の老人保健健康増進等事業において実施された「要介護認定調査の質向上を目途とし作成された新マニュアルと旧マニュアルとの相違に関する検討事業」において、八十六名を対象とし、要介護認定の二次判定結果の比較を行ったところ、現行基準に基づく判定より重度に判定された者が約二十一パーセント、軽度に判定された者が約十一パーセントとなっている。


一の2について


 お尋ねの平成二十年度に実施した要介護認定モデル事業(以下「第二次モデル事業」という。)は、一次判定におけるコンピュータ判定ソフトの変更が同判定結果に及ぼす影響及び二次判定における介護認定審査会(以下「審査会」という。)の審査用資料の変更が同判定結果に及ぼす影響について、検証を行うことを目的とするものであり、認定調査項目の選択基準の変更を同時に行った場合には、これらの検証が困難となることから、選択基準の変更を行わず第二次モデル事業を実施したものである。

http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/syuisyo/171/touh/t171088.htm


 要介護認定に大きな影響を与える選択基準の変更に関し、厚労省はわずか86人を対象とした「研究事業」の結果を基に、大きな影響はないと宣伝している。しかし、厚生労働省:介護保険事業状況報告(暫定)(平成20年9月分)をみると、要介護(要支援)認定者数は、全国で約462万人もいる。しかも、「研究事業」が行われたのは平成19年度である。多数を対象とした調査を行う時間的余裕も間違いなくあった。平成20年度のモデル事業がその好機だったが、実際には選択基準の変更をしたうえでの調査は実施されなかった。直前まで選択基準の変更を隠しとおそうという作為を感じる。

 鈴木課長は、新要介護認定の結果が市町村から上がってくるのは6月10日ごろとし、そのデータをまとめて、前回の要介護度との違い、一次判定との違いを見た上で、なるべく早く「要介護認定の見直しに係る検証・検討会」で検証したいと説明した。さらに、「7月には何とかまとめて提示したいが、結論を出すのはあくまでも検証・検討会」と付け加えた。

http://www.cabrain.net/news/article/newsId/21713.html


 本来なら、平成20年度中に行わなければならなかった検証作業を現在進行形で実施せざるをえない状況に厚労省は追い込まれている。一次判定で「軽度に判定」となる者が大幅に増加した場合、厚労省官僚はどのような申し開きをするのだろうか。